Jimmelle & Rayman I

あにらむあみにむ

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9.摩擦

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 ノートPCを前に、今日のフィードバックをまとめる。自分がキーボードを打つ音と、レイのベイプの音しかないこの時間は心地よかった。
 展示期間中は、かつてレイが暮らしていたという部屋に身を寄せている。親族が持つというこのマンションは、いわば小規模なホテルマンションのようなものだった。おかげでスタッフも他の空き部屋を借りることが出来ている。長い宿泊費をこのような形で抑えられたのは幸運だ。
 「ジム、君と話したい」
 水蒸気を堪能し終えたらしいレイが声をかけながら、テーブルの向かいに座る。ちょうど文章を打ち込み終えたところだ。データの保存を見届けてからPCを端に退かした。
 「スタッフ候補の彼について、ジムの意見を聞きたいんだ」
 「意見ねぇ……」
 この話題が出ることは予測していた。俺のことによく気が付くこいつは、俺がまだ納得していないことにも気付いていたのだろう。
 レイは、そういう奴だ。好き勝手に物事を決めて勝手に仕事を取ったり人を迎えたりしているように見えて、実際は周囲の納得や合意を必ず得てから遂行する。だからこうして、俺にも配慮をしている。
 「今回、これまでスタッフを迎えてきた時とは、君の様子が違うと、僕は感じている。けれど、君は……君の言葉は僕にとって、君の考えを知るにはあまりにも少ない。何を考えているか知りたいんだ」
 妙に整った言葉選びや並びは、レイがよく考えながら話しているときに聞く話し方だった。考えているのは、相手のこと――つまり俺の状態。俺の表情、目線、息遣い、手の置き方……それらをごく自然に観察している。相手の言葉の情報量が足りないとき、そしてそれを言葉で引き出せないとき、レイはそうした非言語の部分で情報を補って話を進める。
 要は、気遣いしいなのだ。だから――なんとなく、意地悪な気が働いた。
 「どう考えてると思う? 当ててみろよ」
 笑って言う俺の言葉にレイは眉を寄せたが、すぐに素直に考える。
 「……納得していない。だから、それは…………ジムの仕事に関わるから?」
 「……ほぼ正解だと思うぜ」
 「ちょっと……待ってくれ。だって、それは……本当に、状況を変える必要が無いと思ってるのか?」
 「思ってるね。現に事務方は俺だけで回せている」
 「そうじゃなくて、これは、仕事量の話だ。ジム、君が引き受けてくれている内容は普通じゃない。量が多いこともそうだけど、実際、今では他のスタッフに任せていいようなことだって、昔から君が担っているままだ」
 「俺がそうしているからだ」
 「そう、だから、それを、僕が長い間そのままにしてしまったんだ。本来なら、もっと、君はマネジメントに集中することができた。他の、誰でもできるような仕事じゃなくて――」
 「じゃあ訊くが、そいつには何をやらせるんだ? お前と同じ言葉が使えて、ITに強い即戦力、若くて体力もある。結構だ。俺の仕事を分散させるっつったな。言葉も通じない、調整しなければいけない、クソガキに、仕事を教えるのは誰だ? 俺が時間をかけて、俺の仕事を割り振るために、俺が教えるのか? 俺は現状を変える必要性を感じていない」
 「それは……はじめのうちは、確かにそうだ。けど――……いや、ちょっと、待ってくれ。何が……君は、何にそんなに不安を感じているんだ?」
 ――“読み取られた”と思った。自分でも薄々気付いていた、形容しがたい嫌悪感。
 「……この話はまた今度にしてくれ。俺はもう休む」そう言って椅子から立つ。
 「ちょっと待って、ジム」
 呼び止められて、もともと顰めていた眉間がさらに強張る。だが、こいつ相手に身構える必要はなかったとすぐにわかった。
 「ありがとう、話してくれて」
 「…………」
 こいつの、こういうところが無防備だとつくづく思う。
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