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11.防護
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レイマン。業界では中堅となった、絶賛活躍中のデザイナー。圧倒的なデザインセンスと独特のファッション、そして作り上げてきたデザイナーとしてのペルソナにより、作品だけでなく彼女自身のファンも少なからず付いてきた。ただし、今回の展示会は本拠地ではない国での進出的開催となるため、多くの来場者は企業の人間か同業者、そして作品に興味を持って来た一般の客である。つまり、レイマンという“人物単体”を目的に来る客はいなかった。
――あの男を除いて。
つい先程会場で起きた光景を思い出し、また気が立ってくる。会場の外で待ち伏せされている可能性を考え、通路からエントランス、出入り口まで早足に歩いて確認する。そうして姿が見えないことを確認してから、通路にあった適当な自販機でコーヒーを2本買った。自分用のブラックと、この国でしか見たことのない黄色と茶色のラベルをした、馬鹿みたいにクソ甘くて飲めたもんじゃないふざけたやつ。
こういう、落差的要素が隙だといつも思う。
見た目は小柄だが、服装は自分の作品を纏っていて主張が強い。それでいながら本人自身の雰囲気は静かで、メイクもわざと影を帯びてダウナー。異国の顔立ちと独特のヘアスタイルは中性的に見え、それがより彼女をミステリアスに演出していた。洗練された立ち振る舞いと、徹底して丁寧な言葉遣い。それらすべてに、デザイナーとしての強い矜持がある。
この存在感に圧倒される奴は、話しかけることもしない。隙の無い、強固な、若き人気デザイナー。
だが実際は、人柄に問題――俺が思うところの――がある。元々外向的でないのに、必要なことだからと懸命に多くの人間と交流する様を見れば、誰でも気付くだろう。時折見せる妙な言葉選びは、まだ言語が完全には流暢でないからだとも、話せばすぐに気付く。いつも無表情に見えて案外すぐに破顔することにも、どんなちょっとしたことへも簡単に礼を言うことにも、打ち解けた相手にはスキンシップが多いことにも、ガキが飲むようなクソ甘いミルクコーヒーが好きな甘党であることにも。誰でも気付くだろう、つまり、良い奴なのだと。隙が無いように見せて、隙しかないような女なのだ。
……そんなあいつに、わざわざ閉場間際に来て、作品ではなく本人に関心を見せ、距離が近く、親し気に話すが、しかし雰囲気はただならず――なによりあいつ自身が拒否反応を起こしている、異性。
「どう考えても昔の男だろ」と――口にはせず、ただ腹立たしく顔をしかめる。
昔の恋愛がどうだったかなんて、わざわざ聞いたことはない。ただ、いつだったかそうした話の流れになった折に、本人はただ「無い」と言っていた。そのときには経験自体を否定していたのかと思っていたが、そういうわけでもなかったようだ。
ただ――光景を思い返して、ほくそ笑む――あんなちんけな牽制ひとつで逃げ帰る姿には、胸がスッとした。
レイはパーソナルスペースが人よりかなり広いが、気を許した相手には、驚くほど距離が近い。だから、あえて顔を寄せ、腰を抱き、見せつけた。俺がどれだけ気を許されているか、特別な枠にいるか。彼女を知る人間なら、それだけで解っただろう。……それを感じ取ってその場から消えたからこそ、そいつがレイを良く知る――つまり昔の男であることを確信したわけだが。
しかし、まあ、大したことなかった。牽制ひとつで追い払われ、彼女にも「無い」と語らせるような相手だ。
――取るに足らない。
そうして心中に満足感を湛えて会場に戻ったところで、目にした光景はまたクソだった。
――あの男を除いて。
つい先程会場で起きた光景を思い出し、また気が立ってくる。会場の外で待ち伏せされている可能性を考え、通路からエントランス、出入り口まで早足に歩いて確認する。そうして姿が見えないことを確認してから、通路にあった適当な自販機でコーヒーを2本買った。自分用のブラックと、この国でしか見たことのない黄色と茶色のラベルをした、馬鹿みたいにクソ甘くて飲めたもんじゃないふざけたやつ。
こういう、落差的要素が隙だといつも思う。
見た目は小柄だが、服装は自分の作品を纏っていて主張が強い。それでいながら本人自身の雰囲気は静かで、メイクもわざと影を帯びてダウナー。異国の顔立ちと独特のヘアスタイルは中性的に見え、それがより彼女をミステリアスに演出していた。洗練された立ち振る舞いと、徹底して丁寧な言葉遣い。それらすべてに、デザイナーとしての強い矜持がある。
この存在感に圧倒される奴は、話しかけることもしない。隙の無い、強固な、若き人気デザイナー。
だが実際は、人柄に問題――俺が思うところの――がある。元々外向的でないのに、必要なことだからと懸命に多くの人間と交流する様を見れば、誰でも気付くだろう。時折見せる妙な言葉選びは、まだ言語が完全には流暢でないからだとも、話せばすぐに気付く。いつも無表情に見えて案外すぐに破顔することにも、どんなちょっとしたことへも簡単に礼を言うことにも、打ち解けた相手にはスキンシップが多いことにも、ガキが飲むようなクソ甘いミルクコーヒーが好きな甘党であることにも。誰でも気付くだろう、つまり、良い奴なのだと。隙が無いように見せて、隙しかないような女なのだ。
……そんなあいつに、わざわざ閉場間際に来て、作品ではなく本人に関心を見せ、距離が近く、親し気に話すが、しかし雰囲気はただならず――なによりあいつ自身が拒否反応を起こしている、異性。
「どう考えても昔の男だろ」と――口にはせず、ただ腹立たしく顔をしかめる。
昔の恋愛がどうだったかなんて、わざわざ聞いたことはない。ただ、いつだったかそうした話の流れになった折に、本人はただ「無い」と言っていた。そのときには経験自体を否定していたのかと思っていたが、そういうわけでもなかったようだ。
ただ――光景を思い返して、ほくそ笑む――あんなちんけな牽制ひとつで逃げ帰る姿には、胸がスッとした。
レイはパーソナルスペースが人よりかなり広いが、気を許した相手には、驚くほど距離が近い。だから、あえて顔を寄せ、腰を抱き、見せつけた。俺がどれだけ気を許されているか、特別な枠にいるか。彼女を知る人間なら、それだけで解っただろう。……それを感じ取ってその場から消えたからこそ、そいつがレイを良く知る――つまり昔の男であることを確信したわけだが。
しかし、まあ、大したことなかった。牽制ひとつで追い払われ、彼女にも「無い」と語らせるような相手だ。
――取るに足らない。
そうして心中に満足感を湛えて会場に戻ったところで、目にした光景はまたクソだった。
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