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13.制御
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荷物をまとめ、会場を出る。いつもは同じ帰り道を行くスタッフ達は、件の新スタッフ候補と一緒に食事へ出かけて行った。
「ねえ、この後の予定って何さ」
いかにも不満そうな顔をしてレイが聞く。会場を出るまでに何度も聞かれたが、言っても文句を言うからと答えずにいた。だが、既に帰路についた今なら問題ない。
「お前があいつと飯に行ったら、俺が部屋に戻れねぇだろうが」
「えっ」
「さっさと休みたいのに、お前が帰ってくるまで外で時間を潰すのはごめんだ」
「いや、それなら、君に部屋の鍵をあげたのに」
「…………」
眉間にしわが寄る。どうして自分の部屋の鍵を他人――しかも異性にそう簡単に渡せる思考になるのか。普段共同で生活をしているアトリエは半公的空間だが、今回の“部屋”は完全にプライベートだ。俺との間柄を踏まえても、あまりに警戒心が無さ過ぎて呆れる。
「あ、ジムも一緒にご飯を食べたら、全部解決だったよ」
「…………」
このお気楽な思考にも。
「ジムの人見知りで、僕は大事な交流の機会を逃したよ!」
「そりゃ悪かったな」
「ジム、スタッフとの交流も、とても重要だ。特に僕らみたいなフリーの活動には――」
「解ってるって。会期終了の打ち上げはちゃんと出るさ」
「当然」
自分だって社交は好きな部類じゃないくせに、その必要性を語るときのこいつはどこか楽しそうに見える。そして実際にその場に身を投じるときは消耗しながらも楽しんでいるのだから、難儀な奴だとも思う。
「ジム、アツシ君はどうだい?」
「…………」面白くない話が始まったと思った。「使えなくはない。頭も悪くない。社交性も、ある」
事実だと思う点を答えると、レイは何度も頷いて「そうだろう」と満足げに言う。
「彼も君のこと、良い人だって話してたよ。君たち、良い組み合わせだと、僕は思うんだけどな」
「……良い、組み合わせねぇ」
「彼、いい人だと思わないかい? きっと僕たちの心強い、力になってくれる」
レイが、優しく笑って言う。
こちらの目を真っ直ぐに覗き込んでくる黒い瞳が、あまりにも無邪気に、輝いて見えて――。
「……酒でも飲んで、考えたいところだな」
「酒……? 買って帰る?」
「ああ……二日間空くんだ。飲んでもいいだろ。お前の見事な外交スキルに乾杯しよう」
「僕は飲めな――ちょっと、それって皮肉だな?」
「読み取り能力の向上にも祝杯を上げよう」
「ジム!」
愛嬌のある怒り姿に思わず笑いながら、慣れてきた異国の夜道を歩いた。
「ねえ、この後の予定って何さ」
いかにも不満そうな顔をしてレイが聞く。会場を出るまでに何度も聞かれたが、言っても文句を言うからと答えずにいた。だが、既に帰路についた今なら問題ない。
「お前があいつと飯に行ったら、俺が部屋に戻れねぇだろうが」
「えっ」
「さっさと休みたいのに、お前が帰ってくるまで外で時間を潰すのはごめんだ」
「いや、それなら、君に部屋の鍵をあげたのに」
「…………」
眉間にしわが寄る。どうして自分の部屋の鍵を他人――しかも異性にそう簡単に渡せる思考になるのか。普段共同で生活をしているアトリエは半公的空間だが、今回の“部屋”は完全にプライベートだ。俺との間柄を踏まえても、あまりに警戒心が無さ過ぎて呆れる。
「あ、ジムも一緒にご飯を食べたら、全部解決だったよ」
「…………」
このお気楽な思考にも。
「ジムの人見知りで、僕は大事な交流の機会を逃したよ!」
「そりゃ悪かったな」
「ジム、スタッフとの交流も、とても重要だ。特に僕らみたいなフリーの活動には――」
「解ってるって。会期終了の打ち上げはちゃんと出るさ」
「当然」
自分だって社交は好きな部類じゃないくせに、その必要性を語るときのこいつはどこか楽しそうに見える。そして実際にその場に身を投じるときは消耗しながらも楽しんでいるのだから、難儀な奴だとも思う。
「ジム、アツシ君はどうだい?」
「…………」面白くない話が始まったと思った。「使えなくはない。頭も悪くない。社交性も、ある」
事実だと思う点を答えると、レイは何度も頷いて「そうだろう」と満足げに言う。
「彼も君のこと、良い人だって話してたよ。君たち、良い組み合わせだと、僕は思うんだけどな」
「……良い、組み合わせねぇ」
「彼、いい人だと思わないかい? きっと僕たちの心強い、力になってくれる」
レイが、優しく笑って言う。
こちらの目を真っ直ぐに覗き込んでくる黒い瞳が、あまりにも無邪気に、輝いて見えて――。
「……酒でも飲んで、考えたいところだな」
「酒……? 買って帰る?」
「ああ……二日間空くんだ。飲んでもいいだろ。お前の見事な外交スキルに乾杯しよう」
「僕は飲めな――ちょっと、それって皮肉だな?」
「読み取り能力の向上にも祝杯を上げよう」
「ジム!」
愛嬌のある怒り姿に思わず笑いながら、慣れてきた異国の夜道を歩いた。
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