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36.Sleepyhead
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ふわりと過った匂いが、落ちていた意識を優しく引き上げた。
「…………ジム」
重たい瞼を開くより先に、傍にいる筈の相棒の名前を呼んで手を伸ばす。寝ぼけた声と、伸ばした手がかけられた毛布に阻まれたことで、自分がすっかり眠ってしまっていたことに気付いた。
言うことを聞いてくれない瞼をどうにか薄く開けると、バスルームから出ていた光は消えて、外からの明かりのみが感じられた。
「……ジム」
毛布から手を出し、眠気に唸りつつ名前を呼びながら、辺りを探る。
「…………いるよ」
低い、憔悴した声を聞いて、瞼がいくらか開いた。そうして、少し離れた場所の椅子に座ってこちらを向いている彼の姿を見付ける。顔は、暗くて見えなかった。
匂いがしたので近くにいると思ったのに、そうではなかったと思って手を毛布の中へ引っ込める。そこでようやく、彼が自分の毛布を僕にかけてくれていたのだと気付いた。
どれだけ寝てしまっていたのだろう。彼がアトリエにいることに安堵して、開いた瞼がまた少し落ちてくる。
「ジム、明日、休みだよ。よかったね」
疲れた体をゆっくり休めることが出来る。このままソファで寝たって良い。
眠気が発音を舌足らずにさせて聞き取りにくくさせたか、ジムからの返答はない。しかし、そこに居続けている。
ややあって、再び静かにジムの声が聞こえた。
「……起きたなら、自分の部屋に戻って寝てくれ……。……俺はもう、お前を運べない」
普段よりずっとか細い声なのに、やはりというか、不思議と彼の言葉は聞き取りやすく、耳に心地よかった。
「ジム……ジムは、どうしたいと思う?」
さきほど、自分で考えていたことを彼に問う。『自分は、彼の感情――心をどうしたいのか』。考えようにも彼の心がわからない。わからないなら、本人に訊けばいいのだ。
少しの間を置いて、ジムの答えが聞こえた。
「…………俺は、ここから……アトリエから出ていく度胸も無い……」
――じゃあ、それでいいじゃないか。
満足して、目を開けないまま体を起こしてソファに座った。
どうあっても、眠いのだ。しかし、これで安心して部屋で眠れる。
「自分のへやにもどる」
「……そうしてくれ」
「君もだよ」
「自分の部屋で寝てね」と念を押してから、満足に目を開けないまま立ち上がり、毛布に体を包んで慣れた動線を歩く。眠気に頭が揺れる。
階段を上って自室に向かう。登り切って自室のドアの前から柵の下を見下ろすと、ジムが階段の下にいるのが見えた。
「おやすみ」
「…………」
「おやすみ」
「……おやすみ」
返ってきた挨拶に満足し、部屋のベッドに滑り込むように身を預けた。
体にかける布団をもぞもぞと整え、毛布を鼻に寄せる。
ゆりかごのように揺れる意識が、心地よい。
この匂いが――ジムの匂いが、いつも自分を心底安心させてくれるのだ。
「…………ジム」
重たい瞼を開くより先に、傍にいる筈の相棒の名前を呼んで手を伸ばす。寝ぼけた声と、伸ばした手がかけられた毛布に阻まれたことで、自分がすっかり眠ってしまっていたことに気付いた。
言うことを聞いてくれない瞼をどうにか薄く開けると、バスルームから出ていた光は消えて、外からの明かりのみが感じられた。
「……ジム」
毛布から手を出し、眠気に唸りつつ名前を呼びながら、辺りを探る。
「…………いるよ」
低い、憔悴した声を聞いて、瞼がいくらか開いた。そうして、少し離れた場所の椅子に座ってこちらを向いている彼の姿を見付ける。顔は、暗くて見えなかった。
匂いがしたので近くにいると思ったのに、そうではなかったと思って手を毛布の中へ引っ込める。そこでようやく、彼が自分の毛布を僕にかけてくれていたのだと気付いた。
どれだけ寝てしまっていたのだろう。彼がアトリエにいることに安堵して、開いた瞼がまた少し落ちてくる。
「ジム、明日、休みだよ。よかったね」
疲れた体をゆっくり休めることが出来る。このままソファで寝たって良い。
眠気が発音を舌足らずにさせて聞き取りにくくさせたか、ジムからの返答はない。しかし、そこに居続けている。
ややあって、再び静かにジムの声が聞こえた。
「……起きたなら、自分の部屋に戻って寝てくれ……。……俺はもう、お前を運べない」
普段よりずっとか細い声なのに、やはりというか、不思議と彼の言葉は聞き取りやすく、耳に心地よかった。
「ジム……ジムは、どうしたいと思う?」
さきほど、自分で考えていたことを彼に問う。『自分は、彼の感情――心をどうしたいのか』。考えようにも彼の心がわからない。わからないなら、本人に訊けばいいのだ。
少しの間を置いて、ジムの答えが聞こえた。
「…………俺は、ここから……アトリエから出ていく度胸も無い……」
――じゃあ、それでいいじゃないか。
満足して、目を開けないまま体を起こしてソファに座った。
どうあっても、眠いのだ。しかし、これで安心して部屋で眠れる。
「自分のへやにもどる」
「……そうしてくれ」
「君もだよ」
「自分の部屋で寝てね」と念を押してから、満足に目を開けないまま立ち上がり、毛布に体を包んで慣れた動線を歩く。眠気に頭が揺れる。
階段を上って自室に向かう。登り切って自室のドアの前から柵の下を見下ろすと、ジムが階段の下にいるのが見えた。
「おやすみ」
「…………」
「おやすみ」
「……おやすみ」
返ってきた挨拶に満足し、部屋のベッドに滑り込むように身を預けた。
体にかける布団をもぞもぞと整え、毛布を鼻に寄せる。
ゆりかごのように揺れる意識が、心地よい。
この匂いが――ジムの匂いが、いつも自分を心底安心させてくれるのだ。
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