37 / 48
37.It’s Okay
しおりを挟む
「ねぇ、レイちゃん……ジメルと喧嘩でもした?」
資材の買い出し先での飲食店、食事中に唐突に聞いてきたのは制作スタッフのリーさんだった。
すこしだけ驚きながら、咀嚼していたご飯を呑み込んで答える。
「いや、してないけど……そう見える?」
「っていうか、あいつが目に見えて落ち込んでんのが気になるのよ。ここ最近なんだか苛々してたのが、今度は急に沈んでるじゃない」
思わず、少し感動した。表に見えにくい彼の態度の変化を、自分だけでなく他のスタッフも気にかけてくれていたことに。
「……ちょっと、なに笑ってんのよ」
訝し気な目をしてリーさんに指摘される。つい破顔してしまっていたらしい。
「いやぁ、ジムをよく見てくれてるんだなぁって」
「……レイちゃんがその調子じゃ、喧嘩ってわけじゃなさそうね」
呆れたような顔で溜息を吐かれたが、それでも彼女が気付いて、気にしてくれていたことが嬉しく感じる。
「てっきり、レイちゃんがあいつの過保護にうんざりして何か言ったかして、“ああ”なってんのかと思ったけど……」
「放っておけば落ち着くかしら?」と、再び食事を進めながらリーさんが聞く。
「うーん……実のところ、僕は全く知らないとは言えないんだ。彼が落ち込んでいる理由について」
言葉を選んで話したのに、さらり「でしょうね」と受けて流される。
「別に、どうにかしてって言ってるわけじゃないのよ。仕事はいつも通りにできてるし、何より、ジメル自身が表に出さないでしょ。
でも、あたしとかチコは、ほら、ここまで一緒にやってたらどうしても、いつもと違うのはなんとなく気付いちゃうから」
リーさんとチコさんは、長い付き合いのスタッフだ。ジムのこともよく見て、気付いてくれている。ジムはアトリエ内でも人間関係を深めようとはしないが、それでも共に働いた年月の分、関係は築かれているのだ。
「ジムのことを心配してくれているんだよね」
笑って言うと、リーさんは眉を寄せながら困ったような顔をする。
「何かあるわけじゃないし、顔を突っ込むわけじゃないけど、でもそれでレイちゃんが困ってたら嫌だし……」
だんだんと要領を得なくなってきた言葉と弱まる語気。
少しの沈黙と、溜息と、観念したような表情。
「……そうね、心配なんだわ」
その言葉と気遣いが、嬉しい。
笑みを自覚しながら眺めていると、リーさんも仕方ないような顔をして笑っていた。
「ありがとう、リーさん。
ジムとは、少しずつ話していくつもり。僕も、まだ考えが足りていないところがあるから、すぐではないけど……」
「ええ、わかってる。あたしたちは、多分、あんたたちが変わらずデザイナーとマネージャーをやってくれてれば、それでいいんだわ」
何気なく言われた言葉を、静かに、頭にじわりと滲み込ませる。これは多分、自分が覚えておくべき言葉。彼ら――アトリエのスタッフ達が、安心していられる条件。であるならば、それは自分の本分だ。
だが、そうでなくとも――。
「うん。それなら大丈夫」
落ち着きと自信をもって、笑って答えられることだった。
資材の買い出し先での飲食店、食事中に唐突に聞いてきたのは制作スタッフのリーさんだった。
すこしだけ驚きながら、咀嚼していたご飯を呑み込んで答える。
「いや、してないけど……そう見える?」
「っていうか、あいつが目に見えて落ち込んでんのが気になるのよ。ここ最近なんだか苛々してたのが、今度は急に沈んでるじゃない」
思わず、少し感動した。表に見えにくい彼の態度の変化を、自分だけでなく他のスタッフも気にかけてくれていたことに。
「……ちょっと、なに笑ってんのよ」
訝し気な目をしてリーさんに指摘される。つい破顔してしまっていたらしい。
「いやぁ、ジムをよく見てくれてるんだなぁって」
「……レイちゃんがその調子じゃ、喧嘩ってわけじゃなさそうね」
呆れたような顔で溜息を吐かれたが、それでも彼女が気付いて、気にしてくれていたことが嬉しく感じる。
「てっきり、レイちゃんがあいつの過保護にうんざりして何か言ったかして、“ああ”なってんのかと思ったけど……」
「放っておけば落ち着くかしら?」と、再び食事を進めながらリーさんが聞く。
「うーん……実のところ、僕は全く知らないとは言えないんだ。彼が落ち込んでいる理由について」
言葉を選んで話したのに、さらり「でしょうね」と受けて流される。
「別に、どうにかしてって言ってるわけじゃないのよ。仕事はいつも通りにできてるし、何より、ジメル自身が表に出さないでしょ。
でも、あたしとかチコは、ほら、ここまで一緒にやってたらどうしても、いつもと違うのはなんとなく気付いちゃうから」
リーさんとチコさんは、長い付き合いのスタッフだ。ジムのこともよく見て、気付いてくれている。ジムはアトリエ内でも人間関係を深めようとはしないが、それでも共に働いた年月の分、関係は築かれているのだ。
「ジムのことを心配してくれているんだよね」
笑って言うと、リーさんは眉を寄せながら困ったような顔をする。
「何かあるわけじゃないし、顔を突っ込むわけじゃないけど、でもそれでレイちゃんが困ってたら嫌だし……」
だんだんと要領を得なくなってきた言葉と弱まる語気。
少しの沈黙と、溜息と、観念したような表情。
「……そうね、心配なんだわ」
その言葉と気遣いが、嬉しい。
笑みを自覚しながら眺めていると、リーさんも仕方ないような顔をして笑っていた。
「ありがとう、リーさん。
ジムとは、少しずつ話していくつもり。僕も、まだ考えが足りていないところがあるから、すぐではないけど……」
「ええ、わかってる。あたしたちは、多分、あんたたちが変わらずデザイナーとマネージャーをやってくれてれば、それでいいんだわ」
何気なく言われた言葉を、静かに、頭にじわりと滲み込ませる。これは多分、自分が覚えておくべき言葉。彼ら――アトリエのスタッフ達が、安心していられる条件。であるならば、それは自分の本分だ。
だが、そうでなくとも――。
「うん。それなら大丈夫」
落ち着きと自信をもって、笑って答えられることだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる