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39.Verification
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この国の祝日に合わせて、アトリエも休業となる――自分としては、わざわざ閉めずともスタッフの皆だけが休めば良いと思っているのだが。
いつもであれば、仕事ではなく趣味として――結果的には仕事に流用されるが、あくまで趣味としての、デザイン作成や作品制作をする。
しかし、今回は別にやっておきたいことがあった。
少し前に届いてから開封だけしていた、小包。
休業期間に入ってスタッフの皆がいなくなった、初日の夜、ベッドの上でそれを前にして静かに座す。
『……やるか』
取り出したるは――プレジャーグッズ。比較的小振り、ピンク、曲線は可愛らしいフォルムではある。
人――スタッフの皆がいない環境と、十分な時間が取れるときに、検証しておきたいと思っていたことが一つあった――自分自身の体について。
展示会期間中に“あれ”が起きてから――ジムに、触れられてから、ずっと気になっていたことだった。
自分はあのとき、まこと意に反して、強い性的快楽を、感じてしまっていた。人生で一度も感じたことの無い、強く深い快感。
下腹部に小さく思い出してしまった感覚に、顔をしかめる。
不本意なのだ。自分は、性行為が好きでは無い。それに伴う性的快感も。
元々、性に快楽を感じにくい性質なのだと思う。それでも、性感帯が刺激を受け続ければ、物理的に性的刺激自体を受け取ることはする。刺激を受ければ思考は乱れるし、息づかいも声の制御もままならない。体液だって汚れて感じる。自分の体なのに自分じゃないみたいで、行為をしている自分自身に対して“考える自分”がいつも言っていた。『阿呆みたい。なんて滑稽なんだろう。馬鹿馬鹿しい』。早く終わってくれ、と。
……けれど、あのときは、そうではなかった。
異常事態に混乱を極め、そんなふうに思うどころでなかったことが要因だが、しかし主題はそこではない。
何故、自分の体はあそこまで容易に快楽を得たのか。あんな簡単に、触れられただけで、感じたことの無い“快”を。
強く混乱したのは、そのせいでもある――というか、それさえなければ、いっそもっと冷静に対処できていたかもしれない。今となっては意味のない仮定。惜しむ気持ちを、溜息で吹き飛ばす。
原因。考えたのは、自分自身の体が変わった可能性だった。そもそも最後にそうした行為をしてから、長い年月が経っていた。自分の体が変化した――性的刺激を感じられるようになった可能性も、なくはない。であれば、自分の認識は更新しておきたい。
これは、そのための検証だった。
下半身だけ脱衣してから布団の中で四つ這いに、付属の潤滑剤を用いて、あてがう。細身に設計されたそれはすんなりと挿入できた。同時に、突起にもパーツを当てる。いわゆるフック型のそれは女性器の中と外を同時に刺激するもので、上品な印象の女性向け専門通販サイトで堂々のランキング一位を冠していた。とりあえず一番人気だし見た目も露骨でない――むしろ造形美としては見事だと思う――からと選んだが、しかしやはり、滲む不快感に眉を寄せる。
潤滑剤の感触も、挿入の感覚も、自分自身さえも、異物感が否めない。
しかし確かめるべきはその先にある。苦い思いのまま、スイッチを入れた。
『……っ』
機械的な刺激に、確かに性的刺激を受ける。受けるが、しかし。
『……うーん……』
あの時ほど強烈な、気をやるまでの快感ではない。記憶が確かであれば、なるほど刺激の感じやすさは強くなってはいる気がする。自分の体の変化か、機械的技術の進歩によるものかは知れないが、しかしその程度だ。
『レビューは良かったんだけどな……』
ごろりと、仰向けの体勢に居直ろうと身を傾けたその時。
「――ジ……っ!?」
――匂いが鼻をかすめ、反射的に上体を起こし、同時に機械のスイッチも止めていた。
動悸に胸を押さえる。誰もいない、部屋。
とりあえずの安堵から、大きな溜息を吐いて勢いよくベッドに上体を倒した。衝撃でベッドサイドから水入りボトルが大きな音を立てて落ちたが、それどころではない。
一瞬、ジムが来たかと思った――彼の匂いがしたから。原因――借りっぱなしだった毛布を引き寄せる。返すのをすっかり忘れて自然と使ってしまっていたそれはどうやら、身じろぎしたことで蓄えていた粒子を漂わせたらしい。
彼にこんなところを見られたわけではなかったことに安堵したが、であるならば、もう一つの見過ごせない現象があった。
彼の、匂いを感じた瞬間、その一瞬で、体が――強い快楽を感じていた。
動悸が収まらない。手にした毛布を、顔に寄せた。
『……っ』
挿入されている異物を、自然と下腹部の筋肉が締め付ける。呼気が短くなる。
――もしかして、そういうことなのだろうか。ぼんやりし始めた頭で確信を感じながら、再びスイッチを入れた。
『っん、ぅ……!』
目を閉じた視界にさえ細かく爆ぜるような、強い刺激。胸の苦しさから、掴んだ毛布に顔を摺る。鼻腔に匂いが、体に刺激が――頭に、快楽が染み渡る。
短い呼気と共に、勝手に声が出る。匂いが、頭を、思考を溶かす。
『はぁっ……あっ……』
腰が浮く。シーツを引っかく足が、布団を端へ追いやり、殆どベッドから落とした。毛布だけが、身を覆う。
『っは……ジ、ム……』
名前を、口にしてみる。明確な恥ずかしさを感じながら、しかし下腹部の締め付けはより一層きつくなるのを自分で感じていた。
『っふ……ジム……っ』
何度も、何度も、口にする。徐々に上擦る声。刺激を受け続けて、頭が溶かされて、快楽だけが大きくなる。
『ジ――』
名前を口にしようとして、途中で息に吸い込まれた。
『――ぁあっ……!!』
止まる呼吸。痙攣する下腹部。快楽の刺激で上手く動かない手を伸ばして、辛うじてスイッチを止める。
『っ――はっ、はあっ……!』
それから、ようやく息が出来た。大きく息を吸って、吐いて、胸を上下させ、呟く。
『…………いった……』
いった――いけた。いとも、容易く。
下腹部は落ち着いているが、しかし未だ微かな不随意運動を見せている。
とりあえず、目を閉じて、余韻をやり過ごしながら息を整えることに集中した。
とても不可解なことに、このまま眠ってしまいたくなるほど、心地よい倦怠だった。
いつもであれば、仕事ではなく趣味として――結果的には仕事に流用されるが、あくまで趣味としての、デザイン作成や作品制作をする。
しかし、今回は別にやっておきたいことがあった。
少し前に届いてから開封だけしていた、小包。
休業期間に入ってスタッフの皆がいなくなった、初日の夜、ベッドの上でそれを前にして静かに座す。
『……やるか』
取り出したるは――プレジャーグッズ。比較的小振り、ピンク、曲線は可愛らしいフォルムではある。
人――スタッフの皆がいない環境と、十分な時間が取れるときに、検証しておきたいと思っていたことが一つあった――自分自身の体について。
展示会期間中に“あれ”が起きてから――ジムに、触れられてから、ずっと気になっていたことだった。
自分はあのとき、まこと意に反して、強い性的快楽を、感じてしまっていた。人生で一度も感じたことの無い、強く深い快感。
下腹部に小さく思い出してしまった感覚に、顔をしかめる。
不本意なのだ。自分は、性行為が好きでは無い。それに伴う性的快感も。
元々、性に快楽を感じにくい性質なのだと思う。それでも、性感帯が刺激を受け続ければ、物理的に性的刺激自体を受け取ることはする。刺激を受ければ思考は乱れるし、息づかいも声の制御もままならない。体液だって汚れて感じる。自分の体なのに自分じゃないみたいで、行為をしている自分自身に対して“考える自分”がいつも言っていた。『阿呆みたい。なんて滑稽なんだろう。馬鹿馬鹿しい』。早く終わってくれ、と。
……けれど、あのときは、そうではなかった。
異常事態に混乱を極め、そんなふうに思うどころでなかったことが要因だが、しかし主題はそこではない。
何故、自分の体はあそこまで容易に快楽を得たのか。あんな簡単に、触れられただけで、感じたことの無い“快”を。
強く混乱したのは、そのせいでもある――というか、それさえなければ、いっそもっと冷静に対処できていたかもしれない。今となっては意味のない仮定。惜しむ気持ちを、溜息で吹き飛ばす。
原因。考えたのは、自分自身の体が変わった可能性だった。そもそも最後にそうした行為をしてから、長い年月が経っていた。自分の体が変化した――性的刺激を感じられるようになった可能性も、なくはない。であれば、自分の認識は更新しておきたい。
これは、そのための検証だった。
下半身だけ脱衣してから布団の中で四つ這いに、付属の潤滑剤を用いて、あてがう。細身に設計されたそれはすんなりと挿入できた。同時に、突起にもパーツを当てる。いわゆるフック型のそれは女性器の中と外を同時に刺激するもので、上品な印象の女性向け専門通販サイトで堂々のランキング一位を冠していた。とりあえず一番人気だし見た目も露骨でない――むしろ造形美としては見事だと思う――からと選んだが、しかしやはり、滲む不快感に眉を寄せる。
潤滑剤の感触も、挿入の感覚も、自分自身さえも、異物感が否めない。
しかし確かめるべきはその先にある。苦い思いのまま、スイッチを入れた。
『……っ』
機械的な刺激に、確かに性的刺激を受ける。受けるが、しかし。
『……うーん……』
あの時ほど強烈な、気をやるまでの快感ではない。記憶が確かであれば、なるほど刺激の感じやすさは強くなってはいる気がする。自分の体の変化か、機械的技術の進歩によるものかは知れないが、しかしその程度だ。
『レビューは良かったんだけどな……』
ごろりと、仰向けの体勢に居直ろうと身を傾けたその時。
「――ジ……っ!?」
――匂いが鼻をかすめ、反射的に上体を起こし、同時に機械のスイッチも止めていた。
動悸に胸を押さえる。誰もいない、部屋。
とりあえずの安堵から、大きな溜息を吐いて勢いよくベッドに上体を倒した。衝撃でベッドサイドから水入りボトルが大きな音を立てて落ちたが、それどころではない。
一瞬、ジムが来たかと思った――彼の匂いがしたから。原因――借りっぱなしだった毛布を引き寄せる。返すのをすっかり忘れて自然と使ってしまっていたそれはどうやら、身じろぎしたことで蓄えていた粒子を漂わせたらしい。
彼にこんなところを見られたわけではなかったことに安堵したが、であるならば、もう一つの見過ごせない現象があった。
彼の、匂いを感じた瞬間、その一瞬で、体が――強い快楽を感じていた。
動悸が収まらない。手にした毛布を、顔に寄せた。
『……っ』
挿入されている異物を、自然と下腹部の筋肉が締め付ける。呼気が短くなる。
――もしかして、そういうことなのだろうか。ぼんやりし始めた頭で確信を感じながら、再びスイッチを入れた。
『っん、ぅ……!』
目を閉じた視界にさえ細かく爆ぜるような、強い刺激。胸の苦しさから、掴んだ毛布に顔を摺る。鼻腔に匂いが、体に刺激が――頭に、快楽が染み渡る。
短い呼気と共に、勝手に声が出る。匂いが、頭を、思考を溶かす。
『はぁっ……あっ……』
腰が浮く。シーツを引っかく足が、布団を端へ追いやり、殆どベッドから落とした。毛布だけが、身を覆う。
『っは……ジ、ム……』
名前を、口にしてみる。明確な恥ずかしさを感じながら、しかし下腹部の締め付けはより一層きつくなるのを自分で感じていた。
『っふ……ジム……っ』
何度も、何度も、口にする。徐々に上擦る声。刺激を受け続けて、頭が溶かされて、快楽だけが大きくなる。
『ジ――』
名前を口にしようとして、途中で息に吸い込まれた。
『――ぁあっ……!!』
止まる呼吸。痙攣する下腹部。快楽の刺激で上手く動かない手を伸ばして、辛うじてスイッチを止める。
『っ――はっ、はあっ……!』
それから、ようやく息が出来た。大きく息を吸って、吐いて、胸を上下させ、呟く。
『…………いった……』
いった――いけた。いとも、容易く。
下腹部は落ち着いているが、しかし未だ微かな不随意運動を見せている。
とりあえず、目を閉じて、余韻をやり過ごしながら息を整えることに集中した。
とても不可解なことに、このまま眠ってしまいたくなるほど、心地よい倦怠だった。
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