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02.秘密を聞いてみた

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 魔法少女。
 山田は確かにそう言った。

 実にファンタジーな言葉だが、ここは現実世界。コスプレ趣味もしくは自分を魔法少女だと思い込んでいるのだろう。

 ならば、俺が次に言うべき言葉は……。

「魔法少女について知っていることを話せ」
「分かった」

 山田は虚な目で返事をした。
 この状態では嘘が吐けない。これから彼女が語る言葉は全て真実だ。

「この世界はズヴィーバと呼ばれる悪の組織によって支配されようとしている」

 ……ふむ。

「魔法少女は人類の笑顔を守るため秘密裏に開発されたエーテルファクトに適合した少女の総称である」

 ……ほう?

「ズヴィーバの目的はマテリアルプラズマを覚醒させること。材料は負の感情。奴らは人を悲しませることで負の感情を集めている」

 どうやら手遅れみたいだ。
 恐らくは小説家志望とかで、物語と現実の境界線が曖昧になっているのだろう。

 ……かわいそうに。

 いや、結論を出すには早過ぎるか。
 ファンタジー世界が実在したのだ。
 魔法少女が実在しても不思議ではない。

 可能性は他にもある。
 例えばここが魔法少女の存在する並行世界であり、俺は元の世界に戻れていないとか。

「俺について知っていることを話せ」
「いつもニヤニヤしてるクソ陰キャ野郎」

 間違いない。ここは俺が元居た世界だ。
 ふっ、実に強烈な口撃だ。忘れかけていたトラウマが蘇ったではないか。

 以前の俺ならば心が折れていた。
 だがそんな弱さは童貞と共に捨て去った。

 強さとは弱さの先にある。
 弱い自分から目を背けた者は、いつまでも強くなれない。

 故に認めよう。
 あの世界へ行く前の俺は、いつもニヤニヤしてるクソ陰キャ野郎だった。

「今も目線がずっと私の胸。しかも股間がもっこり。すごく気持ち悪い」
「ふっ、そんなことあるわけが──」

 あったわ。なんか苦しいと思ったら全力全開だったわ。なぜだ。今さら同級生の胸部を見たところで勃つわけが…………。

 なるほど、そういうことか。
 失念していた。精神はともかく、この身は未だ童貞。要するに俺は処女ビッチなのだ。いや、この場合はヤリチン童貞か……?

「話を戻そう」

 俺の目的は自分探しではない。
 今は山田について知ることが最優先だ。

「魔法少女だと証明する方法はあるか?」
「変身できる」

 山田は天に向かって右手を伸ばした。
 ピコンというファンシーな音と共に子どもの玩具みたいなステッキが現れる。

「ミラクル、マジカル、クルミラクル♪」

 山田が発光した。
 やがて俺の目に映ったのは、薄桃色のワンピースを着た魔法少女の姿だった。

 変化したのは服装だけではない。
 黒色だった髪と瞳が、どちらも桜のような色になっている。

(……本物かよ)

 早着替えや手品の類ではない。
 根拠もある。一瞬、魔力を感じたのだ。
 
(……素晴らしい)

 俺の目的は同級生ハーレムである。
 正直に告白しよう。いさかか不安だった。

 同級生ハーレムには夢がある。
 普段、教室で目にする彼女たち。穢れなき瞳で青春を謳歌する少女たち。赤の他人とは違う隣人たち。あらゆる要素が複合的に興奮の度合いを高めてくれる。

 しかし同級生にはヒト族しか存在しない。
 魔族、鬼神族、エルフ族──あらゆる女を知った俺が、今さら満たされるのか……?

(……この女が欲しい)

 不安は消え去った。
 魔法少女。実に良い。是非とも欲しい。

「山田、何か悩みはあるか?」

 この年頃なのだ。悩みのひとつやふたつはあるだろう。恐らくは些細なことだが、それを解決してくれる同級生に好意を抱かないわけがない。

「最も大きな悩みを話せ」

 故に俺は問いかけた。
 さあ! どんなことでも相談するが良い!

「私のせいで世界が滅びかけている」

 ……ほう?

「ズヴィーバは魔法少女に対抗するため洗脳の研究をしていた。もちろん私達の友情パワーが負けることはなかった。でも、真の狙いは別のことだった」

 ……洗脳の研究?

「奴らはエーテルファクトの破片と魔法少女の遺伝子情報を集め、クローンを生成した。そして洗脳することに成功した」

 ……クローンだと?

「それは、私のクローンだった」

 ……なんてことだ。

「私は特に洗脳耐性が低かった。一方で魔法少女としての適性は高かった。だから、最悪のクローンが量産されてしまった」

 ……ふむ。量産されたのか。

「私の仲間は全滅した」

 ……!?

「ルリも、ナツミも、サヤカも、みんな私のせいで殺された。博士もティアベール達も皆殺しにされた。私だけが無様に生き残った」

 ……。

「本当は今すぐ仇を打ちたい。だけど、私は絶対に負けられない。もしも洗脳されてしまったら、マテリアルプラズマの覚醒を誰も止められなくなる……」

 彼女の目から大粒の涙が零れ落ちる。

「皆は命懸けで戦ったのに、私は逃げることしかできない。私には力が無い。私には勇気が無い。私は……弱い自分が、大嫌い!」

 想像以上に重い話だった。
 軽いキャッチボールを想像したら大谷翔平の全力投球が飛んできたような気分だ。

 だが、好都合でもある。
 悩みは重ければ重い程に良い。

「ヒプノ・フィクセーション」

 俺はスキルを発動させた。
 これは洗脳状態の相手にだけ有効であり、洗脳中の記憶と感情を定着させた状態で正気に戻すことができる。

「……ぁ、ぇ?」

 山田の雰囲気が元に戻った。
 彼女は俺の姿を認識すると、困惑と恐怖が入り混じったような表情を見せた。

「願いを言え。ひとつだけ叶えてやる」

 俺は彼女の目を真っ直ぐに見て言う。

「無論、強制はしない。お前の意思と責任で決めるのだ」

 俺は笑みを浮かべ手を差し伸べる。
 山田は夢を見ているような様子で、ぽつりと呟いた。

「……助けて、くれるの?」
「それがお前の願いならば、この手を握り、助けてと叫ぶがよい」

 彼女は縋るような目をして手を伸ばす。
 しかし、直前でピタリと動きを止めた。
 
「……お願い」

 彼女は俺の目を真っ直ぐに見た。
 そして瞳に宝石のような輝きを宿し、力強い声で言った。

「力を貸して」

 洗脳直後は理性が弱まる。
 例えば、彼女は今この瞬間を夢だと認識している可能性が高い。

 要するに噓が付けない。
 その上で彼女は力を貸せと言った。

 普通なら逃げる一択の過酷な状況だ。
 恐らくは精神的にも追い詰められている。

 そんな状況で手が差し伸べられた。
 普通は誰でも飛びつきたくなるはずだ。
 
 しかし、彼女は立ち向かうことを選んだ!

 素晴らしい!
 なんと気高き存在なのだろうか!

「問おう! 力とはなんだ!? お前は、何のために、どのような力を求める!?」

 故に俺は問いかけた。

「皆の願いを叶えたい」

 彼女は言い淀むことなく答えた。

「ズヴィーバを滅ぼして、世界を救うための力が欲しい。洗脳なんかに負けない術が欲しい。一人でも立ち向かえる勇気が欲しい!」
「その願い聞き受けた! ならば触手だ!」
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