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4-09.エロトラップダンジョンデート 中編

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 *  17階層  *

 エロトラップダンジョンの難易度は、9の倍数を境界として大きく変わる。

 理由はボスの存在。
 これまでのトラップを総動員したような存在が待ち構えており、これを倒して次へ進むと、ダンジョンは色々な意味で姿を変える。

 一度目のボスは俺が瞬殺した。
 特に面白味のない相手だったから、通り抜けるついでに轢き殺した形だ。

 そして辿り着いた10階層。
 カリンは度々キャーと悲鳴をあげた。

 俺は思った。
 まるでお化け屋敷だ。

(……エロトラップダンジョンはデートスポットとして適切なのかもしれない)

 俺はエロトラップダンジョンに対する評価を改めながら、カリンとのデートを続けた。

「ねぇ、聞いて。とても不思議なの」
「どうした?」

 17階層を移動する途中、カリンが言う。

「正直、あなたの顔は全く好みじゃないの」
「言葉に気を付けろ。お前が会話している男のハートは、お前が思うよりもずっと脆い」
「……続けるわね?」
「どうぞ」

 こほん。

「しかし冥界では、強さが全て。私はあなたの強さにだけ魅力を感じている。そう思っていました」

 カリンは俺の腕を掴み、自らの胸に抱き寄せた。

「この鼓動は、単なる吊り橋効果? それとも、別の何か……?」

 どこか上気した表情。
 微かに不安の色が残る瞳。
 複雑な感情を形容した甘い声音。

 ──陰キャ時代、俺は彼女に憧れた。
 優しくて、いつも明るいギャル。彼女は俺にとって近くて遠い存在だった。

 それが、今はどうだろう。
 初恋のような眼差しを俺に向けている。

 冷静で冷酷な俺は「確実に吊り橋効果だ」と言っている。もしも俺がラブコメの主人公ならば、そのように答える。

 淫キャは違う。
 隙を見せた女を口説かない理由は無い。

「っ!?」

 俺は反対の手をカリンの背に回し、強く抱き寄せた。

「分かるか?」
「……分からないわ」
「俺もドキドキしている」

 カリンの体が強張った。
 息を止め、次の言葉を待っていることが分かる。

「無論、ダンジョンが怖いからではない」

 もっと強く抱き寄せる。
 互いの鼓動が重なり、どちらのモノか分からなくなる程に。

「何故だか分かるか?」
「……分からないわ」
「願望で良い。想像してみろ」

 数秒、待つ。
 手の力を緩め、カリンの目を見る。
 
「もしも何か脳裏に浮かび上がったのならば、それが答えだ」

 カリンは目を見開き、気恥ずかしそうに顔を逸らした。

「……特に何も浮かびませんでした」

 俺は心の中で吐血した。
 
「……」

 直後、トン、と胸の辺りで音がした。
 軽く額を押し当てたカリンは、とても小さな声で言う。

「……あなたが手の力を緩めた時、ほんの少しだけ寂しいと感じました」

 俺は、

「……そうか」

 カリンに顔を見られない姿勢で良かったと、そう思った。
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