マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム

下城米雪

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第35話 ぽよテト

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 午後九時。
 今日も真希とミーコの仲良し配信が始まった。配信画面には隣会う二人。背景には「仲良し配信♡」という主張の激しい何かがある。

:仲良し配信www
:一方通行なんだよなぁ

『んふっ、嫉妬の声が、心地よい♡』

:誰!?
:なんだその萌え声
:きっつ(歓喜)

『萌え声じゃなくて、ぽよ声、だぞ♡』

:きっつ
:これ真希? ボイチェン?
:こんな声出るんだ
:おぇっっっ

 現在の視聴者数は二千人強。
 RTAチャレンジの時などには劣るが、個人勢としては十分に多い。

『……』

 真希が視聴者とプロレスを楽しむ間、ミーコは無言だった。
 稀に耳がピコピコしたり、真希をチラチラ見たりしている。

:ミーコ、コラボ中ほんと大人しいな
:かわいい。借りてきた猫みたい
:蛇に睨まれた蛙定期

 今宵の配信も和やかな雰囲気で始まった。
 やがて、真希が自称ぽよ声でミーコに問いかける。

『ミーコ♡ 
 ぽよ、やろ!』

:これもう拷問だろ
:ミーコかわいそう
:どうしよう。この声クセになってきた

 ミーコは「ぽよを消すなんてとんでもない!」という感性の持ち主である。
 ぽよに限らず、ミーコは「何かを傷つける」タイプのゲームを全くプレイしない。少し古い表現をするならば、蟻を踏むこともできない子なのである。

 そんなミーコの性質を少しでも知っている視聴者達は、「ぽよの抹殺」を強制する真希に対して、なんてひどい人なのだろう、という類の感想を抱いていた。

 だが大前提として「ぽよは消すもの」である。
 このため真希の悪行を厳しく咎めるような空気は無い。
 
『ミーコ♡
 ぽよ、楽しいぽよ?』

:ぽよwwww
:謎の語尾きっつ
:涎の方がマシなことある?

『分かったミーコ。
 真希、折衷案出すぽよ』

:どこに向かってるのw
:そんな語尾使ったことねぇだろお前www
:草

『ミーコはテトで良いぽよ。
 真希が負けたら本企画は没ぽよ』

:語尾が強すぎて話が入ってこないw
:とりまミーコとぽよテトすることだけ理解した

 真希は口を閉じた。
 その結果、視聴者達の意識がミーコに集中する。

『…………』

 沈黙。
 否、口はパクパクしている。

:かわいい
:何か言ってる?
:ボリューム上げた

『負けにゃ! ……ぽよ』

:負けにゃwww
:ぽよ擦ってて草
:脳が震えた
:かわわわわわわわわわ
:おのれ性悪女。ミーコになんてこと言わせるんですの。鼻血が出ましたじゃない

 かくして、ぽよテト対戦が始まる。
 ルールは先に三回勝利した方が勝ち。
 
『どこからでもかかってくるぽよ♡』

:こいつ、いつまでぽよ声なん?
:ミーコから真希の落差よ
:この二人のコラボほんとすこ

『……行く、ぽよ』

:義務的ぽよ助かる
:ミーコの対人プレイ初めて見るかも

 視聴者に見守られる中、ミーコはテト、真希はぽよを選択した。
 ゲームは対戦画面に切り替わる。真希が左、ミーコが右。

 ――レディ
   ――ゴー!

 試合開始。

 真希は”彼女としては比較的”まったり。
 ミーコは、

:ふぁっ!?
:はっや
:プロ級じゃん

 と、視聴者が困惑するような速度でプレイした。
 次々とテトを組み立て、四列同時に消去するテトテトを発動させる。
 
『ふーん、なるほどね』

 真希の画面に驚異的なスピードで「お邪魔ぽよ」が投下される。
 しかし彼女は、変な語尾が消える程度にしか動揺していなかった。

『ほい』

 三連鎖+お邪魔消し

『ほーい』

 四連鎖

『うぃ~』

 三連鎖+四連鎖の連打。

『どーん』

 隙を突いた十三連鎖。
 ミーコのプレイ画面下部から一気にお邪魔テトが湧き出る。

『お~、粘ってるね~』

 その言葉通り、ミーコは驚異的な粘りを見せた。

| ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ |  # ここと
| ~ = = = = = = ~ = = | # ここで粘る
| ~ = = = = = = = = = | 
| ~ = = = = = = = = = | 
| ~ = = = = = = = = = | 
| ~ = = = = = = = = = |
| = = = = ~ = = = = = |
| = = = ~ = = = = = = |
| = = = = = = = ~ = = |
| = = = = = ~ = = = = |
| = = = ~ = = = = = = |
| = = = ~ = = = = = = |
| = = = = ~ = = = = = |
| = = = = ~ = = = = = |
| = = = ~ = = = = = = |
| = = = = = = = ~ = = |
| = = = = = ~ = = = = |
| = = = ~ = = = = = = |
| = = = ~ = = = = = = |
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 しかし、真希は容赦なく追加攻撃。
 ミーコの画面は「お邪魔テト」で埋め尽くされ、一敗。

『むにゅぅぅぅ』

:負けボイス助かる
:想像の十倍くらいレベル高くて草
:真希えっぐ
:かわいい
:ミーコほんとゲーム上手いな

『ミーコ♡
 相手の画面も見ないとダメぽよ~』
 
:煽りうっざ
:草
:かわいくない

『おい! 見えたぞ!
 いつもミーコにかわいいって言ってるやつテメェ!

 誰が可愛くないって!?
 あ”!? 言ってみろよ!!』

:真希
:真希
:真希

『……ぽよ~』

:草
:即堕ちwwww
:負けボイス助かる
:急な切れ芸なんなんw

 ミーコのプレイ速度は確かに上級者レベルだが、対人戦の知識が全く無い。中級者以下の対戦ならば通用するだろうが、プロに匹敵する真希とは勝負にならない。

 結果は三連敗。
 勝ち筋など欠片も見えない完敗だった。

『リベンジ許すぽよ~?』

:この煽りマジうぜぇw
:本当に強いから性質が悪い
:ミーコ! やっちまってください!

 その後、ミーコは七回リベンジしたが、毎回視聴者に負けボイスを披露して、真希からは「ぽよ~?w」という煽りを受けた。

 しかし、煽るだけではない。
 真希はしっかり「ぽよ」の宣伝をした。

 果たして――

『……ひぐっ、うぐぅ、うぅぅぅ』

 ミーコは心底嫌そうな様子で、

『……ぽよ、消すぅ』

 真希の要求を受け入れた。

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