マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム

下城米雪

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みんなの反応:保護者の場合

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「んふぅ~、捗るぅ~」

 むしゃピョコは絵を描いていた。

「お耳ぴこぴこ、お目目ぱちぱち」

 ミーコのイラストである。
 フォロワー数の多いむしゃピョコは、良くも悪くも影響力が大きい。彼女が全力でミーコを推せば、確実にファンが増える。だからこそ、彼女は発言を控えていた。

 ――の目的は、お兄ちゃんを安心させること。
 むしゃピョコというブランドを使ってキャリーしても、長期的な目で見た時に――の足かせとなる可能性が高い。

 だけど近いうちに特別な機会がある。
 確実じゃないけど、多分、きっと、そうなる。

「ふん、ふふふ~ん♪」

 むしゃピョコは鼻歌交じりに絵を描き続ける。
 まだ未完成の絵だが、「生徒数10万人&大会優勝おめでとう」と記されていた。

 この絵が完成するのは祝いの言葉が現実になった時。
 むしゃピョコは未来に想いを馳せながら、少しずつ、その絵を完成に近づける日々を過ごしていた。

 むしゃピョコは、まるで本当の親みたいな気持ちでミーコを応援している。
 ミーコの配信は全てチェックした。真希とコラボする際には何度か相談を受けた。ミーコは配信でもSNSでもむしゃピョコの話題をあんまり口に出さないが、配信外では子供みたいにベッタリなのである。

 むしゃピョコは溢れ出る感情を「裏垢」で発散していた。でも、ほんの少し前からフォロワーが増え始め、まるで「お前を見ている」とでも言わんばかりの「いいね」が届くようになった。怖くなったむしゃピョコは、裏垢の運用を中止した。

 なぜ削除しないのか。
 それができる者ならば、あんな痛々し……素敵なポエムを全世界に発信しない。

「ふぅん~! ちょっと休憩~」

 むしゃピョコをグッと伸びをして、仕事場から離れた。
 真っ先に向かったのは冷蔵庫。パックのイチゴ牛乳を取り出すと、コップに移してから一気に飲んだ。

「ん~、やっぱり絵を描いた後は甘い物が染みる~!」

 ※個人の感想。

「甘い物を飲んだ後は、甘い言葉が聞きたくなるよね。なんちゃって」

 ※恋する独身女性の感想。

「最近、――ちゃんの様子、どうですか」

 むしゃピョコは声を出しながらミーコの兄に連絡した。
 三秒後に既読が付き、「欲しいものを聞かれた」という返事。

「うへへっ、返事早過ぎ。これもう実質……危ない危ない」

 ギリギリで理性を取り戻す。
 その後、想い人との会話を続けた。

む:ほー、なるほどねー
兄:何か聞いてる?
む:配信のネタにしたいのかもね~

 むしゃピョコは全て察した上ですっとぼけた。
 繰り返すが、彼女はミーコの配信を「全て」観ている。

 ヒントは、収益化。
 これ以上の説明は蛇足というものだろう。

む:鈍感主人公め!(スタンプ)
兄:ごめん(スタンプ)

 むしゃピョコは幸せそうな表情を見せる。
 ふーん、そっか、――ちゃん、そうなのか~、という気持ちだった。

(私にも相談してくれないのは、ちょっと寂しいかなぁ)

 母親のような気持ちで、やりとりを続ける。
 そのうち、ふと思った。まるで娘の話をする夫婦みたいではないか。

 事実、二人はミーコのパパとママである。
 はじめての共同作業によってミーコを出産したと言える。

 もはや結婚(仮)の関係と言えるのではないだろうか。
 だったら今度の休日に芝刈りにでも誘ってみようかな。

 刈り取る。
 かりとる。
 仮、取る。
 結婚♡

「なーんてね! あは、あは、あはは!」

 むしゃピョコはハイになっていた。
 自室で良かったね。

「あんまり長く続けると迷惑だよね」

 賢者タイム(仮)

む:――ちゃん、最近どう?
兄:何かに取り組んでいる様子だ
兄:とても好ましい
兄:妹の前で威厳を保つのが大変だ
兄:泣きそうになる
む:そっかそっか

「大会に向けて頑張ってるのかな~」

 ――瞬間、むしゃピョコの表情が引き締まる。

む:旅行の予定とかある?
兄:無い。突然どうした
む:なんでもない。――ちゃんのこと、しっかり見ててあげて欲しくて

 既読、後、十数秒の間。

兄:分かった

「……好き」

 とても意味深なことを言ってしまった。
 でも何も聞かず頷いてくれた。これが適当に返事をしているだけなら友達を集めて愚痴パーティ開催だ。しかし彼には実績がある。大きな信頼と安心感がある。

「……大丈夫、だよね」

 ミーコの活動を応援する者の中で、兄を除き、むしゃピョコだけが、彼女の悲鳴を知っている。聴いているだけで涙が出るような叫び声を知っている。

 私、ちょっと過保護かな。
 そう思いながらも、ひとつの懸念について、本当の保護者に共有した。



 ――大会まで、残り2日。
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