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第52話 最強 vs 最弱
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ミーコとリンゴンの試合が終わった後、少し間を置き、二ノ宮ホタルとスピネイルの試合が始まった。こちらは二人とも「テト」を選択し、目で追うことも難しいハイスピードな試合展開となった。
双方共に一歩も譲らず、「残り2ラインで敗北」という状況になっては、驚異的な粘りを見せ、今度は逆に相手が残り2ラインで敗北という状況に陥る。
それなのに、どういうわけか差が開いていく。
前回優勝者のスピネイルは、7回のゲームのうち、2回しか勝てなかった。
決勝は、ミーコと二ノ宮ホタル。
Vtuber最強の「ぽよ」使いとVtuber最強の「テト」使いによる異種戦となった。
視聴者数は十五万人を超えた。
コメントの勢い、盛り上がりは、留まるところを知らない。
ぽよのミーコか。それともテトの二ノ宮ホタルか。
Vtuberにおける「ぽよテト」最強プレイヤーを決める戦いが始まろうとしていた。
* ―― *
さっきのゲーム、楽しかったなぁ。
思えば、誰かと一緒にゲームした経験あんまりないかも。
お兄ちゃんは忙しくて、友達なんて居なかった。
これまでの練習を考えれば、真希さんと一緒だったし、画面の向こうには常に相手が存在していた。でも、あんまり一緒にプレイしている気分にはならなかった。
やっぱり、顔が見えるから?
それとも相手の声が聴こえたから?
どっちでもいっか。
私は、全力で楽しむ。
応援してくれる生徒達に応える。
(……本当は、私が一番弱いのに)
ふと、不思議な気持ちになった。
(……ミーコなら、勝てるかもしれない)
なんだか自分が強くなったような感覚がある。
勘違いだって分かるけど、でも、なんか、そんな気分。
『ミーコ選手、意気込みをどうぞ!』
『…………にゃほぉ、ミーコでーす』
『あははっ、決勝もそれか』
会話は、まだ難しいけど~!
* * *
『ホタル選手、お願いします』
『あと、ふたつ』
ファシリ・テイトの質問を受け、二ノ宮ホタルは指を二本立てた。
それはミーコに勝つという宣言であり、真希にも勝つという宣言でもある。
多くは語らない。
常に余裕を見せているホタルだが、流石に集中している様子が見えた。
ミーコを警戒しているのか。
それとも、ゲームに入り込んでいるだけか。
その答えは、直ぐに分かる。
――試合、開始。
画面の左側にミーコ。右側の右側にホタル。
お互い、AIが操作しているかのようなスピードでプレイを始めた。
――これまで、ミーコは「ぽよ」と対戦することが多かった。
ぽよ同士の対戦は、連鎖を組み立てながら互いの様子を見る戦いとなる。
しかし、相手が「テトの上級者」である場合は全く異なる。
『ホタル選手ぅ! いきなりのパーフェクトだぁ!』
盤面、全てのラインを消し去ること。
序盤にしかできない高度な技であり、攻撃力も非常に高い。
ミーコの盤面に横一列の岩ぽよが降り注いだ。
その結果、これまでに用意していた連鎖が全て封印される。
『ミーコ選手掘り始めるが、間に合うのかぁ!?』
『はは、間に合うわけないじゃん』
ファシリ・テイトの実況に対して、ホタルがコメントした。
その瞬間、彼の盤面で二度目の「パーフェクト」が発生する。
:いやいやいや……
:何これ無理ゲーじゃん
:ぽよ勝ち目なくね……?
決勝、第一戦。
勝者、二ノ宮ホタル。
試合時間は、僅か三十秒だった。
* ―― *
すごぉぉっぉ!?
連続パーフェクト!? 何それぇ!?
『ミーコ選手、目を見開いております』
『ぽてぇ……』
『ポテトさん、早くヒトの言葉を取り戻してください』
そうだ、そうだった。
テトは「速い」から、戦い方を変えないとダメなんだった。
『ポテトさん、ミーコ選手……いや、ぽよに勝ち目はあるのでしょうか?』
『ぽてぇ……』
『真希さぁん!? 解説変わって頂けますかぁ!?』
むぅ、まだ実況が聴こえる。
ミーコ集中できてないのかな?
(……集中。集中。集中)
* * *
二試合目。
ミーコは明らかに戦い方を変えた。
『へぇ?』
それを見てホタルが呟いた。
しかし、彼は戦い方を変えない。
彼の操作は、上級者としては遅い。
それは「パーフェクト」を狙った戦略を選択したからである。
『ほら、パーフェクトだ』
再び大火力がミーコの盤面を襲う。
だが、ミーコのぽよは縦に積み上げられており、まだ反撃の芽が残っている。
『あは、また作れちゃった』
ホタル、またしても連続パーフェクト。
AIのような精密操作を前に、コメント欄は湧き上がる。
また一瞬で終わるのか。
誰もがミーコの敗北を想像した瞬間――
『へぇ、やるじゃん』
ミーコは5連鎖に成功した。
ホタルのラインが少しだけ上昇する。
『まあ、僕が勝つけどね』
ほんの数秒後、3回目のパーフェクトが炸裂する。
ミーコの盤面は2度のパーフェクトでボロボロになっており、先程の5連鎖の反動によって攻撃の余地が残っていない。
0:2。
試合は、一方的な展開となりつつあった。
* ―― *
(……二回目が遅かった)
私は直前のゲームを思い出す。
(……左は間に合う。少し減らして右にも準備しなきゃ)
テトは横一列に降り注ぐ。
ぽよが完全に埋まった場合、何もできない。
だから縦に積む。
一ヵ所でも友情パワーを注ぎ込める余地があれば、反撃できる。
(……大丈夫。真希さんと一緒に練習した通り)
あれ、あの時の相手はAIだったっけ。
……うん、あってる。すっごく強かった。
あのAIと比べたら……まだ、遅い。
* * *
『ホタル選手2連勝だぁぁぁぁ!』
ファシリ・テイトの実況が響き渡る。
『予選では見せなかった連続パーフェクトぉ!?
なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは!?』
『あは、君、叫び過ぎだよ』
ホタルは実況に返事をした。
次のゲームが始まる前の時間とはいえ、それは余裕を感じさせる態度だった。
『単純に疑問なんだけど、どうして驚くのかな?
いつも言ってることだよ。これは当然の結果だ。だって――僕、最強だから』
カメラ目線。
その直後、三試合目が始まった。
2試合目と似たような展開。
ミーコが端にぽよを積み上げ、ホタルは淡々と「パーフェクト」の準備をする。
『パーフェクト。僕、これ好きなんだよね』
開幕速攻。
再びミーコを襲う理不尽な火力。
『だって、そう思うでしょ。
完璧な僕にピッタリの技だよ』
ミーコは、この一撃を受けた。
盤面の三割程度が岩ぽよに埋め尽くされる。
『あは、今回は運が良い。もう二回目が作れた』
ホタルは追撃をした。
しかしミーコ、これも受ける。
『うん、これで終わりかな』
ホタル、圧巻の三連続パーフェクト。
ミーコの盤面は、既に埋め尽くされており、たった一列しか残っていない。
『よし』
ポテトと交代した解説の真希が言う。
『いいよ。ミーコ。それが正解』
唯一残った場所に、岩ぽよが降り注ぐ。
ミーコはギリギリ「生存」しているが、ぽよを回転させることもできない。
――否、回転させる必要が無い。
先を見たミーコは、相手の攻撃を待ち、あえて受けた。
計算された位置にぽよが落下する。
そして――反撃の大連鎖が始まった。
『あはっ、やるじゃん!』
岩ぽよを一掃する8連鎖ダブル。
ホタルはタイミング良く四度目のパーフェクトを成功させたが、ぽよの攻撃を相殺できず、ラインが一気に上昇する。
『良いね。真希と戦う前の準備運動にピッタリだよ』
リンゴンとミーコの試合とは違う。
二ノ宮ホタルは、配信者として、その場の出来事を大袈裟に実況していた。
ファシリ・テイトも負けじと実況する。
しかしコメント欄には「スーツうるさい」という無慈悲な反応。
『面白い。競争しようか!』
ホタルがラインを掘り下げる。
その度に降り注ぐ岩ぽよを相殺しながら、ミーコが次の攻撃を用意する。
『――ほら、パーフェクトだ』
五度目のパーフェクト。
ミーコの攻撃によるダメージは、全て消し去られた。
:無理ゲーなんよ
:うわぁ……
ミーコを応援する者達の間に、絶望的な雰囲気が流れた。
しかし――決して、振り出しに戻ったわけではない。
『マージンタイム』
解説の真希が呟いた。
その直後、ミーコが2連鎖ダブルを決める。
最初、ミーコはパーフェクトに対する反撃として5連鎖を放った。
その結果、攻撃を相殺して、ほんの少しだけホタルのラインを押し上げた。
今回は2連鎖ダブル。
その威力は5連鎖よりも小さい。
しかし――
ホタルのラインが、僅かに上昇した。
『マジかッ』
この結果を受け、ホタルが初めて驚いた声を出した。
しかし、慌てず冷静にパーフェクトを作ろうとする。
――それはダメ。
その動きを咎めるようにして、ミーコが攻勢に回った。
ホタルのラインが一気に上昇する。そしてそれは、一度では終わらなかった。
『なぁんとぉ!? ミーコ選手! 奇跡の一勝だぁ!! 熱い! 熱過ぎる! これは決勝に相応しい名勝負の予感です!』
コメント欄のFPSが足りなくなった。
その後、ミーコは立て続けに勝利する。
3:2。逆転。
勝負は、まだ分からない。
:これ、どっちが勝つんだ?
:勢いに乗ってるミーコか?
:なんだかんだホタルだろ
:全然分からん。どっちもヤバすぎ
視聴者達の雰囲気も変化していた。
二ノ宮ホタル圧勝ムードから一転して、勝敗が読めない状況になっている。
『――温存したかったけど、仕方ない』
その雰囲気を壊すようにして、ホタルが呟いた。
詳細についてファシリ・テイトが問うけれど、ホタルは答えない。
もはやヘラヘラとした余裕は無い。
画面越しでも分かる程に、彼は集中していた。
第6試合。
ホタルはこれまでパーフェクトを連発していた。その代償として、速度を落としてプレイしていた。しかし、今回は違う。
100パーセント。
人間の限界に迫るようなスピードで、彼はテトを「左右」に積み上げた。
『おぉっと!? 二ノ宮ホタル、まだ隠し技を残していたようです!』
先程までとは明らかに違う戦い方。
それを見て、実況もコメント欄も盛り上がる。
『――連鎖は、ぽよの専売特許じゃない』
あっという間にテトを組み上げた後、それは始まった。
テトにも「連鎖」の概念がある。
そして大連鎖による瞬間的な火力は――パーフェクトに勝る。
連続1ライン消し。パーフェクトによる速攻を意識していたミーコの意表を突くようにして、それは始まった。
:これもうラスボスだろ
:絶望感やばすぎ
唖然とする視聴者達。
心なしかコメントの勢いも弱まった。
対して。
ホタルの新しい攻撃を受けたミーコは……。
* * *
(……なぁにそれぇ!? すごー!)
彼女は、楽しんでいた。
(……でも見たことあるー!)
そして、この攻撃は真希が想定していたものだった。
(……対策は)
数秒後、思い出す。
(……友情パワーでパワー!)
相手の火力を上回る攻撃を叩き込む。ただそれだけ。
ただし闇雲に連鎖しても勝てない。相手の方が速いからだ。
(……まずは、耐える)
マージンタイムを利用する。
(……大丈夫。我慢するのは、得意だから)
二ノ宮ホタルの猛攻は止まらない。
一撃の間隔は先程よりも遅いけれど、その分、威力が大きい。
『ミーコ選手ぅ、これを耐えるぅ!
だがホタル選手、早くも次を用意している!?』
(……もうちょっと。もうちょっとだけ耐えて)
……
(……むにゅぅぅぅぅ)
* * *
一進一退の展開が続いた。
ミーコが逆転した後、再びホタルが逆転。勝利まで、残りひとつ。
3:4。崖っぷちのミーコ。
しかしゲームの内容は徐々に良くなっている。
『……いいねぇ。いいねぇ。そうじゃなきゃ面白くない』
優勢のはずのホタルは、疲労していた。
『でも勝つのは僕だ! このゲームで終わらせる!』
八試合目が始まった。
互いの戦略は明確である。
攻めるホタル。
耐えるミーコ。
攻撃と防御。
タイミングがコンマ数秒でもズレたら負け。ズラされても負け。判断ミスひとつで致命的なダメージを受けることになる。極限の戦い。
二十万人弱の人々が見守る中。
勝負は、クライマックスへと向かっていた。
* ―― *
すごい。ホタルさん、すごい。
本当にギリギリ。苦しい。頭が割れそう。
でも、大丈夫。
慣れてる。痛いのは、慣れてるから。
(……勝ちたい)
生まれて初めて、誰かに期待された。
(……ただの、ゲームだけど)
相手は、きっと凄い人だ。
十年も逃げ続けていた私とは違って、ずっと、前に進み続けていた人だ。
普通に勝負したら勝てるわけがない。
私は彼の影を踏むこともできないと思う。
何度も思った。
何度も何度も同じことを思った。
私は弱い。
まだ太陽の下を歩くこともできない。
だけどミーコは違う。
沢山の生徒達に愛されて、期待されてる。
私の宝物。
生まれて初めて、自分で作った価値のあるモノ。
(……勝ちたい)
AIみたいなスピードと大連鎖。
それを「ピッタリ」の数で受ける。
『くそっ、落ちろ。落ちろ。落ちろよぉ!?』
背筋が震えるような声だった。
とても迫力がある。嫌なことを思い出しそうになる。
(……見て、くれてるよね)
全部、敵だった。
味方なんて一人しかいなかった。
思えば、あの頃はVtuberなんて無かった。
ほんの数年前だ。この文化が生まれて、この文化が好きだと言う人が増え始めた。
ずっと、ずっと、ずっと。
私は、耐えていたのかもしれない。
逃げてるつもりで、待っていたのかもしれない。
――勝ちたい。
4:4。次が、最後。
* * *
『なん、という……なんということだ!?
ミーコ選手意地を見せた! 再び両者のスコアが並んだぁ!!』
:うぉぉおおおおおお!!!!
:やばい。鳥肌立った
:ミーコ! ミーコ! ミーコ!
:初めてeスポーツが面白いと思ったわ
:粘り勝ち
:あの猛攻耐えるのかよ……
:ホタルの粘りもやばかった
:次が最後とかマジ?
:どっちが勝つんだろう
:終わって欲しくない
:ホタル負けないで! 勝って!
:ここまで来たらどっちも応援したい
:最高の試合だよこれ
:これ、どっちが勝っても歴史に残る試合だよね
:ホタルが勝つ! ホタルが勝つって信じてる!!
:ミーコ奇跡を見せてくれ
:俺なんで泣いてるんだろ
:心臓こわれそう
:もうダメ、手汗すごいんだけど笑
:演出だよね? 結局ホタルが勝つんだよね?
コメントの勢いが止まらない。
予選でも「残像」となっていたコメントだが、今はそれ以上の何かとなっている。
『試合開始! 泣いても笑ってもこれが最後です!』
実況が叫ぶ。
『あはは、今の二人にはウチも勝てないかもねぇ』
真希が冷静に呟く。
:ミーコがんばれ!
:ホタル押し切って!
ファンの応援が止まらない。
『……最強は、僕だ』
ホタルは譫言のように呟いた。
『……最強は、僕だ』
プレイは研ぎ澄まされている。
それはミーコも同じだった。
刹那の隙が敗北につながる。
画面の外にも伝わる程の緊張感があった。
『……最強は』
それは二ノ宮ホタルにさえも恐怖を与えた。
しかし彼は、その恐怖を打ち砕くようにして叫ぶ。
『最強は、僕だ!』
瞬間、異変が起こった。
これまで大連鎖を作っていたホタルの動きが変わったのだ。
『おぁぁぁ!? ホタル選手! ここで連続パーフェクトぉ!』
ミーコは完全に意表を突かれた形となった。
しかし、これにギリギリで対応してみせる。
ミーコのリソースが大幅に削られる。
ホタルは再びパーフェクトを達成した後、大連鎖に切り替えた。
ミーコの盤面が半分ほど岩ぽよで埋まった。
このまま大連鎖を受ければ、敗北は必至。
『なんと!? ここで2連鎖ダブル!?』
ミーコは速攻を仕掛けた。
今度はホタルが意表を突かれる番だった。
『くっ、マージンタイムか!』
試合の展開が変わる。
今度はミーコが優勢となり、徐々にホタルのラインがせりあがる。
『まだ! まだ! まだだ!』
ホタルは叫ぶ。
それは配信者としてのコメントか、あるいは本人の心から漏れ出た言葉か。
『なぁんという試合展開だ。ホタル選手、あそこから立て直すことに成功!!』
『まだ!』
その直後、意地を見せるかのようなパーフェクト。
ミーコは三連鎖+ダブルで冷静に対応する。しかし、次のリソースが無い。
これを見てホタルが連続パーフェクトを仕掛ける。
ミーコは最短で2連鎖を完成させ、ダメージを最小に抑えた。
『……強運だなぁ』
真希が呟いた。
その言葉通り、今のはミーコの運が強かった。
これ以外は無い。
そういう組み合わせのぽよを引き当てたのだ。
そのまま一進一退の攻防が続く。
両者の盤面は徐々に苦しくなった。
ミーコの盤面には通常ぽよと岩ぽよがあちこちで並びあっている。
ホタルの盤面は残り6ラインとなっており、その下には岩テトあるいは妨害テトが敷き詰められている。
ミーコが2連鎖+ダブルで攻撃した。
ホタルは猫のような反応速度で対応する。
次の攻撃までに間が生まれる。
ほんの数秒だが、その間にホタルは盤面のリカバリーを試みる。
ミーコは追撃をした。
これで決める。そんな声が聴こえるような攻撃だった。
『待ってたよ。それ!』
ホタルが笑う。
そして、痛烈なカウンターを始めた。
ミーコは無理な追撃でリソースが少ない。
そこに、ホタルのカウンターが突き刺さる。
『ホタル選手、ここで連続4列消し! まさか、これを狙っていたのかぁ!?』
起死回生の一撃が、ミーコ直撃した。
――否、ミーコは、あえて受けた。
反撃の2連鎖+ダブル。
マージンタイムに突入した状態であり、その威力は侮れない。
『効かないなぁ! そんな攻撃ぃ!』
ミーコは追撃したい。
しかし、そのためのリソースが無い。
だが、それはホタルも同じだった。
テトもラインを消すときには「待ち時間」が発生する。
ミーコは、その時間が欲しかった。
二度目の2連鎖攻撃。
今度は、まだまだリソースが残っている。
それはホタルも同じだ。
耐えるか、攻めるか、彼は選ぶことができる。
(……知ってるよ。次は5連鎖だろ?)
ホタルの脳が加速する。
(……2連鎖+ダブル。時間を空けてから5連鎖。反撃したくなるけど、今の盤面はギリギリ耐えられる。だから、あえて受けるべきだ)
多くの上級者が5連鎖を予想した。
あまり詳しくない初心者でさえも、これまでの試合展開からミーコの得意技が炸裂するシーンを想像した。
しかし――
2連鎖クアトロ+友情パワー増し増し。
『はぁ!?』
意表を突いた速攻。
5連鎖に備えていたホタルは、刹那の間だけ思考が止まった。
しかし、直ぐに復帰する。
ギリギリ耐えた盤面を掘り始める。
『やっちゃえミーコ!』
真希が叫んだ。
ミーコを育て上げた彼女には、その狙いが分かっていた。
全てのリソースを使い切る3連鎖ダブル+全消し。
ホタルはギリギリのタイミングで4列同時消しを発動させたが――
『決着ぅぅぅぅううううううううううううううううううう』
ファシリ・テイトの声が響き渡る。
『やっ、ったあああああ!』
ミーコが叫んだ。
彼女以外の全員が驚愕する。
しかし、止まらない。
ミーコは周りが見えていない様子で、はしゃいでいた。
それを見て、ホタルが頬を綻ばせる。
おめでとう。小さな声で祝福して、彼は拍手をした。
――真のラスボス、満を持して登場。
ホタルとの死闘で全てを使い果たしたミーコは、嘘のように敗北した。
瞬間最大同時接続者数、26万3000人。
驚異的な盛り上がりを見せた大会は、こうして幕を閉じた。
――と、この瞬間だけは、誰もが思った。
双方共に一歩も譲らず、「残り2ラインで敗北」という状況になっては、驚異的な粘りを見せ、今度は逆に相手が残り2ラインで敗北という状況に陥る。
それなのに、どういうわけか差が開いていく。
前回優勝者のスピネイルは、7回のゲームのうち、2回しか勝てなかった。
決勝は、ミーコと二ノ宮ホタル。
Vtuber最強の「ぽよ」使いとVtuber最強の「テト」使いによる異種戦となった。
視聴者数は十五万人を超えた。
コメントの勢い、盛り上がりは、留まるところを知らない。
ぽよのミーコか。それともテトの二ノ宮ホタルか。
Vtuberにおける「ぽよテト」最強プレイヤーを決める戦いが始まろうとしていた。
* ―― *
さっきのゲーム、楽しかったなぁ。
思えば、誰かと一緒にゲームした経験あんまりないかも。
お兄ちゃんは忙しくて、友達なんて居なかった。
これまでの練習を考えれば、真希さんと一緒だったし、画面の向こうには常に相手が存在していた。でも、あんまり一緒にプレイしている気分にはならなかった。
やっぱり、顔が見えるから?
それとも相手の声が聴こえたから?
どっちでもいっか。
私は、全力で楽しむ。
応援してくれる生徒達に応える。
(……本当は、私が一番弱いのに)
ふと、不思議な気持ちになった。
(……ミーコなら、勝てるかもしれない)
なんだか自分が強くなったような感覚がある。
勘違いだって分かるけど、でも、なんか、そんな気分。
『ミーコ選手、意気込みをどうぞ!』
『…………にゃほぉ、ミーコでーす』
『あははっ、決勝もそれか』
会話は、まだ難しいけど~!
* * *
『ホタル選手、お願いします』
『あと、ふたつ』
ファシリ・テイトの質問を受け、二ノ宮ホタルは指を二本立てた。
それはミーコに勝つという宣言であり、真希にも勝つという宣言でもある。
多くは語らない。
常に余裕を見せているホタルだが、流石に集中している様子が見えた。
ミーコを警戒しているのか。
それとも、ゲームに入り込んでいるだけか。
その答えは、直ぐに分かる。
――試合、開始。
画面の左側にミーコ。右側の右側にホタル。
お互い、AIが操作しているかのようなスピードでプレイを始めた。
――これまで、ミーコは「ぽよ」と対戦することが多かった。
ぽよ同士の対戦は、連鎖を組み立てながら互いの様子を見る戦いとなる。
しかし、相手が「テトの上級者」である場合は全く異なる。
『ホタル選手ぅ! いきなりのパーフェクトだぁ!』
盤面、全てのラインを消し去ること。
序盤にしかできない高度な技であり、攻撃力も非常に高い。
ミーコの盤面に横一列の岩ぽよが降り注いだ。
その結果、これまでに用意していた連鎖が全て封印される。
『ミーコ選手掘り始めるが、間に合うのかぁ!?』
『はは、間に合うわけないじゃん』
ファシリ・テイトの実況に対して、ホタルがコメントした。
その瞬間、彼の盤面で二度目の「パーフェクト」が発生する。
:いやいやいや……
:何これ無理ゲーじゃん
:ぽよ勝ち目なくね……?
決勝、第一戦。
勝者、二ノ宮ホタル。
試合時間は、僅か三十秒だった。
* ―― *
すごぉぉっぉ!?
連続パーフェクト!? 何それぇ!?
『ミーコ選手、目を見開いております』
『ぽてぇ……』
『ポテトさん、早くヒトの言葉を取り戻してください』
そうだ、そうだった。
テトは「速い」から、戦い方を変えないとダメなんだった。
『ポテトさん、ミーコ選手……いや、ぽよに勝ち目はあるのでしょうか?』
『ぽてぇ……』
『真希さぁん!? 解説変わって頂けますかぁ!?』
むぅ、まだ実況が聴こえる。
ミーコ集中できてないのかな?
(……集中。集中。集中)
* * *
二試合目。
ミーコは明らかに戦い方を変えた。
『へぇ?』
それを見てホタルが呟いた。
しかし、彼は戦い方を変えない。
彼の操作は、上級者としては遅い。
それは「パーフェクト」を狙った戦略を選択したからである。
『ほら、パーフェクトだ』
再び大火力がミーコの盤面を襲う。
だが、ミーコのぽよは縦に積み上げられており、まだ反撃の芽が残っている。
『あは、また作れちゃった』
ホタル、またしても連続パーフェクト。
AIのような精密操作を前に、コメント欄は湧き上がる。
また一瞬で終わるのか。
誰もがミーコの敗北を想像した瞬間――
『へぇ、やるじゃん』
ミーコは5連鎖に成功した。
ホタルのラインが少しだけ上昇する。
『まあ、僕が勝つけどね』
ほんの数秒後、3回目のパーフェクトが炸裂する。
ミーコの盤面は2度のパーフェクトでボロボロになっており、先程の5連鎖の反動によって攻撃の余地が残っていない。
0:2。
試合は、一方的な展開となりつつあった。
* ―― *
(……二回目が遅かった)
私は直前のゲームを思い出す。
(……左は間に合う。少し減らして右にも準備しなきゃ)
テトは横一列に降り注ぐ。
ぽよが完全に埋まった場合、何もできない。
だから縦に積む。
一ヵ所でも友情パワーを注ぎ込める余地があれば、反撃できる。
(……大丈夫。真希さんと一緒に練習した通り)
あれ、あの時の相手はAIだったっけ。
……うん、あってる。すっごく強かった。
あのAIと比べたら……まだ、遅い。
* * *
『ホタル選手2連勝だぁぁぁぁ!』
ファシリ・テイトの実況が響き渡る。
『予選では見せなかった連続パーフェクトぉ!?
なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは!?』
『あは、君、叫び過ぎだよ』
ホタルは実況に返事をした。
次のゲームが始まる前の時間とはいえ、それは余裕を感じさせる態度だった。
『単純に疑問なんだけど、どうして驚くのかな?
いつも言ってることだよ。これは当然の結果だ。だって――僕、最強だから』
カメラ目線。
その直後、三試合目が始まった。
2試合目と似たような展開。
ミーコが端にぽよを積み上げ、ホタルは淡々と「パーフェクト」の準備をする。
『パーフェクト。僕、これ好きなんだよね』
開幕速攻。
再びミーコを襲う理不尽な火力。
『だって、そう思うでしょ。
完璧な僕にピッタリの技だよ』
ミーコは、この一撃を受けた。
盤面の三割程度が岩ぽよに埋め尽くされる。
『あは、今回は運が良い。もう二回目が作れた』
ホタルは追撃をした。
しかしミーコ、これも受ける。
『うん、これで終わりかな』
ホタル、圧巻の三連続パーフェクト。
ミーコの盤面は、既に埋め尽くされており、たった一列しか残っていない。
『よし』
ポテトと交代した解説の真希が言う。
『いいよ。ミーコ。それが正解』
唯一残った場所に、岩ぽよが降り注ぐ。
ミーコはギリギリ「生存」しているが、ぽよを回転させることもできない。
――否、回転させる必要が無い。
先を見たミーコは、相手の攻撃を待ち、あえて受けた。
計算された位置にぽよが落下する。
そして――反撃の大連鎖が始まった。
『あはっ、やるじゃん!』
岩ぽよを一掃する8連鎖ダブル。
ホタルはタイミング良く四度目のパーフェクトを成功させたが、ぽよの攻撃を相殺できず、ラインが一気に上昇する。
『良いね。真希と戦う前の準備運動にピッタリだよ』
リンゴンとミーコの試合とは違う。
二ノ宮ホタルは、配信者として、その場の出来事を大袈裟に実況していた。
ファシリ・テイトも負けじと実況する。
しかしコメント欄には「スーツうるさい」という無慈悲な反応。
『面白い。競争しようか!』
ホタルがラインを掘り下げる。
その度に降り注ぐ岩ぽよを相殺しながら、ミーコが次の攻撃を用意する。
『――ほら、パーフェクトだ』
五度目のパーフェクト。
ミーコの攻撃によるダメージは、全て消し去られた。
:無理ゲーなんよ
:うわぁ……
ミーコを応援する者達の間に、絶望的な雰囲気が流れた。
しかし――決して、振り出しに戻ったわけではない。
『マージンタイム』
解説の真希が呟いた。
その直後、ミーコが2連鎖ダブルを決める。
最初、ミーコはパーフェクトに対する反撃として5連鎖を放った。
その結果、攻撃を相殺して、ほんの少しだけホタルのラインを押し上げた。
今回は2連鎖ダブル。
その威力は5連鎖よりも小さい。
しかし――
ホタルのラインが、僅かに上昇した。
『マジかッ』
この結果を受け、ホタルが初めて驚いた声を出した。
しかし、慌てず冷静にパーフェクトを作ろうとする。
――それはダメ。
その動きを咎めるようにして、ミーコが攻勢に回った。
ホタルのラインが一気に上昇する。そしてそれは、一度では終わらなかった。
『なぁんとぉ!? ミーコ選手! 奇跡の一勝だぁ!! 熱い! 熱過ぎる! これは決勝に相応しい名勝負の予感です!』
コメント欄のFPSが足りなくなった。
その後、ミーコは立て続けに勝利する。
3:2。逆転。
勝負は、まだ分からない。
:これ、どっちが勝つんだ?
:勢いに乗ってるミーコか?
:なんだかんだホタルだろ
:全然分からん。どっちもヤバすぎ
視聴者達の雰囲気も変化していた。
二ノ宮ホタル圧勝ムードから一転して、勝敗が読めない状況になっている。
『――温存したかったけど、仕方ない』
その雰囲気を壊すようにして、ホタルが呟いた。
詳細についてファシリ・テイトが問うけれど、ホタルは答えない。
もはやヘラヘラとした余裕は無い。
画面越しでも分かる程に、彼は集中していた。
第6試合。
ホタルはこれまでパーフェクトを連発していた。その代償として、速度を落としてプレイしていた。しかし、今回は違う。
100パーセント。
人間の限界に迫るようなスピードで、彼はテトを「左右」に積み上げた。
『おぉっと!? 二ノ宮ホタル、まだ隠し技を残していたようです!』
先程までとは明らかに違う戦い方。
それを見て、実況もコメント欄も盛り上がる。
『――連鎖は、ぽよの専売特許じゃない』
あっという間にテトを組み上げた後、それは始まった。
テトにも「連鎖」の概念がある。
そして大連鎖による瞬間的な火力は――パーフェクトに勝る。
連続1ライン消し。パーフェクトによる速攻を意識していたミーコの意表を突くようにして、それは始まった。
:これもうラスボスだろ
:絶望感やばすぎ
唖然とする視聴者達。
心なしかコメントの勢いも弱まった。
対して。
ホタルの新しい攻撃を受けたミーコは……。
* * *
(……なぁにそれぇ!? すごー!)
彼女は、楽しんでいた。
(……でも見たことあるー!)
そして、この攻撃は真希が想定していたものだった。
(……対策は)
数秒後、思い出す。
(……友情パワーでパワー!)
相手の火力を上回る攻撃を叩き込む。ただそれだけ。
ただし闇雲に連鎖しても勝てない。相手の方が速いからだ。
(……まずは、耐える)
マージンタイムを利用する。
(……大丈夫。我慢するのは、得意だから)
二ノ宮ホタルの猛攻は止まらない。
一撃の間隔は先程よりも遅いけれど、その分、威力が大きい。
『ミーコ選手ぅ、これを耐えるぅ!
だがホタル選手、早くも次を用意している!?』
(……もうちょっと。もうちょっとだけ耐えて)
……
(……むにゅぅぅぅぅ)
* * *
一進一退の展開が続いた。
ミーコが逆転した後、再びホタルが逆転。勝利まで、残りひとつ。
3:4。崖っぷちのミーコ。
しかしゲームの内容は徐々に良くなっている。
『……いいねぇ。いいねぇ。そうじゃなきゃ面白くない』
優勢のはずのホタルは、疲労していた。
『でも勝つのは僕だ! このゲームで終わらせる!』
八試合目が始まった。
互いの戦略は明確である。
攻めるホタル。
耐えるミーコ。
攻撃と防御。
タイミングがコンマ数秒でもズレたら負け。ズラされても負け。判断ミスひとつで致命的なダメージを受けることになる。極限の戦い。
二十万人弱の人々が見守る中。
勝負は、クライマックスへと向かっていた。
* ―― *
すごい。ホタルさん、すごい。
本当にギリギリ。苦しい。頭が割れそう。
でも、大丈夫。
慣れてる。痛いのは、慣れてるから。
(……勝ちたい)
生まれて初めて、誰かに期待された。
(……ただの、ゲームだけど)
相手は、きっと凄い人だ。
十年も逃げ続けていた私とは違って、ずっと、前に進み続けていた人だ。
普通に勝負したら勝てるわけがない。
私は彼の影を踏むこともできないと思う。
何度も思った。
何度も何度も同じことを思った。
私は弱い。
まだ太陽の下を歩くこともできない。
だけどミーコは違う。
沢山の生徒達に愛されて、期待されてる。
私の宝物。
生まれて初めて、自分で作った価値のあるモノ。
(……勝ちたい)
AIみたいなスピードと大連鎖。
それを「ピッタリ」の数で受ける。
『くそっ、落ちろ。落ちろ。落ちろよぉ!?』
背筋が震えるような声だった。
とても迫力がある。嫌なことを思い出しそうになる。
(……見て、くれてるよね)
全部、敵だった。
味方なんて一人しかいなかった。
思えば、あの頃はVtuberなんて無かった。
ほんの数年前だ。この文化が生まれて、この文化が好きだと言う人が増え始めた。
ずっと、ずっと、ずっと。
私は、耐えていたのかもしれない。
逃げてるつもりで、待っていたのかもしれない。
――勝ちたい。
4:4。次が、最後。
* * *
『なん、という……なんということだ!?
ミーコ選手意地を見せた! 再び両者のスコアが並んだぁ!!』
:うぉぉおおおおおお!!!!
:やばい。鳥肌立った
:ミーコ! ミーコ! ミーコ!
:初めてeスポーツが面白いと思ったわ
:粘り勝ち
:あの猛攻耐えるのかよ……
:ホタルの粘りもやばかった
:次が最後とかマジ?
:どっちが勝つんだろう
:終わって欲しくない
:ホタル負けないで! 勝って!
:ここまで来たらどっちも応援したい
:最高の試合だよこれ
:これ、どっちが勝っても歴史に残る試合だよね
:ホタルが勝つ! ホタルが勝つって信じてる!!
:ミーコ奇跡を見せてくれ
:俺なんで泣いてるんだろ
:心臓こわれそう
:もうダメ、手汗すごいんだけど笑
:演出だよね? 結局ホタルが勝つんだよね?
コメントの勢いが止まらない。
予選でも「残像」となっていたコメントだが、今はそれ以上の何かとなっている。
『試合開始! 泣いても笑ってもこれが最後です!』
実況が叫ぶ。
『あはは、今の二人にはウチも勝てないかもねぇ』
真希が冷静に呟く。
:ミーコがんばれ!
:ホタル押し切って!
ファンの応援が止まらない。
『……最強は、僕だ』
ホタルは譫言のように呟いた。
『……最強は、僕だ』
プレイは研ぎ澄まされている。
それはミーコも同じだった。
刹那の隙が敗北につながる。
画面の外にも伝わる程の緊張感があった。
『……最強は』
それは二ノ宮ホタルにさえも恐怖を与えた。
しかし彼は、その恐怖を打ち砕くようにして叫ぶ。
『最強は、僕だ!』
瞬間、異変が起こった。
これまで大連鎖を作っていたホタルの動きが変わったのだ。
『おぁぁぁ!? ホタル選手! ここで連続パーフェクトぉ!』
ミーコは完全に意表を突かれた形となった。
しかし、これにギリギリで対応してみせる。
ミーコのリソースが大幅に削られる。
ホタルは再びパーフェクトを達成した後、大連鎖に切り替えた。
ミーコの盤面が半分ほど岩ぽよで埋まった。
このまま大連鎖を受ければ、敗北は必至。
『なんと!? ここで2連鎖ダブル!?』
ミーコは速攻を仕掛けた。
今度はホタルが意表を突かれる番だった。
『くっ、マージンタイムか!』
試合の展開が変わる。
今度はミーコが優勢となり、徐々にホタルのラインがせりあがる。
『まだ! まだ! まだだ!』
ホタルは叫ぶ。
それは配信者としてのコメントか、あるいは本人の心から漏れ出た言葉か。
『なぁんという試合展開だ。ホタル選手、あそこから立て直すことに成功!!』
『まだ!』
その直後、意地を見せるかのようなパーフェクト。
ミーコは三連鎖+ダブルで冷静に対応する。しかし、次のリソースが無い。
これを見てホタルが連続パーフェクトを仕掛ける。
ミーコは最短で2連鎖を完成させ、ダメージを最小に抑えた。
『……強運だなぁ』
真希が呟いた。
その言葉通り、今のはミーコの運が強かった。
これ以外は無い。
そういう組み合わせのぽよを引き当てたのだ。
そのまま一進一退の攻防が続く。
両者の盤面は徐々に苦しくなった。
ミーコの盤面には通常ぽよと岩ぽよがあちこちで並びあっている。
ホタルの盤面は残り6ラインとなっており、その下には岩テトあるいは妨害テトが敷き詰められている。
ミーコが2連鎖+ダブルで攻撃した。
ホタルは猫のような反応速度で対応する。
次の攻撃までに間が生まれる。
ほんの数秒だが、その間にホタルは盤面のリカバリーを試みる。
ミーコは追撃をした。
これで決める。そんな声が聴こえるような攻撃だった。
『待ってたよ。それ!』
ホタルが笑う。
そして、痛烈なカウンターを始めた。
ミーコは無理な追撃でリソースが少ない。
そこに、ホタルのカウンターが突き刺さる。
『ホタル選手、ここで連続4列消し! まさか、これを狙っていたのかぁ!?』
起死回生の一撃が、ミーコ直撃した。
――否、ミーコは、あえて受けた。
反撃の2連鎖+ダブル。
マージンタイムに突入した状態であり、その威力は侮れない。
『効かないなぁ! そんな攻撃ぃ!』
ミーコは追撃したい。
しかし、そのためのリソースが無い。
だが、それはホタルも同じだった。
テトもラインを消すときには「待ち時間」が発生する。
ミーコは、その時間が欲しかった。
二度目の2連鎖攻撃。
今度は、まだまだリソースが残っている。
それはホタルも同じだ。
耐えるか、攻めるか、彼は選ぶことができる。
(……知ってるよ。次は5連鎖だろ?)
ホタルの脳が加速する。
(……2連鎖+ダブル。時間を空けてから5連鎖。反撃したくなるけど、今の盤面はギリギリ耐えられる。だから、あえて受けるべきだ)
多くの上級者が5連鎖を予想した。
あまり詳しくない初心者でさえも、これまでの試合展開からミーコの得意技が炸裂するシーンを想像した。
しかし――
2連鎖クアトロ+友情パワー増し増し。
『はぁ!?』
意表を突いた速攻。
5連鎖に備えていたホタルは、刹那の間だけ思考が止まった。
しかし、直ぐに復帰する。
ギリギリ耐えた盤面を掘り始める。
『やっちゃえミーコ!』
真希が叫んだ。
ミーコを育て上げた彼女には、その狙いが分かっていた。
全てのリソースを使い切る3連鎖ダブル+全消し。
ホタルはギリギリのタイミングで4列同時消しを発動させたが――
『決着ぅぅぅぅううううううううううううううううううう』
ファシリ・テイトの声が響き渡る。
『やっ、ったあああああ!』
ミーコが叫んだ。
彼女以外の全員が驚愕する。
しかし、止まらない。
ミーコは周りが見えていない様子で、はしゃいでいた。
それを見て、ホタルが頬を綻ばせる。
おめでとう。小さな声で祝福して、彼は拍手をした。
――真のラスボス、満を持して登場。
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