21 / 221
最初の一歩
人生ゲームを作った日(3)
しおりを挟む
このボロアパートに住み始めてから、日付や時間の感覚は薄れていった。
金があれば使い、なければ働く。
金を使っていない時は、ずっと眠っていた。
日中に眠れば、当然夜は目が冴える。
今と同じように、深夜に何もせず起きている事は珍しくなかった。
みさきと出会ってから多くのことが変わったが、闇に慣れた目が薄らと映す天井は少しも変わっていない。あの頃と違うのは、身体を包む温かい布団と、微かに聞こえる寝息だけだ。数えてしまえば、たった2つ。しかしそれが俺に与えた影響を数えたら、とても2つでは足りない。
この借りは返さなくちゃいけない。
その為には金が必要だ。
その為には、仕事が必要だ。
だから、必ず人生ゲームを完成させなければならない。
……ボードを文字で表現したとして、プレイヤーはどう表現すりゃいい? 現在地とか、各プレイヤーの所持金とか……つっても、使える道具は限られている。とりあえず数字とかは箱に突っ込むしかないよな。だったらプレイヤーと同じ数だけ箱を作って、その中身を弄ればいいんじゃねぇか? ……それって具体的にどうやるんだ? 一個ずつ弄る事なら出来るが、ゲーム中に何度もプログラムを書き直すのか? そんなのゲームじゃねぇよ。
……ダメだ、何も思いつかねぇ。
いや諦めるな、考えろ。
考えることを止めるな。
考えるんだ。考え続けろ――
「りょーくん?」
ここで鍵を使って、いや、これじゃ意味は無い……クソっ、この案もボツだ。
「りょーくんっ」
「……ああ、みさき、起きてたのか」
体を揺らされて、初めて気が付いた。
いつのまにか部屋の中が明るくなっている。
どうやら朝になっていたようだ。
しかも、みさきは保育園に行く準備を完了させていた。
「わりぃ、もう時間だったか?」
コクリと頷いて、保育園に通わせる際に買ってやった安い腕時計を見せるみさき。
「……ちょうど、いつもの時間か。わりぃ、一分だけ待ってくれ」
力いっぱい両頬を叩いて目を覚ました後、急いで準備を整えて部屋を出た。
いつもと同じように並んで歩く。
その途中、みさきが俺のズボンを引っ張った。
「だいじょうぶ?」
おいおい、何してんだよ俺。みさきに心配されてんじゃねぇか。
「もちろんだ。急にどうした」
強がって笑いかけた俺の目に、みさきの無垢な目が映る。まったく、どっちが親やってんのか分かんねぇや。
「……心配すんな」
久々に頭を使ったから疲れてるだけだ。
なに、こんなの楽勝だ。
俺を誰だと思ってやがる。
「……」
そんな強がりを見抜かれているのか、保育園に着くまでの間、みさきはずっと心配そうな目で俺を見ていた。
みさきを送り届けた後、俺は兄貴の所に直行してパソコンを開いた。そして事前に考えていたプログラムを打ち込み、現れたエラーと睨み合う。
プログラムにおけるエラーとは、パソコンが理解出来ないプログラムを書いた時に起こるものだ。つまりは書き間違えたとか、そもそも使い方が間違っているとか、そういうものだ。エラーが起きたかどうかは、コンパイラという優秀な相棒が教えてくれる。
問題は、エラーが起こらない間違いだ。
計算結果が5になるはずのプログラムを作ったとして、何かを間違えていれば別の計算結果が現れることがある。しかし、それは別の計算結果を表すプログラムとして成立しているから、コンパイラはエラーがあると判断しない。その場合、自分でエラーを見付けなければならないのだ。この作業が地味に辛い。
「……やっと見つけた、ここか」
数十分かけて見つけたエラーを直すのにかかる時間は、たった数秒。こんなことを繰り返していたら頭がおかしくなりそうだ。
「……こんな姿、みさきには見せらんねぇよな」
既に心配された身で何を言っているのかと思うかも知れないが、それでも、必死に頑張っている姿を子供に見せるというのは気が引ける。
「よし、続きだ」
3日目。
この日も俺はパソコンと睨み合った。昨日よりは手が動くようになったが、人生ゲームが完成する気配はまるで感じられない。
少しだけ、焦り始めていた。
金があれば使い、なければ働く。
金を使っていない時は、ずっと眠っていた。
日中に眠れば、当然夜は目が冴える。
今と同じように、深夜に何もせず起きている事は珍しくなかった。
みさきと出会ってから多くのことが変わったが、闇に慣れた目が薄らと映す天井は少しも変わっていない。あの頃と違うのは、身体を包む温かい布団と、微かに聞こえる寝息だけだ。数えてしまえば、たった2つ。しかしそれが俺に与えた影響を数えたら、とても2つでは足りない。
この借りは返さなくちゃいけない。
その為には金が必要だ。
その為には、仕事が必要だ。
だから、必ず人生ゲームを完成させなければならない。
……ボードを文字で表現したとして、プレイヤーはどう表現すりゃいい? 現在地とか、各プレイヤーの所持金とか……つっても、使える道具は限られている。とりあえず数字とかは箱に突っ込むしかないよな。だったらプレイヤーと同じ数だけ箱を作って、その中身を弄ればいいんじゃねぇか? ……それって具体的にどうやるんだ? 一個ずつ弄る事なら出来るが、ゲーム中に何度もプログラムを書き直すのか? そんなのゲームじゃねぇよ。
……ダメだ、何も思いつかねぇ。
いや諦めるな、考えろ。
考えることを止めるな。
考えるんだ。考え続けろ――
「りょーくん?」
ここで鍵を使って、いや、これじゃ意味は無い……クソっ、この案もボツだ。
「りょーくんっ」
「……ああ、みさき、起きてたのか」
体を揺らされて、初めて気が付いた。
いつのまにか部屋の中が明るくなっている。
どうやら朝になっていたようだ。
しかも、みさきは保育園に行く準備を完了させていた。
「わりぃ、もう時間だったか?」
コクリと頷いて、保育園に通わせる際に買ってやった安い腕時計を見せるみさき。
「……ちょうど、いつもの時間か。わりぃ、一分だけ待ってくれ」
力いっぱい両頬を叩いて目を覚ました後、急いで準備を整えて部屋を出た。
いつもと同じように並んで歩く。
その途中、みさきが俺のズボンを引っ張った。
「だいじょうぶ?」
おいおい、何してんだよ俺。みさきに心配されてんじゃねぇか。
「もちろんだ。急にどうした」
強がって笑いかけた俺の目に、みさきの無垢な目が映る。まったく、どっちが親やってんのか分かんねぇや。
「……心配すんな」
久々に頭を使ったから疲れてるだけだ。
なに、こんなの楽勝だ。
俺を誰だと思ってやがる。
「……」
そんな強がりを見抜かれているのか、保育園に着くまでの間、みさきはずっと心配そうな目で俺を見ていた。
みさきを送り届けた後、俺は兄貴の所に直行してパソコンを開いた。そして事前に考えていたプログラムを打ち込み、現れたエラーと睨み合う。
プログラムにおけるエラーとは、パソコンが理解出来ないプログラムを書いた時に起こるものだ。つまりは書き間違えたとか、そもそも使い方が間違っているとか、そういうものだ。エラーが起きたかどうかは、コンパイラという優秀な相棒が教えてくれる。
問題は、エラーが起こらない間違いだ。
計算結果が5になるはずのプログラムを作ったとして、何かを間違えていれば別の計算結果が現れることがある。しかし、それは別の計算結果を表すプログラムとして成立しているから、コンパイラはエラーがあると判断しない。その場合、自分でエラーを見付けなければならないのだ。この作業が地味に辛い。
「……やっと見つけた、ここか」
数十分かけて見つけたエラーを直すのにかかる時間は、たった数秒。こんなことを繰り返していたら頭がおかしくなりそうだ。
「……こんな姿、みさきには見せらんねぇよな」
既に心配された身で何を言っているのかと思うかも知れないが、それでも、必死に頑張っている姿を子供に見せるというのは気が引ける。
「よし、続きだ」
3日目。
この日も俺はパソコンと睨み合った。昨日よりは手が動くようになったが、人生ゲームが完成する気配はまるで感じられない。
少しだけ、焦り始めていた。
1
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる