日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

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最初の一歩

人生ゲームを作った日(3)

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 このボロアパートに住み始めてから、日付や時間の感覚は薄れていった。

 金があれば使い、なければ働く。
 金を使っていない時は、ずっと眠っていた。

 日中に眠れば、当然夜は目が冴える。
 今と同じように、深夜に何もせず起きている事は珍しくなかった。

 みさきと出会ってから多くのことが変わったが、闇に慣れた目が薄らと映す天井は少しも変わっていない。あの頃と違うのは、身体を包む温かい布団と、微かに聞こえる寝息だけだ。数えてしまえば、たった2つ。しかしそれが俺に与えた影響を数えたら、とても2つでは足りない。

 この借りは返さなくちゃいけない。
 その為には金が必要だ。
 その為には、仕事が必要だ。
 だから、必ず人生ゲームを完成させなければならない。

 ……ボードを文字で表現したとして、プレイヤーはどう表現すりゃいい? 現在地とか、各プレイヤーの所持金とか……つっても、使える道具は限られている。とりあえず数字とかは箱に突っ込むしかないよな。だったらプレイヤーと同じ数だけ箱を作って、その中身を弄ればいいんじゃねぇか? ……それって具体的にどうやるんだ? 一個ずつ弄る事なら出来るが、ゲーム中に何度もプログラムを書き直すのか? そんなのゲームじゃねぇよ。

 ……ダメだ、何も思いつかねぇ。
 いや諦めるな、考えろ。
 考えることを止めるな。
 考えるんだ。考え続けろ――

「りょーくん?」

 ここで鍵を使って、いや、これじゃ意味は無い……クソっ、この案もボツだ。

「りょーくんっ」
「……ああ、みさき、起きてたのか」

 体を揺らされて、初めて気が付いた。
 いつのまにか部屋の中が明るくなっている。
 どうやら朝になっていたようだ。
 しかも、みさきは保育園に行く準備を完了させていた。

「わりぃ、もう時間だったか?」

 コクリと頷いて、保育園に通わせる際に買ってやった安い腕時計を見せるみさき。

「……ちょうど、いつもの時間か。わりぃ、一分だけ待ってくれ」

 力いっぱい両頬を叩いて目を覚ました後、急いで準備を整えて部屋を出た。

 いつもと同じように並んで歩く。
 その途中、みさきが俺のズボンを引っ張った。

「だいじょうぶ?」

 おいおい、何してんだよ俺。みさきに心配されてんじゃねぇか。

「もちろんだ。急にどうした」

 強がって笑いかけた俺の目に、みさきの無垢な目が映る。まったく、どっちが親やってんのか分かんねぇや。

「……心配すんな」

 久々に頭を使ったから疲れてるだけだ。
 なに、こんなの楽勝だ。
 俺を誰だと思ってやがる。

「……」

 そんな強がりを見抜かれているのか、保育園に着くまでの間、みさきはずっと心配そうな目で俺を見ていた。

 みさきを送り届けた後、俺は兄貴の所に直行してパソコンを開いた。そして事前に考えていたプログラムを打ち込み、現れたエラーと睨み合う。

 プログラムにおけるエラーとは、パソコンが理解出来ないプログラムを書いた時に起こるものだ。つまりは書き間違えたとか、そもそも使い方が間違っているとか、そういうものだ。エラーが起きたかどうかは、コンパイラという優秀な相棒が教えてくれる。
 
 問題は、エラーが起こらない間違いだ。
 計算結果が5になるはずのプログラムを作ったとして、何かを間違えていれば別の計算結果が現れることがある。しかし、それは別の計算結果を表すプログラムとして成立しているから、コンパイラはエラーがあると判断しない。その場合、自分でエラーを見付けなければならないのだ。この作業が地味に辛い。

「……やっと見つけた、ここか」

 数十分かけて見つけたエラーを直すのにかかる時間は、たった数秒。こんなことを繰り返していたら頭がおかしくなりそうだ。

「……こんな姿、みさきには見せらんねぇよな」

 既に心配された身で何を言っているのかと思うかも知れないが、それでも、必死に頑張っている姿を子供に見せるというのは気が引ける。
 
「よし、続きだ」

 3日目。
 この日も俺はパソコンと睨み合った。昨日よりは手が動くようになったが、人生ゲームが完成する気配はまるで感じられない。

 少しだけ、焦り始めていた。
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