日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

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最初の一歩

人生ゲームを作った日(5)

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 今日で5日目だ。
 約束の日は明後日の夜。

 残された時間は今日と明日、そして明後日の日中だけ……。

 今日も今日とてパソコンと格闘していた俺は、兄貴の助言で外に出ていた。気分転換をしろ、とのこと。そんなにヤバい様子だったのだろうか?

 しかし気分転換か……ダメだ、どうしてもプログラムのことを考えちまう。残り2日しかないってのに、問題は山積みだ。現在地とかを表現する方法や、ルーレットを回す、つまりは数字をランダムに表現する方法など……間に合うのか、これ。

 ぼんやりとした気分で街中を歩く。その途中、大きなショーケースの前で足を止めた。中に入っている商品ではなく、そこに映った自分の姿に意識を奪われた。

 相変わらず女みてぇな面《ツラ》なのはさておき、大きな隈が出来ている。なるほど、みさきに心配されちまうワケだ。

 あれ、あの保育士は何も言ってこなかったよな? まぁでもそうか、赤の他人を心配したりしねぇよ。

 しっかし、どうしたもんかねぇ。こうしている間にも残り時間が減っていくし、人生ゲームが完成する未来は未だに少しも想像できない。面接を受けていた時に合格する未来が想像出来なかったのと同じだ。やはり、俺には無理なのだろうか。

「また会いましたね!」
「……あぁ、あんたか」

 振り向くと、妙に偉そうな顔をして俺を指差す女が居た。
 路地を出る度に追いかけて来る不審者さん。
 今日は礼服を着ている。

「なんだか元気がありませんね。何かあったのですか?」
「……ねぇよ、何も」

 そうだ、何も問題ない。こんなの大したことじゃない。仮に間に合わなかったとしても、俺は有るかも分からないチャンスを失うだけだ。
 明後日、あのロリコンが現れない可能性だってあるからな。

「……じゃあな」
「待ちなさい」
「……暴行罪は何処に行ったんだよ。離せよ」
「ふっ、よく聞きなさい。法律は基本的に女性を優遇しているのです」

 ……なんなんだこいつ。

「ほんと、あんたに付き合う気分じゃないんだ。離してくれ」
「離しません! あなたの様な人が凶悪な犯罪を起こすのです。さぁ、大きな過ちを犯す前に何か食べましょう。お腹を満たせば、気分も変わるはずです」

 なんだこいつ、もしかして俺のことを気にかけているのか? まったく呆れるほど正義感の強い女だな。見ず知らずの他人を心配して何の得があるんだよ。

「俺に構って何の得があるんだよ、という顔をしていますね」

 エスパーかよ。

「私の夢は世界を変えることです。その為なら、貴方のような最低のクズにだって手を貸してあげます。その代わり、きちんと更生して、今度は貴方が友人を更生させてください」

 すげぇ真っ直ぐな目をした人だな。まともに見たこと無いから気付かなかった。
 それに比べて俺は……

「ちょっと、目を逸らさないでください!」

 ……最低のクズ、か。

「ありがとな、おかげで思い出した」
「……え?」

 この女の言う通りだ。
 ちょっとはマシになったつもりだったか天童龍誠。調子に乗るな。テメェは、みさきと出会う前と何ひとつ変わってねぇよ。あの頃と同じ、最底辺を生きるクズだ。

 当たり前だろ。何年もかけて落ちた場所から、そう簡単に動き出せるワケがねぇ。だけど最初の一歩ってのはそういうもんだ。負けてたまるかよ。

「じゃあな、もうひと踏ん張りしてくるよ」
「ちょっと……」

 不審者さんは声で俺を引き留めたものの、追いかけては来なかった。

 まったく、あんな女に気付かされるとは情けない。

 少ない手札で人生ゲームを作る方法を考えているのに、テメェが持ってる手札を忘れているようじゃ進展しないわけだよ。

 根性。俺にあるのはソレだけだろうが。
 悩んでる暇があったら手を動かしやがれ!



 と、兄貴の店に戻った俺だが……。

「手が、動かねぇ……」

 うぉぉぉ! どうやったら出来るんだよ人生ゲーム!
 チクショウ! あのロリコン次に会ったら一発殴ってやる!

「調子戻ったみてぇだな、クソガキ」
「絶好調だコラ」
「口の悪さがか?」
「うるせぇ」

 調子? 知らねぇよそんなの。
 必死なだけだっつうの。

「はぁ!? 今のがエラーとか寝てんのかコンパイラ! しっかりしろやコラ!」

 手を動かしたら動かしたでエラー続出。
 必死こいて考えたプログラムが否定されまくるってのは、なかなかキツい。

 なんだこれ、まったく間に合う気がしない。
 だけど落ち込んでいる暇なんて無い。

 残り2日、絶対に完成させてやるよ!
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