日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

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最初の一歩

人生ゲームを作った日(6)

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 ついに6日目を迎えてしまった。
 今日は土曜日だから、みさきが部屋に居る。
 もはや勉強している姿を見せたくないとか甘えたことを言っている余裕は残されていないのだが、やはり気が引けてしまう。俺に与えられたチャンスは、みさきが寝てから起きるまで、深夜だけだ……いや「ちょっと働いてくるよ(大嘘)」という手段を使えば……く、こういうとき他の父親はどうしてるんだ? こんな小さいこと気にしないで、むしろ積極的に頑張っている姿を子供に見せるのか?

 よく分からないが、俺の両親は違った。俺は、あの人達がどんな仕事をしているのか知らない。もちろん、何かに必死になっている姿なんて見たことが無い。あれを基準に考えるのはどうかと思うけどな。

 みさきはどう思うのだろう?
 いつものように鉛筆を手にしたみさきは、算数ドリル(1年生)を使って勉強している。この姿を見た俺は、自分も頑張らなければと思うのだが……。

 やっぱ嫌だよな、そんなの。ダサ過ぎだろ。
 親が必死こいて勉強している姿なんて見たくない。底辺が何言ってんだって話だけど、底辺なりにちっぽけなプライドがある。

 さておき、算数ドリルは昨日みさきを迎えに行った帰りに買い与えたものだ。ゆいちゃんと一緒に勉強して興味を持ったらしい。

 漢字ドリルでは驚くほど早く手を動かしていたみさきだが、計算は苦手なのか今回は動きが鈍い。そっと覗き込むと「3+8」という問題で手を止めていた。

 ずっと悩んでいたみさきは、鉛筆を置いて両手でグーを作る。それから一本ずつ指を立てていった。果たして指が足りなくなった所で動きを止める。

「……ない」

 落ち着けみさき、10の次だ、10の次。

「……はち、きゅ、じゅ、ひゃく」

 答えの欄に百と書いて次の問題を解き始めるみさき。

「待て待て」
「……ん?」

 どこから指摘すればいい?
 算数の答えに漢字が出て来たところか?
 十の次が百だったところか?

「よし、まずは1から順番に数えてみろ」

 コクリと頷くみさき。

「いち、に、さん、よん、ご、ろく、なな、はち、きゅ、じゅ、ひゃく」
「待て待て」
「……ん?」

 何かおかしかった? と首を傾けるみさき。

「じしょ、かいてた」

 辞書に書いてあったってことか?

「じゅ、ひゃく、せん、まん、おく、ちょう」

 漢字だけ先に勉強したことによる弊害がこんなところに!?

「いいかみさき、10の次は11だ。じゅういち」
「じゅーいち?」
「そうそう。その次は12」
「じゅーに?」
「流石みさきだ。なら、12の次は何だと思う?」
「……んん?」

 と目を閉じて眉を寄せるみさき。

「……いち、に……じゅーさん?」
「正解だ! やっぱりみさきは天才だな!」

 ふふんと鼻を鳴らして嬉しそうな顔をするみさき。

「ついでに、19の次は20で、29の次は30、99の次が100だ」
「……じしょ、うそつき」

 いや、そういうわけじゃないと思うが……。

「……ひゃくのつぎ、ひゃくいち?」
「おお、正解だ。すごいな」

 みさき、本当に天才なんじゃねぇの?

 驚く俺の前で、みさきは百と書いた所を黒く塗りつぶし、隣に101と書いた。

「待て待て」
「……ん?」
101それなんて読むんだ?」
「じゅーいち」
「いやいや……」

 なんというか、この失敗を恐れない姿勢は尊敬する。でも、そりゃそうだよな。誰も教えてくれないなら自分で考えるしかない。丁寧に勉強を教わった俺と違って、みさきは文字通りゼロから考えているんだ。みさきにとって自分で考えることは当たり前で、そうして出した答えに是非を問うようなことはしないのだろう。

 教わることは誰にだって出来るけど、考えることは誰にでも出来るワケじゃない。

 俺は昔も今も考えることが苦手だが、みさきの親を名乗るなら、このままじゃダメだよな。みさきに相応しい親にならねぇと……。

 とりあえず101ひゃくいちまで教えた後、みさきは勉強を再開した。先程までと違い、サクサク問題を解いていく。

 さておき算数か。
 どうしても一緒に出掛けられない兄弟とか、よく分からない図形の面積とか、そういうことしか覚えてねぇや。あれ、何の役に立つんだろうな。

 算数もそうだが、数学なんてさらに意味不明だ。ほんと、xとかyとか求めて何の意味があるんだよ……いや、待てよ。これって……箱じゃないか? プログラムを考える際に、求める値をxという名前の箱にして、というか、それ自体を鍵にした式を作れば……そうだ、この考え方なら……っ!

 …………今すぐ試したい。

「りょーくん、といれ?」

 ……なんだこの、なんだ。
 
「いや、そういうわけじゃないんだ」
「……ん?」

 すげぇ恥ずかしい。

「みさき」

 と立ち上がる俺。

「りょーくん、ちょっと働いてくるよ」
「……ん」

 結局、我慢できなかった。
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