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間章 春前
SS:みさきと運動
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土曜日。
結局ピアノを買えなかった次の日、ふと思った。
走りたい。
電気については、ポータブル電源とかいうのを買えば解決するらしい。便利な世の中になったものだ。しかしながら、普通に引っ越した方がいいという考え方にも一理ある。
だがそんなこと今はどうでもいい。
とにかく走りたい!
どうしてなのか分からないが、体が軽い。
驚くほど軽い。軽いんだよ!!
こっそりみさきを見ると、いつものように勉強していた。今日は算数ドリル(6年生)を使っている。ほんの一週間前に足し算を教えた記憶があるのだが、流石みさきだ。
みさきがうーんと悩み、ハッとして鉛筆を動かし、ページ後方にある答えをチラっと見て満足そうに赤鉛筆を動かし、また次の問題に取り組む。そんな姿を見ているのは楽しい。丸一日見ていたって飽きない。
だが俺は思うのだ。
ちょっとは運動した方がいいんじゃね?
いやいや、俺が走りたいのもあるのだが、それ以上にみさきがね? このままじゃ将来ぶよぶよになってしまうのではないかと心配で心配で……だから心肺機能を向上させる! 親として!
「みさき」
「ん?」
「お外……出たくないか?」
「でる」
迅速果断。鉛筆を置いて外へ向かったみさき。
弾むような動きでドアを開け……
「とどかない……」
開けられず、しゅんとした表情で振り向くみさき。
……やっぱり俺のみさきは世界一かわいい。
さておき、みさきの身長はちょっと不安になるな。もう5歳なのに、90センチも無いんじゃないか?
いやでも、あのドアノブには背伸びしたら届きそうな気もするが……。
「みさき、背伸びだ。背伸び」
「せのび?」
「こう、ぐって爪先立ちになるんだよ」
「……ん」
俺のマネをして背伸びをするみさき。
……いける、届く、いけっ、もうちょい!
みさきの手が少しずつドアノブに近付き、触れ、そして掴める位置に……来たところで、みさきは背伸びを止めて座り込んだ。
「ど、どうしたんだみさきっ」
「……あし、ひりひり」
「ひりひり?」
「……いたい」
「攣ったのか!? マジでか!?」
やっぱヤベェよ! 背伸びで筋肉さんがこむら返っちまうのはヤベェって!
「よよよよよしみさみさみさき落ち着け、まままずは落ち着いて脚を伸ばすんだ。力を抜け、リラックスだ、リラックス」
「……ん」
みさきが伸ばした脚を持って、ガクガク震える手でアキレス腱のケアを試みる。
「んんっ、ん……」
「みさき、我慢だ。痛いのは今だけだ……」
チクショウなんてこった!
俺の判断ミスでみさきに痛い思いをさせちまうなんて!!
「んっ、んんぁ……」
辛そうな声を出すみさき。
俺もみさき以上に胸が苦しいが、だが逆に決意が固まった。
背伸びしただけで攣るのはマジでヤバい!
運動不足ってレベルじゃない!
「みさき、もう大丈夫か? 痛くないか……?」
「……ん」
ひょいと立ち上がって、頷いてみせるみさき。
直前に痛い思いをしたが、外へ出るという気持ちは変わっていないらしい。
「よっしゃ! 公園行くぞみさき!」
「んっ」
こんな具合に。
龍誠はみさきと定期的に運動をするようになった。
そして、運動をする度に脚を攣るみさきだが、そのうち3回に2回くらいは仮病であることを龍誠はいつまでも気付けない。
未だに手も繋いでくれないりょーくんに甘える手段として仮病を使っていることに、龍誠はずっと気付けない。
「りょーくん、あし、ひりひり……」
「うぉぉぉ落ち着けみさきっ、大丈夫だ、大丈夫だからな!!」
結局ピアノを買えなかった次の日、ふと思った。
走りたい。
電気については、ポータブル電源とかいうのを買えば解決するらしい。便利な世の中になったものだ。しかしながら、普通に引っ越した方がいいという考え方にも一理ある。
だがそんなこと今はどうでもいい。
とにかく走りたい!
どうしてなのか分からないが、体が軽い。
驚くほど軽い。軽いんだよ!!
こっそりみさきを見ると、いつものように勉強していた。今日は算数ドリル(6年生)を使っている。ほんの一週間前に足し算を教えた記憶があるのだが、流石みさきだ。
みさきがうーんと悩み、ハッとして鉛筆を動かし、ページ後方にある答えをチラっと見て満足そうに赤鉛筆を動かし、また次の問題に取り組む。そんな姿を見ているのは楽しい。丸一日見ていたって飽きない。
だが俺は思うのだ。
ちょっとは運動した方がいいんじゃね?
いやいや、俺が走りたいのもあるのだが、それ以上にみさきがね? このままじゃ将来ぶよぶよになってしまうのではないかと心配で心配で……だから心肺機能を向上させる! 親として!
「みさき」
「ん?」
「お外……出たくないか?」
「でる」
迅速果断。鉛筆を置いて外へ向かったみさき。
弾むような動きでドアを開け……
「とどかない……」
開けられず、しゅんとした表情で振り向くみさき。
……やっぱり俺のみさきは世界一かわいい。
さておき、みさきの身長はちょっと不安になるな。もう5歳なのに、90センチも無いんじゃないか?
いやでも、あのドアノブには背伸びしたら届きそうな気もするが……。
「みさき、背伸びだ。背伸び」
「せのび?」
「こう、ぐって爪先立ちになるんだよ」
「……ん」
俺のマネをして背伸びをするみさき。
……いける、届く、いけっ、もうちょい!
みさきの手が少しずつドアノブに近付き、触れ、そして掴める位置に……来たところで、みさきは背伸びを止めて座り込んだ。
「ど、どうしたんだみさきっ」
「……あし、ひりひり」
「ひりひり?」
「……いたい」
「攣ったのか!? マジでか!?」
やっぱヤベェよ! 背伸びで筋肉さんがこむら返っちまうのはヤベェって!
「よよよよよしみさみさみさき落ち着け、まままずは落ち着いて脚を伸ばすんだ。力を抜け、リラックスだ、リラックス」
「……ん」
みさきが伸ばした脚を持って、ガクガク震える手でアキレス腱のケアを試みる。
「んんっ、ん……」
「みさき、我慢だ。痛いのは今だけだ……」
チクショウなんてこった!
俺の判断ミスでみさきに痛い思いをさせちまうなんて!!
「んっ、んんぁ……」
辛そうな声を出すみさき。
俺もみさき以上に胸が苦しいが、だが逆に決意が固まった。
背伸びしただけで攣るのはマジでヤバい!
運動不足ってレベルじゃない!
「みさき、もう大丈夫か? 痛くないか……?」
「……ん」
ひょいと立ち上がって、頷いてみせるみさき。
直前に痛い思いをしたが、外へ出るという気持ちは変わっていないらしい。
「よっしゃ! 公園行くぞみさき!」
「んっ」
こんな具合に。
龍誠はみさきと定期的に運動をするようになった。
そして、運動をする度に脚を攣るみさきだが、そのうち3回に2回くらいは仮病であることを龍誠はいつまでも気付けない。
未だに手も繋いでくれないりょーくんに甘える手段として仮病を使っていることに、龍誠はずっと気付けない。
「りょーくん、あし、ひりひり……」
「うぉぉぉ落ち着けみさきっ、大丈夫だ、大丈夫だからな!!」
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