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第二章 仕事と子育て
SS:ゆいとみさきはあついのきらい!
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今年初の真夏日を迎えたぽんぽこ保育園。
ゆいは、ぐったりと机に頬をくっつけていた。
「たいようさんが、おいかりです」
かすれた声を聞いて、まったり本を読んでいたみさきは顔を上げた。
「だいじょうぶ?」
「……つらい」
いつものように「へーき!」という返事を期待していたみさきは、まさかの敗北宣言に驚いた。
ゆいちゃんがピンチ!
みさきはパタンと本を閉じて、せっせとゆいに風を送る。
みさきの手が上下する度、手に持った本がパタパタと音を鳴らして微かな風をゆいに送る。
「……あり、がと」
ゆいは気持ちよさそうに目を細めた。
それを見てみさきは少しだけ動きを激しくする。
「……ふぅぅぅー」
ゆいはさらに気持ちよさそうになった。
みさきは、風を強くすればいいのかなと思う。
みさきは考えた。
風が起こるのは、本を動かした時。
ちょうどみさきの手元には分厚い本と薄い本がある。二つは同じくらいの面積で、厚さだけが違う。みさきは試しに、二つの本で起こる風の強さを比較してみた。
まずは薄い方の本。
「……えへへへ」
次は厚い方。
「……いひひひ」
みさきは本の厚さでは起こる風の強さは変わらないと直感した。
そこでみさきは、分厚い方の本をゆいの直ぐ傍に近付けてみる。
「むむむ?」
不思議そうな顔でみさきを見るゆい。
みさきは本の下側に親指を当てて、パラパラパラっと一気にページをめくった。
「おぉぉ」
思った通り、ゆいちゃんの反応が良くなった。
みさきは同じことを何度か繰り返して、ふと手を止めた。
「……むむ?」
なんでやめちゃうの?
縋るような目で見るゆい。
つかれた。
他に理由は無いみさき。
なんだか効率が悪いような気がする。
もっと楽な方法は無いのだろうか。
「……んー?」
と考え込むみさき。
「……むむむ?」
どうしたの? と思うゆい。
「あらあら、どうしたの?」
問いかけたのは、ちょうど部屋に戻って来た保育士だった。
たぬき組を担当する保育士は一人で、彼女は基本的に外で遊ぶ園児達の面倒を見ている。
それは、みさき達なら見ていなくても安心できるというのが主な理由だ。
外で遊ぶ園児といっても、当然それはたぬき組だけではない。より目を離してはいけない年少組の子達も居て、その組を担当する保育士の人と一緒になって面倒を見ている。
外で遊ぶ園児達は今日も元気だが、大人にとっては辛い気象条件。保育士達は園児が熱中症にならないように気を配りつつ、自分達も交代で休憩を取ることを決めた。今は彼女の番。
「……ゆいちゃん、つらい」
相変わらず言葉の足りないみさき。しかし、この程度なら慣れっこな保育士はみさきの言いたい事を瞬時に理解して、ゆいに声をかけた。
「大丈夫?」
「……つらい」
あら、と驚く保育士。
いつもなら「へーき!」と強がるゆいちゃんが、珍しく弱音を吐いた。
「何か飲む?」
「……のむ」
これはいけないと、保育士は慌てて飲み物を用意する。
常備されたコップに水を入れてゆいに渡すと、体を起こしたゆいは小さな両手でコップを受け取り、ゆっくり水を飲んだ。
「……ふあぁぁぁ」
素晴らしい飲みっぷりに、思わず保育士は頬を緩める。
「……せんせ」
「ん? みさきちゃんも飲みたい?」
ふるふる。
「……あついの、どうする?」
暑さ対策のことかな? と保育士は思う。
「ええっと。それじゃあ二人とも、タオルを出して」
なんで? と思いながらも、二人は素直に従った。
保育士はタオルを受け取ると、それを部屋の奥にある水道まで持って行って水で濡らした。そのあと適度に絞り、ゆいとみさきの所に戻る。
不思議そうな目をする二人。
保育士はニヤリと笑って、ゆいの首筋にタオルを押し当てた。
「ふいあ!?」
突然つめたいのが襲ってきて、ゆいは飛び起きた。
「なにする!?」
ゆいは理不尽な不意打ちを許さない。
ぷんすか怒るゆい。
保育士は楽しそうな笑みを浮かべて、こう言った。
「ごめんね、びっくりしちゃった?」
「びっくり!!」
「ひんやりして気持ちよかったでしょ?」
「びっっくり!!」
ぶんぶん手を振って怒りを表すゆい。
保育士はいっそ楽しそうな顔をして、理由を説明した。
「こうするとね、涼しくなるんだよ~?」
「いかりしんとう! たいおんじょうしょう!」
「あらあら、ゆいちゃんは知らないの?」
「むむむ……?」
知らない、という単語に反応したゆい。
「こうやってね、首の後ろとか手首とかを冷やすと、体温が下がって涼しくなるんだよ」
そんなの? と口を開けるゆい。
「なんでなんで!?」
「えっとねー、なんでだと思う?」
「むむむ……」
冷えるから冷えるんじゃないの? と思うゆい。
「なんでほっぺとかじゃなくて手首なのかな?」
はっ、言われてみれば!?
忙しなく反応するゆいの隣で、みさきはきょとんと首を傾けた。
保育士はコホンと喉の調子を整えて、血液の集まる場所を冷やせば結果的に体温が下がるという話を園児向けの表現でやんわりと伝えた。
なるほど! と納得した二人。
話を聞いた後、みさきはてくてく歩いて蛇口を捻る。
流れた水に手首を当てて、じーっと動きを止めた。
「みさき!」
隣に並んだゆい。
「おみずもったいない!」
注意しながら、自らも蛇口を捻るゆい。
「でもちょっとだけ、ちょっとだけ……ふぃぃぃ」
保育士は女の子が水道の前に並んで手首を冷やしているというおかしな姿を見てひとしきり笑った後、後ろから近付いて蛇口を止めた。
「ああ!? なんで!?」
「お水がもったいないでしょ? だからタオルを濡らして、手首にくっつけるんだよ?」
「なるほど!」
なっとく!
ゆいとみさきは言われた通りタオルを装着して、自分達の席に戻った。
ふー、すずしー、と目を細めるゆい。
保育士は二人の傍に近寄って、なんとなく問いかけた。
「ゆいちゃん達は、お外で遊ばないの?」
「あそばない!」
「ひろき君があやとりのお礼に泥団子の作り方教えてくれるって言ってたよ?」
「ゆいとみさきはあついのきらい!」
と、年中お外に出ないゆい。
特に暑いのが嫌いということもないみさきは、ゆいを見てぱちぱちと瞬きをした。
「お外で遊ばないと、そのうち牛になっちゃうよ?」
「……」
ちょっと心が揺れたゆい。
「い、いちにんまえのレディは、むやみにおはだをしがいせんのまえにさらしたりしません」
「あははは、そっか。じゃあ、しょうがないね」
断固として外では遊ばないゆい。
彼女が運動不足に苦しむ日は、きっとそう遠くないであろう。
だけどそれはまだ、少しだけ先の話。
ゆいは、ぐったりと机に頬をくっつけていた。
「たいようさんが、おいかりです」
かすれた声を聞いて、まったり本を読んでいたみさきは顔を上げた。
「だいじょうぶ?」
「……つらい」
いつものように「へーき!」という返事を期待していたみさきは、まさかの敗北宣言に驚いた。
ゆいちゃんがピンチ!
みさきはパタンと本を閉じて、せっせとゆいに風を送る。
みさきの手が上下する度、手に持った本がパタパタと音を鳴らして微かな風をゆいに送る。
「……あり、がと」
ゆいは気持ちよさそうに目を細めた。
それを見てみさきは少しだけ動きを激しくする。
「……ふぅぅぅー」
ゆいはさらに気持ちよさそうになった。
みさきは、風を強くすればいいのかなと思う。
みさきは考えた。
風が起こるのは、本を動かした時。
ちょうどみさきの手元には分厚い本と薄い本がある。二つは同じくらいの面積で、厚さだけが違う。みさきは試しに、二つの本で起こる風の強さを比較してみた。
まずは薄い方の本。
「……えへへへ」
次は厚い方。
「……いひひひ」
みさきは本の厚さでは起こる風の強さは変わらないと直感した。
そこでみさきは、分厚い方の本をゆいの直ぐ傍に近付けてみる。
「むむむ?」
不思議そうな顔でみさきを見るゆい。
みさきは本の下側に親指を当てて、パラパラパラっと一気にページをめくった。
「おぉぉ」
思った通り、ゆいちゃんの反応が良くなった。
みさきは同じことを何度か繰り返して、ふと手を止めた。
「……むむ?」
なんでやめちゃうの?
縋るような目で見るゆい。
つかれた。
他に理由は無いみさき。
なんだか効率が悪いような気がする。
もっと楽な方法は無いのだろうか。
「……んー?」
と考え込むみさき。
「……むむむ?」
どうしたの? と思うゆい。
「あらあら、どうしたの?」
問いかけたのは、ちょうど部屋に戻って来た保育士だった。
たぬき組を担当する保育士は一人で、彼女は基本的に外で遊ぶ園児達の面倒を見ている。
それは、みさき達なら見ていなくても安心できるというのが主な理由だ。
外で遊ぶ園児といっても、当然それはたぬき組だけではない。より目を離してはいけない年少組の子達も居て、その組を担当する保育士の人と一緒になって面倒を見ている。
外で遊ぶ園児達は今日も元気だが、大人にとっては辛い気象条件。保育士達は園児が熱中症にならないように気を配りつつ、自分達も交代で休憩を取ることを決めた。今は彼女の番。
「……ゆいちゃん、つらい」
相変わらず言葉の足りないみさき。しかし、この程度なら慣れっこな保育士はみさきの言いたい事を瞬時に理解して、ゆいに声をかけた。
「大丈夫?」
「……つらい」
あら、と驚く保育士。
いつもなら「へーき!」と強がるゆいちゃんが、珍しく弱音を吐いた。
「何か飲む?」
「……のむ」
これはいけないと、保育士は慌てて飲み物を用意する。
常備されたコップに水を入れてゆいに渡すと、体を起こしたゆいは小さな両手でコップを受け取り、ゆっくり水を飲んだ。
「……ふあぁぁぁ」
素晴らしい飲みっぷりに、思わず保育士は頬を緩める。
「……せんせ」
「ん? みさきちゃんも飲みたい?」
ふるふる。
「……あついの、どうする?」
暑さ対策のことかな? と保育士は思う。
「ええっと。それじゃあ二人とも、タオルを出して」
なんで? と思いながらも、二人は素直に従った。
保育士はタオルを受け取ると、それを部屋の奥にある水道まで持って行って水で濡らした。そのあと適度に絞り、ゆいとみさきの所に戻る。
不思議そうな目をする二人。
保育士はニヤリと笑って、ゆいの首筋にタオルを押し当てた。
「ふいあ!?」
突然つめたいのが襲ってきて、ゆいは飛び起きた。
「なにする!?」
ゆいは理不尽な不意打ちを許さない。
ぷんすか怒るゆい。
保育士は楽しそうな笑みを浮かべて、こう言った。
「ごめんね、びっくりしちゃった?」
「びっくり!!」
「ひんやりして気持ちよかったでしょ?」
「びっっくり!!」
ぶんぶん手を振って怒りを表すゆい。
保育士はいっそ楽しそうな顔をして、理由を説明した。
「こうするとね、涼しくなるんだよ~?」
「いかりしんとう! たいおんじょうしょう!」
「あらあら、ゆいちゃんは知らないの?」
「むむむ……?」
知らない、という単語に反応したゆい。
「こうやってね、首の後ろとか手首とかを冷やすと、体温が下がって涼しくなるんだよ」
そんなの? と口を開けるゆい。
「なんでなんで!?」
「えっとねー、なんでだと思う?」
「むむむ……」
冷えるから冷えるんじゃないの? と思うゆい。
「なんでほっぺとかじゃなくて手首なのかな?」
はっ、言われてみれば!?
忙しなく反応するゆいの隣で、みさきはきょとんと首を傾けた。
保育士はコホンと喉の調子を整えて、血液の集まる場所を冷やせば結果的に体温が下がるという話を園児向けの表現でやんわりと伝えた。
なるほど! と納得した二人。
話を聞いた後、みさきはてくてく歩いて蛇口を捻る。
流れた水に手首を当てて、じーっと動きを止めた。
「みさき!」
隣に並んだゆい。
「おみずもったいない!」
注意しながら、自らも蛇口を捻るゆい。
「でもちょっとだけ、ちょっとだけ……ふぃぃぃ」
保育士は女の子が水道の前に並んで手首を冷やしているというおかしな姿を見てひとしきり笑った後、後ろから近付いて蛇口を止めた。
「ああ!? なんで!?」
「お水がもったいないでしょ? だからタオルを濡らして、手首にくっつけるんだよ?」
「なるほど!」
なっとく!
ゆいとみさきは言われた通りタオルを装着して、自分達の席に戻った。
ふー、すずしー、と目を細めるゆい。
保育士は二人の傍に近寄って、なんとなく問いかけた。
「ゆいちゃん達は、お外で遊ばないの?」
「あそばない!」
「ひろき君があやとりのお礼に泥団子の作り方教えてくれるって言ってたよ?」
「ゆいとみさきはあついのきらい!」
と、年中お外に出ないゆい。
特に暑いのが嫌いということもないみさきは、ゆいを見てぱちぱちと瞬きをした。
「お外で遊ばないと、そのうち牛になっちゃうよ?」
「……」
ちょっと心が揺れたゆい。
「い、いちにんまえのレディは、むやみにおはだをしがいせんのまえにさらしたりしません」
「あははは、そっか。じゃあ、しょうがないね」
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