日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

文字の大きさ
192 / 221
最終章 孤独を越えて

LO(1)

しおりを挟む

 私の話をしよう。

 私はお母さんが大好きだった。
 だけどお母さんは、私のことが好きじゃなかった。

 甘えると嫌な顔をして、いつしか顔を見る回数も減っていった。
 そして五歳の誕生日を迎えると――りょーくんの所に捨てられた。

 りょーくんは怖かった。
 睨むし、大きいし、臭かった。

 でも優しかった。
 いつも私のことを見てくれた。

 りょーくんは、みさきを一番に考えてくれた。



 まゆちゃんは、きっと私にとって母親のような存在だった。
 絵が上手くて、たまに早口になって、たまに変な顔をする不思議な人。

 だけど、りょーくんと同じくらい優しくて、傍に居ると安心できた。
 お風呂の入り方、体の洗い方、絵の描き方……いろんなことを教えてもらった。

 離れることになった時は悲しかったけれど、まゆちゃんのことを応援しようって思った。夢を叶える為に頑張っている姿が、とってもかっこいいと思えた。
 
 まゆちゃんの描いた漫画は全部もってる。
 映画も見た。面白かった。

 まゆちゃんは、私にとって最も大切な人の一人だ。



 ゆいちゃんは、義理のお姉ちゃんだ。
 ガサツな所が多いけれど、素直で優しい自慢のお姉ちゃん。

 そして結衣さんは、りょーくんのお嫁さんだ。
 私にとってはお母さんで、そのことを理解するまでには時間が掛かった。

 りょーくんと結衣さんの結婚式は良く覚えている。
 とっても幸せそうな顔をした二人を見て、私まで嬉しくなった。

 結婚式の少し後、結衣さんのお腹が大きくなった。

「……ふとった?」
「みさき、そこに正座しなさい」

 正座して聞いた赤ちゃんの話は、今でも覚えている。

 一年くらい経って、弟が生まれた。
 ゆいちゃんは大喜びしていて、私も「ちっちゃいりょーくん!」と心の中で騒いでいた。

 名前はあき
 私は「あーくん」と呼んで、それはそれは可愛がった。

 ゆいちゃんはスッカリお姉ちゃん気分。
 一生懸命にお世話をしようとするけれど、いつも泣かせてしまって、最後は一緒に泣いていた。

 あーくんが生まれてから半年くらいして、また結衣さんのお腹が大きくなった。

 次に生まれたのも男の子で、海誠かいせいと名付けられた。かーくんはヤンチャな子だったけれど、ゆいちゃんが傍に居ると、なぜか大人しくなった。

「なんか! いったいかん!」

 曰く、ゆいちゃん。
 なんか、一体感を覚えるらしい。

 さて三人目の弟が結衣さんのお腹にいる頃、私は十歳になった。学校で二分の一成人式が行われて、年齢も二桁になって、なんだか少し大人になったのかなと思った。

 四年生の終わりには課外活動が始まって、私は周りの勧めで陸上を始めた。この頃はまだまだ体が小さかったけれど、りょーくんに教えてもらったおかげで、とっても運動が得意だった。

 六年生になる頃には、ゆいちゃんと身長が逆転した。その頃からゆいちゃんが必死に牛乳を飲み始めたけれど、私は内心「もう遅い」と思っていた。

 ゆいちゃんと長男のあーくんは犬猿の仲で、ゆいちゃんが牛乳を飲んでいる時に「やーい! ゆいねーちゃんのチビー!」「うっさいお前の方がチビだ!」という会話を飽きずに繰り返していた。

 さて私の話に戻ると、体が大きくなったことで、陸上の記録が凄いことになった。

 だけど私には実感が無くて、興味が持てなくて、とりあえず、りょーくんが喜ぶから金色のメダルを貰ってこよう、くらいの気持ちだった。

 中学校の入学式、結衣さんのお腹には初めての妹がいた。名前は生まれる前から『友里ゆり』と決めているらしくて、私はゆりちゃんと会える日が楽しみだった。

 この頃には、いろんなことが分かるようになっていた。

 家族の事、りょーくんとのこと。
 りょーくんと結衣さんのこと。

 弟達のこと。
 ゆいちゃんとのこと。

 結衣さんは、あーくんが生まれて直ぐに仕事を止めた。きっと家に残すのが心配だったのだろう。

 その後は家でも出来る仕事を始めて、家にパソコンとインターネットが設置された。

 その家は、新しい家だ。
 結婚式の少し後、私達はまたお引越しをした。

 今度の家は、一戸建て。
 とても広くて、二階建てで、部屋が十三個もあった。

 二個は私とゆいちゃん。
 一個はりょーくんと結衣さん。
 そして十個は、未来の子供達の部屋って聞いた。

 お金がいっぱい必要みたいで、りょーくんが家に帰る時間が少しだけ遅くなった。

 私は寂しかったけれど、お姉ちゃんだから、我慢した。我慢して、弟達の面倒を見た。

 たまに弟よりゆいちゃんの方が大変だったけれど……とにかく、思った。

 子供を育てるのって、大変だ。
 りょーくんは、どうして私を育ててくれたんだろう。

 りょーくんと私は、赤の他人。
 初めて会った時、りょーくんはきっと私の事が嫌いだった。でも直ぐに優しくなって、一生懸命に育ててくれた。

 私はただただりょーくんのことが大好きだった。
 だけど大人に近付くにつれて「なんで?」と思うようになった。

 きっと聞けば答えてくれる。
 でも、なんとなく聞けなかった。

 だから代わりに喜ぶことをしようと思った。
 部活は陸上を続けて、なんとなくのまま一番になった。

 勉強も、ずっと百点だった。
 中学校の勉強は、小学生の頃りょーくんに喜んで欲しくてやったところばかりで簡単だった。

 ゆいちゃんは私に対抗して猛勉強していた。
 結衣さんが一生懸命に教えていて、三年間でどんどん差が縮まった。

 ゆいちゃんはガサツだから、よくミスをする。
 だけど一回だけ百点を取って、その時は家でパーティをした。楽しかった。

 この頃には大家族。
 五人の弟と、二人の妹。

 そしてお腹の中に、三人目の妹。
 名前はゆずちゃんになるらしい。

 家は毎日騒がしくて、いつも疲れた様子で帰ってくるりょーくんが、だけど皆の声を聞くと元気になる。だから私は家族が大好き。りょーくんが元気になれる場所が、とてもとても大好き。

 ちょっとだけ大変だったのは、進路を決める時だ。

 私は近くの高校に通うつもりだった。
 だけど周りの人は言う。

 陸上の名門校へ行きなさい。
 一番の進学校へ行きなさい。

 そんなに運動が出来るのに。
 そんなに勉強が出来るのに。

 どうでも良かった。
 全部りょーくんが喜ぶからやっただけだ。

 りょーくんと離れることになるなら、喜ぶ顔が見られないなら、そんなの意味無い。

「……高校、行かない」

 三年の秋、私は結衣さんにそう言った。
 結衣さんは一番下の妹を抱いたまま、短く返事をした。

「龍誠くんに、同じことを言いなさい」

 それは結衣さんらしい言葉だった。
 りょーくんに相談しなかったのは「高校に行きなさい」と言われるのが分かっているからだ。りょーくんは、お父さんだから。お父さんなら、そう言うしかない。

 りょーくんは私のヒーローだ。世界で一番かっこいい特別な存在だ。そう思っていたから「普通のお父さん」になって欲しくなかった。

 りょーくんに話をして、高校に行きなさいって言われて、私の中で普通のお父さんになってしまうかもしれない。それが怖くて、りょーくんに話すのは嫌だった。

 だから結衣さんに相談した。
 りょーくんの次に頼りになる人で、私にとっては普通のお母さんだから。

 でもきっと結衣さんにはお見通しだった。
 反対に、私は何も分かっていなかった。

「みさき、心配はいりません」

 まるで私の心を覗き見たかのように、結衣さんは言う。

「みさきが大好きなりょーくんは、世界で一番かっこいい人ですよ」

 こんなことを言われたら、りょーくんに話をするしかない。

 だけど直ぐには話せなかった。
 りょーくんと話をする機会は毎日あった。でも、りょーくんと二人で話すチャンスは、なかなか訪れなかった。

 みんな、りょーくんが大好きだから。
 りょーくんの側には、いつも弟達がいた。

 私の側にも、弟達が寄ってきた。
 かーくんだけはゆいちゃんにベッタリだけど、他の子は元気いっぱいだった。

 まだ歩くことも出来ない妹達は結衣さんが面倒を見ていて、ゆいちゃんは頼りなくて、だから弟達のことを見るのは、ほとんど私か、りょーくんだった。

「みさきねーちゃん! オレきょう、かけっこでいちばんだった!」
「ん。あーくん、すごいね」
「すごいでしょ! しょうらい、みさきねーちゃんみたいになるんだ!」
「ん。頑張って」

 りょーくんにしてもらったみたいに、弟の頭を撫でる。そうしていると、りょーくんが嬉しそうにこっちを見る。それを見ると、私も嬉しかった。

 だけど、たまに思う。
 弟達がずるい。

 もうずっと前から、りょーくんは一緒にお風呂に入ってくれなくなった。体が大きくなってからは、りょーくんに抱き付いたり、肩の上に乗ったりするのが難しくなった。

 私は、りょーくんと一緒にいたいだけ。
 他には何もいらない。なのに、どんどん遠くなる。

 りょーくんを独占して、思い切り甘えたい。
 だけど、そうしたら、りょーくんが困る。

 りょーくんは私が甘えたら困る。
 そのことが、どうしようもなく辛くて、頭がおかしくなりそうなくらいに、痛かった。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

処理中です...