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Case4. 指先をいやらしく動かすアレ ~導入~

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※本文中に架空のURLが登場します。危険なので絶対にアクセスしないでください。
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*  太一  *


「指先をいやらしく動かすアレやるわよ」

 翌日。
 スッカリお馴染みとなった空き教室。

 俺は再び訳の分からない提案を聞いて、天を仰ぎました。

「……なんですって?」

「指先をいやらしく動かすアレやるわよ」

「……なんですか。それ」

「あれれ~? 太一ってば知らないの~?」

 彼女は両手を上げ、指先をいやらしく動かしながら言いました。

 ふむ。この表情と手つき、なんとなく見覚えがありますね。

「もしかして、くすぐりですか?」

「くすぐりとか……小学生かな?」

 彼女は口元に手を当ててクスクスと笑う。

「もっと知的なゲームだよ?」

「……ふむ」

 俺は直近のゲームを思い出します。
 愛してるゲーム。脱衣チェス。そして乳首当てゲーム。

 知性、どこだ?
 どこに知性があった?

「降参です。教えてください」

「まったく、しょうがないわね」

 芽衣は胸ポケットから一枚の紙を取り出して、俺に差し出しました。

「……何のQRコードですか?」

「アクセスすれば分かるわよ」

 疑問は残りますが、素直に従いましょう。
 俺はスマホを取り出してQRコードを読み取りました。

 NiseMono://OzakiMei.work?player=zako

 アプリが謎のドメインを示しました。
 何も考えずアクセスすると、何やらゲームのような画面が現れました。

「なるほど、タイピングゲームですか」

「指先をいやらしく動かすアレよ」

「その表現をするのは世界であなただけだと思います」

「ええそうよ。私は特別なのだから、発言だって常にスペシャルであることを心掛けているのよ」

 芽衣は得意気に言いました。
 その姿を見た俺は、随分と髪が伸びたなという感想を抱きます。

 幼い頃、彼女は男のような外見でした。
 事実、男勝りの山猿みたいな子供で、俺は毎日ボッコボコにされていたのです。

「何か失礼なこと考えてない?」

「まさか」

 俺はコホンと咳ばらいをして

「どうやって勝負するんですか?」

「練習ボタンを押しなさい」

 言われた通りに練習ボタンを押す。
 すると「待て」という画面が現れ、数秒後にゲーム画面に移行した。

 画面の下半分がフリップ入力のアレになり、上半分には「れんしゅう」という文字が記されている。

 いや、よく見るともう少し細かい。
 中央にある文字の他に左上と右下に小さな文字で「れんしゅう」と記されている。

「左上の文字を見なさい」

「分かりました……あ、色が変わりました」

「私が入力したからよ」

「……なるほど、そういうことですね」

 俺は完全に理解した。

「真ん中に現れた文字を先に入力した方が勝ち、ということでしょう」

「正解。10本先取で、最大3ゲームやるわよ」

「……」

「なによ。質問があるなら最初に言いなさい」

「……いえ、質問というわけではないのですが」

 俺は感動していた。
 昨日までの変態的な勝負が嘘だったかのようにまともな勝負だ。

「これは、一般的なアプリなんですか?」

「は? 私が昨日あんたと遊ぶ……あんたをボッコボコにするために作ったものよ。そこらの有象無象と一緒にしないで」

 これだ。これが穂村芽衣だ。
 彼女は基本的になんでもできる。このようなゲームを一晩で容易する程度、不思議ではない。

 だから俺は修行している。
 そうでなければ、彼女の隣を歩くことさえできない。

 しかし……俺をボッコボコにするためですか。
 やはり俺は、ストレス解消の相手くらいにしか思われていないようだ。

「今日は必ず勝ちます」

「待って。一応、勝負の意味を解説するわよ」

「解説ですか」

「そう。この時代、指先をいやらしく動かすスキルは必須よ」

「すみません。素直にタイピングと言っていただけますか?」

「なぁに? 興奮しちゃうのかしら?」

「……続けてください」

「黙っちゃった。情けない」

 慣れたものです。
 この程度の罵声ならば、マッサージのようなものですね。

「授業でもプログラミングが始まったけれど、結局、指先をいやらしく動かせない人は何をやらせてものろのろで話にならないわ。逆に、指先をいやらしく動かせる人は何をやらせても有能なのよ。つまりこのゲームに勝った方がよりIT社会に適した人間ってわけね」

「なるほど! そういうことですね!」

 素晴らしい! 完璧なゲームだ!
 これは俄然、やる気も出てきた。

「それじゃ、始めるわよ」

「分かりました!」
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