マジカルカシマ

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出勤

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 4月の終わり。まだ不慣れな新入社員が多いだろう。俺は2月の終わりからお試しという形でここで働いていたから大分慣れている。

 俺がこの野島施術院への出向を命じられたのは2月の終わり。
 静かな町の小さな総合病院、荒井病院の院長の外孫として静かに暮らしていくつもりだった。突然の辞令に俺は何か気に障ったのかと慌てたけど、施術院を始めたお兄ちゃんからの指名だった。

 小さい頃に突然現れて3ヶ月ほどで突然連れ去られてしまった、大好きだったお兄ちゃん。突然の再会と施術院の術が黒魔術の術だということに驚いた。
 連れ去ったのは国からのスカウトで、今はお兄ちゃんも国に認定されている黒魔術師で、開業する時に医療面のサポート担当を指名できるらしい。

 出勤したら裏口から入ってケーシーに着替える。そして開業まで……特にやることは無い。世話好きで心配性なお兄ちゃんは、一般人の俺に被害が出ないように院内を清浄に保つことに細心の注意を払っている。多少薄暗いくらいでドクロとか生け贄とかは見たことがない。
 俺は9時になったら来院者用の出入り口の鍵とカーテンを開けるだけ。

 あとは受付ブースでカルテの管理や雑務で、お兄ちゃんが必要だと思った時だけ意見を求められる。
 といっても今までに俺が働いたのはお試し期間中のキリトだけ。イルカから人間にしたら妙によく転ぶから体の造りにミスが無いか診てほしいと言われた。

 結局体に異常は無くて、人間になって側にいたかった相手である尾張さんに迷惑が掛かってるんじゃないかっていう不安が原因だった。キリトは見た目30歳くらいだけど体はできたばかりだし魂はイルカだからストレスが体に出やすいんだ。

 今キリトは自転車配達員、尾張さんは在宅で説明書とかの翻訳をしている。体が弱くて移植を待つためにアメリカで暮らしてたからネイティブレベルらしい。

 その尾張さんから施術院に電話があったのが12時5分前。キリトの配達先でトラブルがあって、行き場をなくした料理とケーキを一緒に食べないかって言われた。
 キリトが届けたら揉めていてキリトが食べろって言われたらしい。2人じゃ食べきれない量だからって。

 そのケーキのチョコプレートに書かれていたのが「マジカルカシマ」だった。
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