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来客
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獅堂さんの本名は四方堂獅子吠という。
有力な陰陽師の一族である獅堂家にスカウトされて、仕事中は獅堂を名乗ることが許されている。「獅堂です」と名乗れば立ち入り禁止の場所に入れたり職質をかわせたりして仕事をしやすい代わりに、獅堂家に色々協力する。
色々協力って裏取引みたいなことかと思ったら、この前は獅堂家の神社で催されるお神楽で横笛奏者をしたと言っていた。平安貴族みたいな格好で横笛を吹くってきっと絵になったんだろうな。
タンバリンを勢いよく叩くことしかできなさそうだと思ってたから驚いたのは内緒。
そして最近は仕事面でも使われている。
最近は複雑な事件が増えて、「獅堂が預かる」で持っていかれることへの警察や被害者の不満が高まってきた。それで落とし所を探すために警察と獅堂家から1人ずつ出してバディにしてみようってことになって、本当の獅堂家は面倒がって獅堂さんが派遣された。つい先日から刑事さんと組んで動くことになったばかり。
お兄ちゃんとは修行時代からの付き合いだと獅堂さんは言うけど、この話題になるとお兄ちゃんはだいたい「不本意ながら」とか「腐れ縁です」って言う。獅堂さんは黙ってると運動部だった真面目な社会人1年生風で、俺はスーツ姿しか見たことがない。喋ると明るく張りのある声の関西弁で学校では人気者だったんだろうなっていう存在感で、陰キャ認定すらしてもらえず空気だった俺とは別世界の人だ。
獅堂さんが獅堂を名乗る前からいつも一緒にいる相棒は、元は普通の熊だった波路くん。獅堂さんに恩返ししたい一念だけで自力で人間の姿になったらしい。
波路くんには驚くことばかり。
まず細い。熊が人間になったらプロレスラーみたいな体だと思ってた。しかもというか印象通りというか、パワータイプでもなく特技はパルクール。
そして耳が4つある。人間になる時に熊の耳が残ってしまって、周りに驚かれないようにと熊耳のカチューシャの綿を抜いて自分の耳に被せるように着けている。さらにカチューシャが目立たないようにと尻尾を縫い付けたオーバーオールを着て首からポップコーンバスケットを提げている。ちなみにバスケットの中身は普通の持ち物が入っている。
街中でこの格好はかえって目立ってるんだけど、獅堂さんが「どや! これで普通の夢の国オタやろ?」って言うし波路くんも「獅子吠さまが見立てて下さったんです」ってニコニコしてるし、まあ、いいんじゃないかな。
警察から獅堂さんのバディに選ばれたのは富士太陽さん。和風のおめでたい名前に反して日本人離れした妙に色っぽい人だ。生活感のまったくしない整った顔を裏切る家庭的な人。お父さんは現在何十人目かの恋人に夢中で異母弟が2人。真ん中の子は20歳で実家の自転車屋を継いでいて、5歳の末っ子を実質真ん中の子と2人で育てている。
本人は言わないけどお兄ちゃんの情報網によると、自転車屋さんの書類関連でのサポート、保育園の送り迎えに加え、キャリア組からの嫉妬で面倒な仕事ばかり回されて大変らしい。
時々息抜きをする公園が施術院と俺の家への途中にあって、時間が合えば一緒にお茶をしている。
その公園は小さい頃に俺とお兄ちゃんと富士さんが一緒に遊んでいた公園だ。
俺は家政婦さんが掃除や料理をしている間、従姉とそこにいるように言われていた。従姉はお菓子の率直な感想を聞いてほしいと、手作りのお菓子を俺に持たせて別々に遊ぶ。従姉と同じクラスだった富士さんはその事情を知らなくて、放っておかれてると思って気に掛けてくれていた。
お兄ちゃんも一緒に遊ぶようになって少し経った時、立派な黒ローブを着た人がお兄ちゃんを連れ去った。消えたと騒がれるのが面倒だと、その人は町からお兄ちゃんの記憶を消して、お兄ちゃんとの関わりが強かった俺と富士さんはお兄ちゃんと過ごした公園の記憶まで丸ごと消されてしまった。
今は記憶が戻っている。
そしてたった今、俺のスマホに獅堂さんから着信。テレパシーというのも意識がだだ漏れしているわけではなくて、双方の合意が無いと会話できなくて嘘も吐けるそうだ。お兄ちゃんに切られちゃったんだな。
獅堂さんの元気な声が響く。
「先生、そこにマジシャンおる?
その取り込んでることで用があるって言うてくれる?
来たやろ? マジカルカシマ」
有力な陰陽師の一族である獅堂家にスカウトされて、仕事中は獅堂を名乗ることが許されている。「獅堂です」と名乗れば立ち入り禁止の場所に入れたり職質をかわせたりして仕事をしやすい代わりに、獅堂家に色々協力する。
色々協力って裏取引みたいなことかと思ったら、この前は獅堂家の神社で催されるお神楽で横笛奏者をしたと言っていた。平安貴族みたいな格好で横笛を吹くってきっと絵になったんだろうな。
タンバリンを勢いよく叩くことしかできなさそうだと思ってたから驚いたのは内緒。
そして最近は仕事面でも使われている。
最近は複雑な事件が増えて、「獅堂が預かる」で持っていかれることへの警察や被害者の不満が高まってきた。それで落とし所を探すために警察と獅堂家から1人ずつ出してバディにしてみようってことになって、本当の獅堂家は面倒がって獅堂さんが派遣された。つい先日から刑事さんと組んで動くことになったばかり。
お兄ちゃんとは修行時代からの付き合いだと獅堂さんは言うけど、この話題になるとお兄ちゃんはだいたい「不本意ながら」とか「腐れ縁です」って言う。獅堂さんは黙ってると運動部だった真面目な社会人1年生風で、俺はスーツ姿しか見たことがない。喋ると明るく張りのある声の関西弁で学校では人気者だったんだろうなっていう存在感で、陰キャ認定すらしてもらえず空気だった俺とは別世界の人だ。
獅堂さんが獅堂を名乗る前からいつも一緒にいる相棒は、元は普通の熊だった波路くん。獅堂さんに恩返ししたい一念だけで自力で人間の姿になったらしい。
波路くんには驚くことばかり。
まず細い。熊が人間になったらプロレスラーみたいな体だと思ってた。しかもというか印象通りというか、パワータイプでもなく特技はパルクール。
そして耳が4つある。人間になる時に熊の耳が残ってしまって、周りに驚かれないようにと熊耳のカチューシャの綿を抜いて自分の耳に被せるように着けている。さらにカチューシャが目立たないようにと尻尾を縫い付けたオーバーオールを着て首からポップコーンバスケットを提げている。ちなみにバスケットの中身は普通の持ち物が入っている。
街中でこの格好はかえって目立ってるんだけど、獅堂さんが「どや! これで普通の夢の国オタやろ?」って言うし波路くんも「獅子吠さまが見立てて下さったんです」ってニコニコしてるし、まあ、いいんじゃないかな。
警察から獅堂さんのバディに選ばれたのは富士太陽さん。和風のおめでたい名前に反して日本人離れした妙に色っぽい人だ。生活感のまったくしない整った顔を裏切る家庭的な人。お父さんは現在何十人目かの恋人に夢中で異母弟が2人。真ん中の子は20歳で実家の自転車屋を継いでいて、5歳の末っ子を実質真ん中の子と2人で育てている。
本人は言わないけどお兄ちゃんの情報網によると、自転車屋さんの書類関連でのサポート、保育園の送り迎えに加え、キャリア組からの嫉妬で面倒な仕事ばかり回されて大変らしい。
時々息抜きをする公園が施術院と俺の家への途中にあって、時間が合えば一緒にお茶をしている。
その公園は小さい頃に俺とお兄ちゃんと富士さんが一緒に遊んでいた公園だ。
俺は家政婦さんが掃除や料理をしている間、従姉とそこにいるように言われていた。従姉はお菓子の率直な感想を聞いてほしいと、手作りのお菓子を俺に持たせて別々に遊ぶ。従姉と同じクラスだった富士さんはその事情を知らなくて、放っておかれてると思って気に掛けてくれていた。
お兄ちゃんも一緒に遊ぶようになって少し経った時、立派な黒ローブを着た人がお兄ちゃんを連れ去った。消えたと騒がれるのが面倒だと、その人は町からお兄ちゃんの記憶を消して、お兄ちゃんとの関わりが強かった俺と富士さんはお兄ちゃんと過ごした公園の記憶まで丸ごと消されてしまった。
今は記憶が戻っている。
そしてたった今、俺のスマホに獅堂さんから着信。テレパシーというのも意識がだだ漏れしているわけではなくて、双方の合意が無いと会話できなくて嘘も吐けるそうだ。お兄ちゃんに切られちゃったんだな。
獅堂さんの元気な声が響く。
「先生、そこにマジシャンおる?
その取り込んでることで用があるって言うてくれる?
来たやろ? マジカルカシマ」
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