人魚の涙【完結】

ちゃむにい

文字の大きさ
上 下
2 / 3

相性

しおりを挟む
――せめて女の家族が、誰か1人でも生きていればと、近頃は特にそう思う。

そうすれば、女の態度も変わったのだろうか。男に身を委ね、心も屈したかもしれない。

女は、自分の命に興味がないのだろう。男が部屋を訪れる度に、何処かを怪我していた。そのことに、何時からか、男は焦り始めた。

女は、後ろ盾もいないのに男に寵愛を受けているということで、他の女どもに嫉妬され、苛烈な虐めを受けていた。

怪我をしないように、侍女を付けたが、やり方が変わっただけで、あまり効果はなかった。何をしたのかは知らないが、どうやら、侍女にも嫌われたらしい。

他の女なら、男が来たら飛び上がらんばかりに喜ぶだろう。
けれど、その女は嫌そうに眉を顰めながら、他の女のとこに行けだの、お前は頭がおかしいなどと悪態をついてくる。
女に構うのは時間の無駄だ。
それなのに、どうしても惹かれてしまった。

『ぁッ、……やぁ』
『もう降参か?』
『うるさいッ、あっ、……ぃやぁぁ!』

身体の相性は良くて、それはお互い様なのか、女は罵りながらも最後には快楽にのめり込んだ。

『気持ちいいんだろ?』
『気持ちよくなんか、ない』

顔を真っ赤にしながら震えた声で言うのが本当に可愛らしくて、愛しかった。

口を開けずに、黙って抱かれていればいいのにと何度思ったことか。
潤んだ瞳と、だらしなく開いた口は、例えようもなく色っぽかった。
その顔を思い浮かべ、気持ちが昂る。

今日はどうやって抱こうかと思いつつ、歩いた。
贈り物として、手には花を持っていた。
女の国を初めて訪れた時に咲いていた花だ。焼野原になってしまって、何もなくなっただろうと思っていたが、自然の息吹は力強く蘇っていた。
聞けば、女の国でのみ咲く固有種らしく、女は成人の際に頭に飾るのだと言う。
この花を渡せば、女の気持ちも軟化するだろうかと、若干の希望を持ちながら、女の部屋にたどり着いた。

そこで聞こえたのは、何時までも聞いていたいような、美しい歌声だった。誰が歌っているのだろうと見てみると、歌い手は女だった。

「風邪をひくぞ。部屋に戻れ」
女が歌い終わったタイミングで、男は女を抱き上げると、部屋の中に連れ戻した。

男は夢中で、何度も女を鳴かせたが、あまりにも激しい行為に耐えかねて、女は途中で意識を失った。男は、意識を失った女を抱き寄せ、愛おしそうに女の頭を撫でると、ようやく眠りについた。

けれど、女は朝になると、男の腕の中から消え失せていた。

しおりを挟む

処理中です...