人魚の涙【完結】

ちゃむにい

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過去と未来

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男は、起きたことが信じられず、周囲を見渡した。
女が逃げ出さないように、部屋には見張りを置いていた。
部屋から、男を置いて、女が出れるわけがなかった。
それなのに、人の気配はまるで無かった。
狂ったように、男は女を国中探した。

けれど、女は見つからなかった。

それから数年後、予想もしなかったところで女は見つかった。
それは、魔女の館と呼ばれる、薄暗い部屋の中だった。

「あら、いらっしゃい。何の御用?」

妖艶な笑みを浮かべて、その女は俺を見た。
女は、男に抱かれていた頃に見せていた、精神的な不安定さは消え失せ、自信に満ち溢れた瞳をしていた。

「お前を、探してた」
「そうなの。大変だったわね」

ここ、わかりにくい場所にあるでしょ?

と、何も分かっていない様子の女に、男は憤りを感じた。
数年の間に、男は色々なものを失ったが、何よりも、この女を失ったことが痛手だった。
しかし男を人生の中から追い出した女は、まるで水を得た魚のように、楽しんでいるようだった。

数年ぶりに見た女は、ため息が出るほどに美しかった。腹立たしく思う気持ちよりも、女を抱き寄せてキスをしたい気持ちのほうが強かった。

まだ、男は愛しているのだ、この女を。

男は、女に言った。

「占って欲しいことがある」
「あらあら。……そうねぇ、昔のよしみで占ってあげてもいいわよ?」

女の中では、男は過去の男なのだ。女は、それを暗に指摘していた。そのことを察して、男は手をきつく握った。男は一時たりとも女を忘れたことはなかった。
男にとって女は、今もなお、片時も手放したくない存在だった。男は女が不在だった数年の間に、さらに領地を広げ、皇帝と呼ばれるようになっていた。

「俺に対して、そのような口の利き方をするのはお前だけだぞ」

その皇帝を目の前にして、女は対等の立場を崩さなかった。虚勢であるようには見えなかった。そのことに、嫌な予感がした。

「私を贔屓にしている顧客は、この国だけではないわ。人生の岐路にいる人間ほど、奇跡の力に縋りたくなるものでね。私の盟友には、魔王やホワイトドラゴンも居るわ。いくら貴方でも、おいそれと手を出せないでしょう?」

男の疑問に答えるように、女はそう言った。

「私がタダで占ってあげるのは珍しいのよ。何しろ、占いに使う人魚の涙は入手も困難だし、高いのよ。私は特別に入手ルートがあるから問題ないけどね。……あ、入手ルートは秘密よ?」

女は人魚の涙が入っている瓶を手に取った。
それは人間の男を好きになった人魚の女が零したものらしい。それを一滴垂らすと、男の将来が見えてくるのだと言う。

「恋愛運かしら、それとも、仕事運?」

男は、大きな水晶に人魚の涙を垂らそうとした、女の手をとった。

「お前との、恋愛運だ」

女の持っていた瓶から零れ落ちた人魚の涙が、水晶玉に落ちた。
そこに映し出されたものを見て、女が驚いて叫ぶ前に、男は女の唇を塞いだ。

水晶に映っていたのは、幸せそうに男の腕の中で眠る、女の姿だった。
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