17 / 67
本編
17、キス
しおりを挟む正樹が疲れて眠りに落ちたのを見届けてから部屋を出て、これからのことを生徒会に連絡を取り、秘密裏に全ての処理を行わせた。
そしていつか正樹と付き合えた時の為にと、実は以前から正樹用の特注ネックガードを作っておいた。それを持って正樹の眠る部屋に置いた。
夕方に正樹が目覚めたと報告を受けたので、医師の診察を終わらせてから部屋を訪れると、真っ赤な顔をした正樹がいた。
「どうした? そんな可愛い顔をして、まだ気分が優れないか?」
「えっ、いやっ、違うっ」
ん? 何か言いたいようだけど、言葉に詰まっている正樹を見ているのは楽しかった。俺は隣に座って髪を触って正樹が話す言葉を待った。驚いた顔で俺を見ている。
「西条っ」
「司……そう言ってって言ったのは覚えている?」
「あっ、でも、もう発情も収まったから」
「それ関係ある? 西条なんて他人行儀な呼び方はやめて欲しいな」
正樹はさらに戸惑った顔をした。起きていて戸惑う顔もいただきました!! マジで俺の嫁可愛い!!
「ごめん、でも俺と西条は接点ないだろ? とにかく俺を助けてくれてありがとう、それと、偶然居合わせたにしても、こんなことに付き合わせて本当にごめん。俺、学校辞めるから、目の前から消えるから、だから今回のこと、許さなくてもいい。無かったことにしてくれたら有難い」
やっぱりあの時の会話は、夢として処理されたんだ。俺は散々愛をささやいたけど、正樹の中では接点のないアルファ。そんな立ち位置に戻っていた。ひたすら正樹の可愛さにやられてしまった俺の喜びを、返せぇ――。
「……なんで、そんな話しになる?」
「あっ、都合いいよな、ほんとごめん、やっぱりフェロモンレイプは犯罪だし、おれ警察に行けばいい?」
これは何か勘違いをしている。
俺が正樹のフェロモンに当てられて、無理やり関係を強要されたとでも思っているのか? 悪いがオメガに襲われるような俺でない。正直正樹のことは抱きたくてたまらなかったから、フェロモンには逆らわなかったけどな!
「そんなこと望んでない。正樹があんなアルファに襲われなくて良かったし、俺も正樹を抱けて嬉しかった。お礼ならキスをしてもいい?」
「えっ!? な、なんで?」
「だって、現実じゃキスだけは許してくれなかったから、俺、キス好きなんだよね」
そう、正樹は夢だと思ってキスを許してくれた。今度はきちんと現実にキスをして、俺を受け入れて欲しいと思った。
「え、でも……」
「俺にお詫びしたいんじゃないの? キスで許すって言っているのに、してくれないの?」
正樹は悩ましい顔をするも、わかったって言って、俺の頬にキスをしてきた。
「これでいいだろ? だからもう忘れてっ」
うっ、可愛すぎだろう。下から見上げられた目は潤んでいて、一生懸命やっただろう? と訴えているようだった。褒めてあげたいが、でもここは心を鬼にして。
「ふざけているの? そんな子供みたいなキスで許すと思っている? まじめにやれ」
「うっ、なんで? 俺したことないし、下手だと思うし、ってか俺なんかとしなくても……」
「ふふっ、またそんなこと言っている。ほら! 早く」
正樹は今度こそ、俺の唇にチュッと軽めのキスをした。そしてすぐに真っ赤な顔して離れていく唇を俺は追いかけて、今度はこちらからキスをして、そしてすぐさま口内に舌を刷り込ませて、正樹の唇を貪った。
「んんっっっ、やっ、んんっ」
「ふっ、可愛い、ほら、もっと口開けて、そう、上手だよ」
「ふあっ、んんっっっ、もっ、くるしっ」
たまに息継ぎで唇を離してやると、思いっきり空気を吸う。その新鮮な空気も、また唇ごと吸われて苦しくなるみたいだ。息の仕方を教えてやるよりも、俺はその必死な正樹を楽しんでいた。
可愛い!! 気持ちいい! 好きな子とのキスはたまらない!!
「はあっ、はっ、もう、いいだろ! 離せよっ」
「ふふ、素直に受け入れるだけの正樹も良かったけど、必死に抵抗する姿も可愛いな」
「俺っ、男でオメガ! どうしちゃったの、フェロモン嗅いでおかしくなった? 大丈夫か?」
俺が正樹にキスをするのが、おかしいと思っているらしい。どうしてこうも伝わらないんだろう。
「ああ、おかしくなったよ。正樹のフェロモンは媚薬だ。俺を虜にした責任は取るよね?」
「と、りこ? 西条本当におかしいよ、医者に見せた方がいい」
「正樹は本当に可愛いな、好きだよ、キス、もっとして」
俺は笑って言うと、正樹が戸惑いを隠すようにムスっとしだした。それもまた可愛い、ほんとに俺はどうかしていると思う。
「っな! からかっているのか、それなら良いけど。オメガ相手にそういう言い方はよした方がいい、そんな風に迫られたら勘違いするから! 気をつけろよ」
からかわれているのはいいんだ? なんだかこの先心配だなぁ、こんなに流されやすくて優しいからあんな櫻井みたいなアルファに騙されるんだよ。
「勘違いとか酷い。俺はいつだって本気なのに」
そう言ってまた無防備な正樹にキスをした。
173
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【本編完結済】巣作り出来ないΩくん
こうらい ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。
悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。
心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
36.8℃
月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。
ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。
近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。
制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。
転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。
36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。
香りと距離、運命、そして選択の物語。
【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜
みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。
自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。
残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。
この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる――
そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。
亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、
それでも生きてしまうΩの物語。
痛くて、残酷なラブストーリー。
人生2度目に愛した人は奪われた番の息子でした
Q矢(Q.➽)
BL
幼馴染みだったαの村上 陽司と早くに番になっていた南井 義希は、村上に運命の番が現れた事から、自然解除となり呆気なく捨てられた。
そして時が経ち、アラフォー会社員になった南井の前に現れたのは、南井の"運命"の相手・大学生の村上 和志だった。同じビルの別会社のインターン生である彼は、フェロモンの残り香から南井の存在に気づき、探していたのだという。
「僕の全ては運命の人に捧げると決めていた」
と嬉しそうに語る和志。
だが年齢差や、過去の苦い経験の事もあり、"運命"を受け入れられない南井はやんわりと和志を拒否しようと考える。
ところが、意外にも甘え上手な和志の一途さに絆され、つき合う事に。
だが実は、村上は南井にとって、あまりにも因縁のありすぎる相手だった――。
自身のトラウマから"運命"という言葉を憎むアラフォー男性オメガと、まっすぐに"運命"を求め焦がれる20歳の男性アルファが、2人の間にある因縁を越えて結ばれるまで。
◆主人公
南井 義希 (みない よしき) 38 Ω (受)
スーツの似合う細身の美形。 仕事が出来て職場での人望厚し。
番を自然解除になった過去があり、恋愛感情は枯れている。
◆主人公に惹かれ口説き落とす歳下君
村上 和志 (むらかみ かずし)20 α (攻)
高身長 黒髪黒目の清潔感溢れる、素直で一途なイケメン大学生。 " 運命の番"に憧れを抱いている。複雑な事情を抱えており、祖父母を親代わりとして育つ。
◆主人公の元番
村上 陽司 (むらかみ ようじ) 38 α
半端ないほどやらかしている…。
運命だなんて言うのなら
riiko
BL
気が付いたら男に組み敷かれていた。
「番、運命、オメガ」意味のわからない単語を話す男を前に、自分がいったいどこの誰なのか何一つ思い出せなかった。
ここは、男女の他に三つの性が存在する世界。
常識がまったく違う世界観に戸惑うも、愛情を与えてくれる男と一緒に過ごし愛をはぐくむ。この環境を素直に受け入れてきた時、過去におこした過ちを思い出し……。
☆記憶喪失オメガバース☆
主人公はオメガバースの世界を知らない(記憶がない)ので、物語の中で説明も入ります。オメガバース初心者の方でもご安心くださいませ。
運命をみつけたアルファ×記憶をなくしたオメガ
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけますのでご注意くださいませ。
物語、お楽しみいただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる