運命を知らないアルファ

riiko

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本編

30、息子さんを下さい

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 目の前には、よくいる平凡な顔の中年男性。

 奥さんのセンスがよくわかる。部屋着に着替えてはいたがとても清潔感がある、さわやかな中年だ。俺の愛おしい人に似てなくもないが、やはり母親似なのだろう。

 その人は俺に向かって、血管が浮き出るくらいピキピキと顔を引き攣らせて、怒鳴ってきた。

「ま、ま、ま、正樹は、まだやら――ん!!」
「ぱ、パパぁ!?」

 奥さんの百合子さんが、そんな声をだした夫に驚いていた。正樹からはとても穏やかな父親だと聞いていたし、実際普段は穏やかなのだろう。

 やはり正樹に似ているかもしれない、穏やかだけど、直情的なところは父親の影響かなと、冷静に分析をしていた。

 そして俺がこの家に波乱を巻き起こしたらしいことを、瞬時に察知した。


 ***

 ここ最近、正樹に放課後会うことを断られている。

 理由を聞いてもゴニョゴニョと言うだけ、家で何かしているのかと思い、夕飯時だったがどうしても会いたくて、そしてご両親からも交際の許可をとりたくて、あえてこの時間に手土産を持ち、身だしなみも今までにないくらい気をつけて、正樹の家、真山家に訪問したのだった。

 事前に百合子さんには、ご両親にこれから大事な話があるので伺わせてくださいと連絡した。そして訪問するも正樹もこの家の主もまだ帰っていなかった。

「司君、ごめんなさいね。正樹、お友達と遊んでいて帰りが遅くなるみたいなの」
「友達と?」
「ええ、あの子ゲームでもしているんだと思う。ふふ、司君はそういうことしなさそうだから誘えなかったんじゃないかしら」

 正樹は誰といるのだろう。あまりしつこく聞いても嫌われそうだからこっそり調査するとしよう。

「俺が、もっと正樹を楽しませてやる能力があったら良かったのですが……」
「何言っているのよ! 司君はもうそこにいるだけでいいのよ。でもびっくりだわ、正樹の近くにこんな素敵な男の子がいるなんて、二人は順調かしら?」
「愛しています」
「きゃっ! オレサマ?スパダリ?ヤンデレ? あぁ私の息子がまさかのそんなおいしい展開に!? いったいどのパターンかしら……もぉ、ゆりこ想像だけで妊娠しそうだわ」

 俺は正樹に恋しているを通り越して、愛しているということを伝えたら、百合子さんが真っ赤な顔で妊娠といった。正樹に兄弟? 可愛いだろうな。

「えっ、まさかご懐妊したか、そんな時にすいません」
「ご、ごほんっ、ち、違うのよ。ちょっと夢の世界にトリップしていただけ、ごめんなさいね」 

 さすが正樹の母親だ、親子揃って起きながらに夢の世界へ行けるとは、まあ俺もよからぬ方向に思考が飛んでいたので問題なかった。

「突然すいません、お父様がお帰りになったらお二人に挨拶をしようと思っていました。報告が遅くなりましたが、正樹とお付き合いさせていただいております」
「えっ、二人はもう正式に?」

 百合子さんは驚いた顔をした。

「はい、俺はずっと正樹に片思いでしたが付き合うことにもなったし、つがいになりたいと先日言いました」
「ええ!? 司君がうちの正樹に片思い、だったの!? つ、つがい!? まあまあ!! そんなミラクルあるのね」

 ミラクル、それは俺のセリフだった。一生で出会えるか、わからないような奇跡の人に巡り会えたのだから!! この熱い思いを伝えたい!

 俺は百合子さんの手を握り熱弁した。

「俺は正樹に一生の伴侶になってもらいたいと思っています。あんなに素晴らしい人に会ったのは初めてです、百合子さん、正直で優しくて可愛い、最高の男を産んでくれて育ててくれて、本当に感謝しています」
「あら、私こそ感動だわ。そんなもう嫁に出すみたいな、そんな真剣な感じ? 司君、こちらこそあの子をそこまで思ってくれてありがとう」

 百合子さんも俺の手を握り返し、お互いに同意しあえたところ、リビングのドアが開き、そこに呆然とする男がいた。

「な、な、なんだ!! お前は、うちの百合ゆりちゃんの手を握るとは!!」
「まあ、いやだわ。私ったらつい司君と手を繋いじゃった、きゃっ、今更ながら恥ずかしいっ」
「ゆ、百合ゆりちゃん。今すぐ離れなさい!!」
「あら、和樹かずき君。この子は正樹を前に助けてくれた司君よ、ほらほら、まずは着替えてきてね!」

 百合子さんは俺の手を離して、旦那さん……正樹の父親であろう男性のもとへ行き、すぐさまリビングから追い出した。

「ふふ、ごめんなさいね。パパったらあわてちゃって。可愛いんだから! 司君、あの人が正樹の父親よ。正樹はまだ居ないけど私達夫婦に話があったのよね、さっきのお付き合いのことかしら?」
「はい、ご両親にきちんとご報告をしてから、つがいの許可もいただき、正樹と今後のことを真剣に向き合いたいと思っております」
「ふふふ、真面目ね」

 正樹の父親に挨拶する間もなく、百合子さんに追い出されてしまったが。着替えたらすぐに降りてくるとのことだったので、俺はいつになく緊張してその時を待った。

 そして着替えてきた男性が来た途端、俺は挨拶をした。いや、緊張のあまり挨拶を忘れた。

「息子さんを、俺にください!!」
「ま、ま、ま、正樹は、まだやら――ん!!」

 そして冒頭に戻るわけだ。
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