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番外編 ハッピーエンドの二人(41話と42話の間の話)
45 抱きしめて
しおりを挟む結婚して初夜も済ませて、さらにはお互いに求め合った発情期も終わった。そしてお腹には愛おしい人との子供も宿り、俊は人生でありえないほどの幸せの時を過ごしていた。
「恭一、大好き」
「僕も俊が大好きだよ」
見つめあえば愛の言葉が交わされる、そんな新婚生活。恥ずかしくもあり嬉しくもあり、なんとも言えない気持ちで毎日が渋滞している。しかしそれは俊だけではなかったようだった。
「俊、離れたくない。僕は俊への気持ちが溢れて、むしろこぼれている」
「恭一……」
いつだって態度だけではなくしつこい位に言葉にしてくれる愛おしい旦那様、普通の妻ならそれはうざいという種類のものらしいのだが、思いのほか愛に飢えていた俊にはそんな感覚に陥ることはなく、いつもいつも嬉しさで溢れていた。
「俺はこぼれないよ。だってもったいないもん」
「あぁ、俊! なんて可愛いんだろう。僕も、もったいないからこぼさないようにするね」
過激な愛の言葉が飛び交う割に、手を繋いで見つめ合うだけの二人きりの世界。それは甘美な日常にありふれて存在する世界。そう、神谷と俊にとっては当たり前の毎朝の光景だった。
地下駐車場にエレベーターで降りて、毎朝この繰り返しをする夫妻を細い目で見守る人がいる。それは、二人の恋のキューピットならぬ、恋の相談係の三隅だった。
三隅は神谷の直属の部下となり、常に行動を共にしている。妻と幼い子供を車に乗せ、神谷の家の地下駐車場に到着する。するといつもの通り熱い言葉を飽きもせずに毎朝かけあう上司夫妻がいる。
週二日は、妻と子供を神谷の家に送り届け、神谷を乗せて職場に向かう。元迷い子の俊と、三隅の妻と子供が三人で過ごす決まりとなっていた。俊の妊娠中に、一人にしたくないという神谷の提案だった。
家政婦の来ない日だけ、俊は三隅の妻と子供と遊んでもらっている。それを俊はとても喜んでいた。
家族ぐるみの付き合いになってしまい、神谷とは職場でもずっと一緒、なんでこんなことになってしまったのだろうと悔やむ三隅だが、俊が幸せそうにしている姿を見るのは嬉しかった。自分が保護した迷い子が、これほどまでに立派になって良かったなという親心的な心情も重なっていた。
妻も可愛い俊を気に入っているようだし、幼い息子も懐いている。それはそれで良かったと思う三隅だが、毎朝の胸やけはいったいどうしたらいいのだろうと、本気で胃腸科に相談に行こうと心に誓っていた。
「警視正、そろそろ行かないと遅刻しますよ……」
「三隅君。また僕たちの邪魔をするの? 検挙しちゃうよ?」
「はいはい。俊君、調子良さそうだね。つわりはもう収まった?」
「あっ、はい。だいぶ良くなりました!」
「そう、それは良かった。じゃあ今日も妻と息子をよろしくね」
毎朝、飽きもせずに別れを惜しむ二人を見て、三隅の妻は毎回笑っている。そして俊は見られて恥ずかしいという顔をする、それを眺めたいがためにこの胡散臭い愛の劇場をする神谷。みんながみんないい役どころについているなと、三隅は感心するのだった。
「あっ、恭一……待って」
「ん?」
「あの、その……抱きしめて」
「ああ、そうだったね、三隅君の邪魔が入って忘れるところだった」
そして二人は抱き合った。なぜか朝に欠かせない行為らしい。俊が決めたと言っていたが、どうしてなのかは知らないと神谷が言っていたのを思い出した。三隅が推測するに、人前でいってらっしゃいのキスはできないから抱擁だけでもと思う可愛らしい俊の考えかと思っていた。
幸せそうな俊の笑顔を見て、今日も安心する三隅だった。
妻と息子、俊と別れた後、車を運転する三隅は後ろに座る神谷を見た。またスマホを見て笑っている。きっと俊の写真でも見ているのだろうと思った。新婚だし、俊は妊娠中だし、仕方ない。三隅はそんな二人が嫌ではなかった。
「ああ、三隅君。俊がとても可愛いんだ」
「……そうですね」
「毎朝、本当に離れがたくて」
「えっ、あれって本気の奴だったんですか? 俊君に可愛い仕草をさせるための演技じゃなくて?」
三隅は本気で話す神谷に驚いた。
「は? 三隅君なに言ってるの? 僕が俊相手に演技なんかできるわけないでしょ。僕と俊をそんな風に見ているなんて、三隅君はまだ仕事量が足りないみたいだね。だからそんな邪なことを考えるんだ、はっきり言ってくれればいいのに。ごめんね? 気が付かなくて、いい案件があるから今夜残業しちゃう? 奥さんと坊やは家に泊まっていけばいいよ。ちょうど俊が坊やと一緒にお泊りしてみたいって言ってたからね」
「え! そんな横暴な」
神谷は意地悪そうに笑う顔が、バックミラーで確認した三隅は嘆いた。
「ふふ、嘘だよ。僕が君の家族をさらう真似なんかするわけないでしょ。でも俊の安定期に落ち着いたらみんなで温泉旅行にでも行こうよ、これから俊に沢山のことを経験させてあげたいんだ。付き合ってくれる?」
「そういうことなら、喜んで」
二人が上手くいって、本当に良かったと三隅は心から思う、そんな朝だった。
そして何年たっても二人はずっと抱きしめあっている、そんな朝は変わらなかった。
二人が結婚して数年経った時、ふとした拍子に三隅と俊は、毎朝のハグの話になったことがあった。その時『抱きしめて』の、話を俊から聞いた。
その頃には控えめな敬語も忘れ、エルのような口調が戻った俊だったが、出会った頃のエルも、次に会った時の俊も、そして今の俊も、いつも精一杯に生きて常に神谷を愛する姿は、変わらないなと三隅は微笑ましく思った。
「運命だなんて言うのなら、抱きしめて」
それは、俊の精一杯の愛の言葉だった。
――番外編 おわり――
物語お読みいただきありがとうございました!
☆riiko☆
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穏やかに愛を育むストーリーとして気に入っているので、ぷーきち様のストライクゾーン嬉しいです(๑ ́ᄇ`๑)
いつもありがとうございます( ¨̮ )
お久しぶりです( ¨̮ )
こちらはぷーきち様も安心して読める作品になっております(๑ ́ᄇ`๑)
不穏なタイトルもありますが、私史上1番穏やかな作品です。ぜひ一気にお楽しみくださいませ!
番外編のラスト1話終わっちゃった~~~!!もう見れないの寂しいぃ~~~!!
でも完結おめでとうございます😊
三隅さんが私の中で最高キャラでした✨🤣
逞しくなりましたね~笑
ほっこり作品ありがとうございました♪♪
ご感想ありがとうございます。
三隅君、憎めないいいキャラでしたよね!ほっこり作品に欠かせない人物、笑。
ラストまでお付き合い下さりありがとうございましたヾ(๑⃙⃘´ꇴ`๑⃙⃘)ノ