回帰したシリルの見る夢は

riiko

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番外編

幸せに包まれた世界

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 僕たちがつがい契約をして本当の意味で結ばれたあと、王都を離れることなく過ごしていた。そして結婚して一年が過ぎた頃、若き王太子夫妻として王都から離れた場所への公務があった。
 せっかくの遠出だから二人でのんびりしてきなさいとお義父様から言われ、公務のあとは遠慮なく遅めのハネムーンへと来た。
 ここは王都から離れた地にある、王族が休暇で利用する城。

「うわぁ、すごく綺麗だね。湖がまるで鏡みたい!」
「あぁ、ここは月の光でもっと幻想的になるよ。夜の散歩も一緒に来よう」

 寝室のバルコニーからは、とても美しい景色が広がっていた。沢山の緑と湖、整備された庭園。こんなところに来たら、帰りたくなくなっちゃうな。

「フラン、こんな素敵なところまで連れてきてくれてありがとう、大好きっ!」
「シリルは嫁いでからとても頑張ってくれて、お礼をしなければと思っていたんだ。ここでは好きなだけゆっくりして、日頃の仕事は忘れるといい」
「フランこそ、いつもお疲れ様です。フランも目一杯休んでね」

 二人で微笑み合うと、いつの間にか口づけが始まる。どちらからともなく、お互いの身体に触れ、そしてベッドへと歩きだし愛を交わした。
 到着して二人が燃え上がることを周りはわかっていたようで、この城で待ち構えていた出来の良い従者たちはすぐに部屋に案内してくれた。そして情事が終わる頃、控えめに部屋に軽食が運ばれてきた。
 翌日は寝室に篭ることなく、朝から二人で城の周りを散策する。安全な場所とはいえ、ここは王宮内ではないので、従者も騎士も引き連れて歩くことになる。その時、ふと城門に知っている顔を見た。

「あれ? あなたは……リーグ卿?」
「妃殿下、お久しぶりでございます。覚えていていただき光栄でございます」
「どうして、ここに?」
「お二人のご成婚後、配置移動になりこの地に赴任しました」

 驚いた。リーグはアシュリー断罪後、こんなところにいたなんて……

「リーグ、久しいな。元気そうでなによりだ。この地はどうだ?」
「殿下。希望場所への配置ありがとうございました。毎日楽しく暮らしております。ここは高位貴族の方たちの保養地としても人気なので、王都ほどではないにしても騎士としての仕事は飽きることなくあり、毎日充実しております」
「それは良かった。この土地は王族にも大切な場所だ。安全に守りを固めてくれているのがよくわかる。感謝している」

 久しぶりに見るリーグは穏やかな顔をしていた。
 僕が学園で見る時は、いつもアシュリーの行動にハラハラしている姿ばかりだったけれど、本来リーグがしたいことを今はさせてもらえているのかな? 
 あの時のリーグは、アシュリーの断罪に加担したんだよね? フランからの命令だといえ、聞いた時は凄く驚いた。

「リーグ、お前が望んだから王太子直属の騎士を辞したが、できればお前には王都に戻ってほしいと思っている。いつかは私のもとに帰ってくる気はないか?」
「はい。その……お恥ずかしながら、殿下にも、もしかしたら妃殿下やリアム様にも知られていたかもしれませんが、私はアシュリー様をお慕いしておりました。あの方は既にリアム様とご成婚されたと聞いて、王都にいてはいつまでもこの想いが絶ちきれないので、この地で骨を埋めようと決意しました」

 僕たちの後ろにいるリアム様をちらりと見るリーグ。
 そうだ、彼の恋心は前の生も今も本物だった。彼の想いは二回とも成就しなかった。そう思うとなんだか悲しくなってしまい、フランをそっと見上げた。フランも申し訳ないと思ったのか、僕の手をぎゅっと握って一言。

「そうか……」

 アシュリーの断罪に、ただ巻き込まれただけのリーグ。あの時の僕たちの波乱のせいで、恋心をフランに利用された一人だった。
 好きなのにフランから強制されて、ヒートを起こしたアシュリーを抱いた。僕が少し複雑な顔をしたら、後ろに控えていたリアム様も気まずそうにした。
 そんな僕たち当事者三人の表情を読み取ったのか、リーグが穏やかに話を続ける。

「私は殿下の恩情により一瞬でも想う方の側に……。思い残すことなくこの地で生きる決意ができました。どちらにしても結婚したらここで生活をしたいと昔から考えていたので、少し予定より早く来ただけです。ですから殿下には感謝しております」
「そうか、穏やかなお前には、王都よりもこういった場所の方が肌に合うかもしれないな。いつまでも息災でいてくれ」

 そこでリーグとの会話は終わった。
 リアム様はその場にとどまり、リーグと少し話をしたいと言った。リアム様もアシュリーを抱いた騎士を知っているだろうし、二人も複雑な関係だろうと思う。だけどリアム様とリーグは前を向いているから、きっと大丈夫だろう。
 リーグはまだ王家の騎士という立場にいるので、この城に誰か来た時は城の門に配置されるのだという。なんとなく彼のその後が気になっていたから知れて良かった。リーグも何かに見切りをつけて前に進んでいるし、なんだか幸せそうに見えた。あの彼ならこの地で愛する人を見つけていつか家族を作って落ち着く、そんな気がした。
 そして湖のほとりを歩いてから、二人で芝生に座り自然とイチャイチャし始めた。僕とフランがキスをすると、側近たちはみんな気を使って少し離れてくれた。
 リアム様は相変わらず王太子の側近として仕えてくれている。フランが行く先にリアム様がいつもいるのは、以前と変わらない。だから僕とも以前のように……まではいかなくてもお話くらいはする。そんなリアム様は、リーグと話が終わったのだろう。湖の近くでお花摘みをしていたのが見えて、僕は驚いてフランに目を向ける。

「ああ、リアムは子どもに押し花を作ると言っていた。あいつはそういう男だ」
「えっ、どういう男!?」
「わりと乙女な思考があるということだな……、甘いものが好きだし、可愛いだろう」
「それは、か、可愛いね。でもお子様、本当に可愛いもんね。お花が似合う可愛い女の子か。リアム様はお花を見てにやにやしちゃうくらいに、子煩悩だよね」

 僕とフランを二人きりにしてくれたリアム様は、ちょっと離れた場所に待機しつつも、家族のことを想っているのは、なんだかほっこりする。あの夫夫ふうふの関係は少しもどかしいような感じもするけど、上手くいっているように見えた。
 僕とフランもこうやって、ずっと一緒に過ごすくらいに上手くいっている。
 この幸せを手に入れるまで、皆が沢山の苦労をしたけれど、僕の周りはあれから愛に溢れていた。

「フラン、僕幸せだよ」
「私も幸せだ、シリル」


 ―― fin ――

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