初めては好きな人と

riiko

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6 オメガにしやがって…

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 体の熱さは引くことなく、家で布団にこもっていた。
 家の隣にある町工場を引き継いだ叔父は仕事中のはずだが、僕の帰宅に気づいたらしく、部屋にはノック音が響く。

「奈月、学校はどうした? 腹でもこわしたか?」

 声をかけながら、作業着姿の叔父が入ってくる。

「おじさぁぁぁん」
「おまえ、顔真っ赤だぞ! 熱か! 風邪か!? 大変だ! お前が風邪を引くなんてありえん!」

 布団にくるまる僕を見て叔父が心配する声をだした。確かに僕は頑丈で風邪なんて引いたことがあまりない。叔父がわたわたとし出すと、なぜかがばっと布団をめくった。

「まずは汗を……っ、え?」

 具合悪い甥っ子の布団をはぐ? 叔父が僕の体を見て止まった。僕は下半身丸出しで布団にくるまっていたのだ。

「ち、違うの、体がおかしくて、僕のあそこがおかしなことになって……どうしよう」

 そう、布団の中でじっと熱が収まるのを待っていたが止まらないんだ。少し出したけど、全然止まる気配がしない。しまいには手が疲れてじっとしていた。

「これ、お前……病院行くぞ!」

 叔父は何かを察したらしく、僕に大きめの上着をかぶせて車に乗せた。そして救急で診察を受けると、太ももに注射をされて熱がやっと収まった。

 結果、僕はオメガになって発情期が始まったとの診断だった。

 それから一週間後、僕は臣君がいるであろう図書室に行った。
 いつも通り彼はそこにいた。僕が臣君の隣に立つと、臣君は驚いた顔をした。

「臣君、僕……、オメガだったみたい」
「あ、ああ。もうヒートは収まったのか?」

 臣君が少し赤い顔で僕に向かって言った。キスをした仲になってしまったので、お互い気まずい。

「うん。お医者さんが言うには、近くにアルファがいて反応したんだろうって。臣君、ごめんね。あの日、臣君にひどいことをした」

 臣君がごっくりと喉を鳴らした。

「やっぱり……奈月は、俺のっ」

 臣君は怒っていなかった。僕はこれ以上彼から何かを聞くのが怖くて言葉を遮った。

「あ、でも、もう大丈夫! 抑制剤もらったし、もう臣君に迷惑はかけないと思う。気持ち悪いことしちゃって本当にごめんなさい」
「奈月、俺こそ抑えられなくてごめん。俺、稼ぎがないうちはオメガと関係は持たないって決めてるんだ」
「う、うん?」

 最近の臣君の話がよく分からなくなってきた。勉強を教えるのはあんなに上手なのに、日常会話下手過ぎない? いきなり何の話だろう。

「俺んちは貧乏だ」
「うん、こないだ聞いたよ。僕の家もだけど……それがなんか関係ある?」
「あるよ! もしオメガの子を妊娠させてしまっても養えない。責任を持てないんだ」
「ほえ? 臣君、僕たちまだ高校生だよ。オメガの子じゃなくても、まだ誰かを孕ませちゃだめでしょ」

 臣君は、こんな日中になんて話をしてくるんだ。しかもここは神聖な図書室。

「いや、そんな単純な話じゃないんだよ、アルファとオメガは発情が始まったら抗えないんだ。俺んちは貧乏だからアルファ用の抑制剤を買えない。オメガ側は保険がきくけど、アルファに保険はないんだ。不平等な世の中だよな、アルファが全員金持ちなわけないのに」
「ア、アルファも大変なんだね」

 同級生だけど、臣君とはそんな性的な話をしたことがなかったから、ちょっととまどった。彼の性の悩みを聞く日が来るとは思わなかったからびっくりしてしまった。

「いやいやいや違う! そんな話じゃなくてだ!」

 臣君が頭を抱えだした。
 おいおい、孤高のアルファの面はどこに行ってしまったんだい?

「俺が社会に出るまで会うのやめよう」
「え? 社会っていつ出るもの?」
「うまくいけば大学在学中かな……起業がんばるよ」

 ところで今はなんでこんな話をしているのだろうか。こないだ無理やりキスをしたこと、されたこと? とにかく僕が気持ち悪いことをしたことについて謝りに来ただけだったんだけど。
 あ、そういうことか。僕がオメガになって、臣君を襲った。だからもう――

「僕がオメガになったから? だから友達止めるの?」
「そうだ。もう友達じゃいられない。それに、問題は俺がアルファだからだ」

 アルファとオメガは友達にはなれない。僕がベータだったら友達でいられたのに……

「そんなの、嫌だ。僕、臣君と話して楽しかったのに。まだ高校生活続くのに! どうしてオメガになったってだけでそうなるの? 一緒に受験勉強頑張るって言ったじゃないか! あの日はヒートだったから臣君を食べたくなっちゃったけど」
「食べ……」

 臣君がごくりと喉を鳴らした。僕は興奮してまくしたてる。

「でも! でも普段からあんなに誰彼構わず襲わない!……と、思う」

 会わないと言われて寂しくなってつい感情的になった。
 僕は臣君といい関係だと思っていたのに、気が合うし、勉強中隣にいても居心地が良くていい匂いもして一緒にいるのが好きだったのに。
 たちまち悲しくなってしまった。
 僕が泣きそうな顔をすると、臣君が僕の腕をつかんだ。力強い手でしっかりと固定される。背の高い臣君が少ししゃがんで僕と同じ目線になった。

「誰彼かまわず襲われたら俺が困る。それに俺が在学中に成功したら、また今みたいに気軽に会えるから、まずは受験に集中して同じ大学目指そう。話はそれからだ」

 彼の瞳はこれ以上僕を受け入れない、そう言っているようだった。そしてつかまれた腕から熱を感じてきた。なぜだか僕もこれ以上彼と一緒にいてはいけない気がして、僕はうなずいた。
 
 そうして僕たちの友情は終わった。

 それからすぐに受験シーズンに入ったので、登校自体そんなになくなっていたのもあり、必然的に会うことがなくなった。
 僕は彼のことを考える日々が増え、そしてミントのタブレットを手放せなくなった。ヒートを経験したりとオメガの覚醒してから集中力がどこかへ行ってしまい、目指していた国立はダメだった。叔父は学費を出してくれると言ってくれたので、僕は私立大学に入ることになった。叔父に無理をさせて申し訳ないけれど、大学を卒業して立派な会社員になって自分で稼がなければいけない。だから、叔父に甘えた。もちろん、自分で賄える部分はがんばるつもりだ。

 臣君は当初の予定通り国立に合格していた。同じ学校に通う夢が破れ、僕と彼の接点はもうまるでなくなっていた。
 卒業式は僕のヒートと重なり、臣君と会うことなく僕たちの関係は終わった。
 そもそも関係なんてなかったのかもしれない。

 叔父に連れられて定期健診に行ったら、先生からの診察で変なことを聞かれた。ヒートになったとき最初に欲しくなった香りは何だったかと……。そもそもミントの香りにフェロモンを感じたわけだし、迷わずミントと答えた。
 その香りは誘発剤になるから、これからは嗅がないようにと言われた。僕は臣君のミントの香りでオメガが目覚めたらしい。
 このやろう。そう思ったけれど、それからの発情期は軽い症状だとしても、なぜか臣君が僕の脳裏をよぎった。
 きっと、僕は臣君に恋をしていたんだと、離れてから初めて気が付いた。高校時代、彼と会う図書室での時間がとても好きだった。それは、僕が彼を好きだったからだ。
 大学生になった僕は、彼としたキスが忘れられなかった。

 彼が僕をオメガにした。

 このやろう……

 心の中で悪態をつくが、彼に会いたくて仕方なかった。
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