運命の番は姉の婚約者

riiko

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第一章 運命の番を知る

3 初めてのヒート

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 高校三年生だというのに今までヒートの経験がなかった俺は、実はオメガではなくてベータではないのかと疑っていた。だがそんな訳もなく、あの日ようやくヒートを迎えた。あの時は道端で急に発情期を迎えたにも関わらず、幸いにもベータとオメガの同級生に助けられて、無事に清い体のままでいられた。

 街中でヒートを起こすのは、オメガ側の管理不足ということで、周りにアルファがいたら犯されても何も言えない。

 だから二人には本当に感謝した。

 それから三か月後に、もう一度ヒートがきた。それがヒート周期なのだろうと医者に言われた。幸い薬が効く方で、初めてのヒートの時のように、訳がわからなくなって苦しむということはなかった。たったひとつのきっかけを除いては……

 薬で抑えるヒートも慣れた頃に、事件は起きた。姉の彼氏の残り香で発情をしたのだった。

 姉はきっとその日、彼氏と体を交えたのだろう。あの男の性交の香りが鼻腔に入り込んできた。なぜだか、そんな気がした。普通のフェロモンじゃない。特別濃厚なフェロモンが姉の素肌から感じ取れた。

 あの夏、姉と会っていたあの時の男は、すでに姉の彼氏だった。

 姉は彼氏ができたと写真を見せてくれた。それがあの時姉と一緒にいたあの男だったからすぐにわかった。それを知ったときなぜだか落胆した。姉の彼氏が欲しいと思うようになるも、必死に「心の誤作動だ!」と言い聞かせてきた。しかし自慰をするときは決まって、一瞬見ただけのあの男を思い浮かべていた。

 あの男が欲しい。

 いや、違う! 愛する姉の好きな人なんて、欲しくない!

 何度も自問自答を繰り返し、最近ではあの男が欲しくてどうしようもない衝動は、やっと抑えられてきた。それなのに、姉の体に残る彼の香りに誘発されて、体が昂ってしまった。こんな自分を情けなくなり、どうしようもない最低なオメガだと感じた。

 姉の彼氏に欲情しているなんて。

 アルファを望むオメガ性を騙し騙し過ごしていたが、彼のフェロモンを間接的に嗅ぐともう限界だった。そんなことがあり久々に登校すると、自分の席に着いた途端、オメガ性のはるが話しかけてきた。

「爽ちゃん、大丈夫? ヒートが終わったばかりなのに、またなんて……何があったの?」
「別に、何もないよ」
「今回の突然のヒート……さすがにおかしいよ。もしかして運命に会ったんじゃないの?」
「運命? なにそれ」
「えっ! 爽ちゃん、オメガのくせに運命知らないの?」

 春はまるで天然記念物を見たというくらい驚いていた。アルファとオメガには唯一のひとりが決まっている。だが、普通は出会えないくらい少ない確率でしか会うことがない。世界中のたったひとり。遺伝子的に最高の相性と言われていて、会うだけで発情してしまうらしい。

「もしかしてさ、初めてのヒートの時と今回、共通するアルファがいない?」
「あっ」

 春の言葉で、脳裏に「運命だから」そう一瞬でよぎってしまった。

「やっぱり。あの時の爽ちゃん、お姉さんのことを呼んでいたけど、途中から違う人を呼んでいるみたいだったんだ。ちょっとおかしかったし、あいつは俺のだってうなされていた……」
「俺、そんなこと言ってたんだ……」

 あの時すでに姉の彼氏を欲しいと思うオメガが、自分の中にあった。

「咄嗟に運命がわかって、オメガの本能が自分のアルファをとられたくないって思ったのかも」
「俺、最低じゃん」
「なんで? 運命のアルファを求めるなんてロマンティックじゃん! しかも出会っちゃったんでしょ」
「……そんな」

 じゃあ、あのチラリと見た姉の彼氏が自分の運命のアルファだとでも言うのだろうか。

「爽ちゃん、僕たちオメガはフェロモンに左右されやすいんだ。だからその本能は仕方がないと思う」

 それから春は、運命やアルファについてなども詳しく教えてくれた。高校三年生になってもヒートが始まらないから自分は実はベータではないかと思っていて、オメガについての知識も薄かった。

 しかもあれ以来発情期もすんなり終わるし、性に対しても全く無関心でいられたので、オメガの知識を再度入れることもなかった。そんな自分に呆れていると、春はオメガのどうしようもない性衝動などについて話し始めた。

 運命に出会った突然のヒートは、お互いに自制が効かない。なし崩し的に体を交えて収めるしかなく、ラットを起こしたアルファは運命ならその場で噛む可能性もある。オメガ以上にアルファは運命への独占欲が強いとか。

 それが運命のつがい

 既にオメガにつがいがいる場合は、遺伝子がそのつがいのものに合うように変わってしまっているから、運命は作動しない。

「それって、その相手につがいがいなかったら? もし他の人と付き合っていたら反応しちゃうの?」
「う――ん。アルファにたとえつがいがいても反応すると思うよ。だからよく、運命に出会ったらたとえアルファにつがいがいても捨てられるって。オメガ側のフェロモンが出ている以上無理らしいよ、オメガに他のつがいさえいれば関係ないけど」
「ひどい話だ」

 なんだ、それ。

 姉の彼氏ともし会ってしまったら、自分は姉から寝取ることになる。そんな恐ろしい昼ドラみたいなのは無理だと俺は悲観し、身震いした。

 姉ちゃん、なんでアルファと付き合っているんだよ……

「じゃあ、その運命に作用しないには、他のアルファとつがいにならなきゃだめなの? 回避しようがないってこと?」
「あと、妊娠中も大丈夫だった気がする。オメガは妊娠中フェロモン出さないらしいよ、ヒートも出産後しばらくはないみたいだし」
「そうなの?」
「ヒートって子供作る行為じゃん? だから子供がお腹にいる時は子作りする必要ないからじゃない?」

 オメガは子供を孕む道具、そう言われた時代もあったのは、そういう事からなのだろうか。つくづくオメガは可愛そうな生き物だと思う。

「爽ちゃんは、その人とつがいになろうと思わないの?」
「思わない、絶対!」
「……そっか。だったらあの時、その人に爽ちゃんのこと気がつかれなくて本当に良かったね。相手もラットを起こしたら間違いなく噛まれていたよ」
「それだけは、お前らに感謝だよ。咄嗟に助けてくれてすぐに抑制剤も打ってくれたから、ほんとにありがとう」
「ううん。僕も大事な友達を守れて良かった」

 一通り話を聞き納得したからか、そこで終わった。そしてある決意をした。

「なあ春、俺の今の話、誰にも言わないで。墓場まで持っていってほしい」
「爽ちゃん……」

 きっと春は気付いていると思った。姉の男が、俺の運命のつがいだと……



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