運命の番は姉の婚約者

riiko

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第一章 運命の番を知る

4 事件

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 あれからも、どうしても姉の彼氏が欲しくてたまらない衝動が止まらなかった。毎日むしゃくしゃしていたそんな時、姉が彼氏を家に連れてきたいと言った。

 会いたい、顔を合わせて声を聴きたい、俺のことを見て欲しい。

 会ったこともないあの男に、どうしてこれほどの欲情を抱くのかわからなかった。だからこそ、会ってはいけないと防衛本能はそう思った。

 むしゃくしゃしてひとりでぶらぶらしていると二人組にナンパされた。自分は身長も程よくあるし、本当に一見ベータにしか見えない。周りからもオメガに見えないと言われていたから、人生で初めて男からナンパされたことに驚きを隠せなかった。

 まさか、ヒートを迎えたから?

 この人たちは俺の運命ではない、違うと、一瞬で本能がアルファを査定し始めたことに嫌気がさした。やんわりと断ったが、二人は中々引き下がらず、しまいには腕をつかまれ近くの工事現場に連れ込まれた。

 何が起こったのかわからないままに、腕に注射を打たれた。

「やっ、やだ!」
「大丈夫だよ、ちょっと気持ちよくなる注射を打っただけだから、一緒に楽しもう」

 男たちから、たちまちフェロモンが香ってきた。その香りが不快でたまらなかった。違う……この香りじゃない。それだけが脳裏によぎっていた。

「や、やめてっ、助けてっ、来ないで!」
「そんなオメガの匂いぷんぷんさせているほうが悪いんじゃない?」
「え、オメガの匂い?」
「凄くいい匂いしているよ。アルファとしたいって思っていたんだろ?」

 自分からは、浅はかにもオメガのフェロモンが出ていた? 

 姉の彼氏を想って、オメガに成り下がっていた。それを見ず知らずのアルファにばれているなんて。しかも姉の彼氏と体を交えたいという願望が、体からにじみ出ていた。そんなことが……

 瞳からは涙が出てきた。感情がコントロールできない。

 俺は姉が大好きなのに、それなのに姉の彼氏が、欲しくて、その隣にいる姉が憎くて仕方ないって、本能では思っている? 

 自分はなんて浅はかな見苦しいオメガなのだろうか。そう落胆した途端、もう抵抗する気力もなくなった。そして注射を打たれたことで体に力が入らなかったのもあり、男二人に組み敷かれた。

 こんな汚いオメガ、汚されてしまえばいい。

 そう思い、俺はそっと諦めたように瞳を閉じた。

 次に目が覚めた時は、病院のベッドだった。あれからいったい何があったのだろうか。体には特になにも異変はない。むしろあの注射の効果が終わったのか、体の自由が戻ってきた感覚があった。

「爽!」
「え、姉ちゃん?」
「爽、無事で良かったわ」
「母さん? 俺はどうしてここに?」

 泣きながら母と姉が病室に入ってきて、二人に抱きしめられた。

 あの時、工事現場の人が物音に気が付いて通りかかったところ、無抵抗な俺が男二人に襲われているところを発見して、警察に通報してくれた。俺は薬の作用で意識を失い、下着一枚残すのみとなっていたところを助けられ、身はまだ清いままだったと病院で証明された。男たちはその周辺でオメガを襲っていたという前例が何件も見つかり、警察に捕まった。

 俺は結局、何もないまま救われた。家族は、トラウマができたのではないかと心配をしていた。それを利用した。

 アルファが怖い、アルファの匂いは無理。

 そういうトラウマができたと思わせた。そのことがあり、姉が彼氏を家に連れてきたいと言わなくなったので、むしろ良かった。

 そんな事情もあり、姉の彼氏と会う機会はくることなかった。





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