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第一章 運命の番を知る
4 事件
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麗香の体から染み出る移り香を知ってから、どうしても麗香の彼氏が欲しくてたまらない衝動が続いた。毎日むしゃくしゃしていたそんな時、麗香が彼氏を家に連れてきたいと言った。
――会いたい、顔を合わせて声を聴きたい。俺のことを見てほしい。
会ったことのない男に、どうしてこれほどの欲情を抱くのかわからなかった。だからこそ、会ってはいけないと爽のなけなしの防衛本能はそう思った。
自分の本能を騙している日々に疲れ果てた。気晴らしのため一人で街をぶらぶらしていたとき、二人組にナンパされた。
爽は身長が程よくあるので、一見ベータにしか見えない。周りからもオメガに見えないと言われていたので、人生で初めて男からナンパされたことに驚きを隠せなかった。
ヒートを迎えたからだろうかと考えるが、すぐに爽は考えを消した。
――この人たちは俺の運命じゃない……違う!
瞬時に脳内ではアルファを査定し始めたことに嫌気がさした。誘いはやんわりと断ったが、二人は中々引き下がらず、しまいには腕をつかまれ近くの工事現場に連れ込まれた。
何が起こったのかわからないままに、爽の腕に注射が打たれる。
「やっ、やだ! 痛い!」
「大丈夫だよ、ちょっと気持ちよくなる注射を打っただけだから、一緒に楽しもう」
男たちから、たちまちフェロモンが香ってきた。その香りが不快でたまらなかった。違う……この香りじゃない。それだけが爽の脳裏によぎっていた。
「や、やめてっ、助けてっ、来ないで!」
「そんなオメガの匂いぷんぷんさせているほうが悪いんじゃない?」
「え、オメガの匂い?」
「凄くいい匂いしているよ。アルファとしたいって思っていたんだろ?」
浅はかにもオメガのフェロモンが出ていたのだろうか? 見ず知らずのアルファに察知されるくらい、浅はかで醜いオメガの香りが……。
姉の彼氏と体を交えたいという願望が、体からにじみ出ていたことを知り、苦しくて辛くてどうしようもなく自分が醜く感じた。瞳からは涙が出る。感情がコントロールできない。
姉が大好きなのに、それなのに姉の彼氏が欲しくて、その隣にいる姉が憎くて仕方ない。本能では思っているのだろうかと、苦しくて仕方ない。なんて浅はかな見苦しいオメガなのだろうか。
そう落胆した途端、爽からは抵抗する気力が失せた。注射を打たれたことで体に力が入らなかったのもあり、男二人に組み敷かれた。
――こんな汚いオメガ、汚されてしまえばいい。
そう思い、そっと諦めたように瞳を閉じた。
次に目が覚めたとき、病院のベッドだった。あれからいったい何があったのだろうか。体には特になにも異変がない。むしろあの注射の効果が終わったのか、体の自由が戻ってきた感覚があった。
そこで切羽詰まったような麗香の声が耳に届く。
「爽!」
「え、姉ちゃん?」
涙を溜めた麗香が目の前に現れた。続いて母が病室に入ってきて、二人が爽を抱きしめる。
「爽、無事でよかったわ」
「母さん? 俺はどうしてここに?」
あの時、工事現場にいた人が物音に気付き通りかかったところ、無抵抗なオメガが男二人に襲われているところを発見し、警察に通報したと聞かされた。
爽は薬の作用で意識を失い、下着一枚残すのみとなっていたところを助けられ、身は清いままだったと未遂であったことが病院で証明された。男たちはその周辺でオメガを襲っていたという前例が何件も見つかり、警察に捕まった。
爽は結局、何もないまま救われた。家族はトラウマができたのではないかと心配をしていたので、爽はそれを利用した。
アルファが怖い、アルファの匂いは無理。
そういうトラウマができたと思わせることで、麗香が彼氏を家に連れてきたいと言わなくなった。
そんな事情があり「運命の男」と会う機会は、麗香から結婚報告をされるまで一度もこなかった。
――会いたい、顔を合わせて声を聴きたい。俺のことを見てほしい。
会ったことのない男に、どうしてこれほどの欲情を抱くのかわからなかった。だからこそ、会ってはいけないと爽のなけなしの防衛本能はそう思った。
自分の本能を騙している日々に疲れ果てた。気晴らしのため一人で街をぶらぶらしていたとき、二人組にナンパされた。
爽は身長が程よくあるので、一見ベータにしか見えない。周りからもオメガに見えないと言われていたので、人生で初めて男からナンパされたことに驚きを隠せなかった。
ヒートを迎えたからだろうかと考えるが、すぐに爽は考えを消した。
――この人たちは俺の運命じゃない……違う!
瞬時に脳内ではアルファを査定し始めたことに嫌気がさした。誘いはやんわりと断ったが、二人は中々引き下がらず、しまいには腕をつかまれ近くの工事現場に連れ込まれた。
何が起こったのかわからないままに、爽の腕に注射が打たれる。
「やっ、やだ! 痛い!」
「大丈夫だよ、ちょっと気持ちよくなる注射を打っただけだから、一緒に楽しもう」
男たちから、たちまちフェロモンが香ってきた。その香りが不快でたまらなかった。違う……この香りじゃない。それだけが爽の脳裏によぎっていた。
「や、やめてっ、助けてっ、来ないで!」
「そんなオメガの匂いぷんぷんさせているほうが悪いんじゃない?」
「え、オメガの匂い?」
「凄くいい匂いしているよ。アルファとしたいって思っていたんだろ?」
浅はかにもオメガのフェロモンが出ていたのだろうか? 見ず知らずのアルファに察知されるくらい、浅はかで醜いオメガの香りが……。
姉の彼氏と体を交えたいという願望が、体からにじみ出ていたことを知り、苦しくて辛くてどうしようもなく自分が醜く感じた。瞳からは涙が出る。感情がコントロールできない。
姉が大好きなのに、それなのに姉の彼氏が欲しくて、その隣にいる姉が憎くて仕方ない。本能では思っているのだろうかと、苦しくて仕方ない。なんて浅はかな見苦しいオメガなのだろうか。
そう落胆した途端、爽からは抵抗する気力が失せた。注射を打たれたことで体に力が入らなかったのもあり、男二人に組み敷かれた。
――こんな汚いオメガ、汚されてしまえばいい。
そう思い、そっと諦めたように瞳を閉じた。
次に目が覚めたとき、病院のベッドだった。あれからいったい何があったのだろうか。体には特になにも異変がない。むしろあの注射の効果が終わったのか、体の自由が戻ってきた感覚があった。
そこで切羽詰まったような麗香の声が耳に届く。
「爽!」
「え、姉ちゃん?」
涙を溜めた麗香が目の前に現れた。続いて母が病室に入ってきて、二人が爽を抱きしめる。
「爽、無事でよかったわ」
「母さん? 俺はどうしてここに?」
あの時、工事現場にいた人が物音に気付き通りかかったところ、無抵抗なオメガが男二人に襲われているところを発見し、警察に通報したと聞かされた。
爽は薬の作用で意識を失い、下着一枚残すのみとなっていたところを助けられ、身は清いままだったと未遂であったことが病院で証明された。男たちはその周辺でオメガを襲っていたという前例が何件も見つかり、警察に捕まった。
爽は結局、何もないまま救われた。家族はトラウマができたのではないかと心配をしていたので、爽はそれを利用した。
アルファが怖い、アルファの匂いは無理。
そういうトラウマができたと思わせることで、麗香が彼氏を家に連れてきたいと言わなくなった。
そんな事情があり「運命の男」と会う機会は、麗香から結婚報告をされるまで一度もこなかった。
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