契約結婚の裏側で

riiko

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番外編

プロ妻は二人の愛を見守る

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 私は桜宮梨香子あらため、五井園梨香子。

 戸籍上の夫は、悔しいけれど私の愛する人ではない。この世で……ううん、もうあの世だけど、私が今でも愛しているのはたった一人だけ。五井園健介さんただ一人。

 最愛の彼は、私達家族を残して逝ってしまった。

 最後は薬で痛みは抑えていたけれど、それでも彼を看取るのは苦しかった。私は一生懸命に涙を堪えて彼を見送った後、泣き崩れた。その声に生まれたばかりの雄介も泣いていたけれど、潤君が息子をずっと見てくれていた。彼だって最愛の父親を亡くしたというのに、私と健介さんを二人きりにしてくれた。健介さんの息子たちに、私は感謝した。

 絶対に私はあの二人の幸せの手伝いをする――健介さんにそう誓った。

 そして今、私はその息子の一人である戸籍上の夫、五井園健吾から詰め寄られている。

「で? 俺の潤を誘惑したって、どういうこと?」

 やばいよ。彼、かなり怒ってる。私は決して潤君を誘惑していない。だって、愛しているのは亡くなったあの人だけだし、それに彼はゲイ。そんな男を堕とそうなんて大それたことを私はしないし、正直タイプではない。

 どちらかというと、女友達に近い感覚。

 だって、潤君は料理は上手だし、洗濯ものは綺麗にたたむし、なんなら私のシーツまで洗ってくれる。とてもいい香りがしてうっとりしちゃうのよね。家の中はいつもピカピカに掃除してくれる。女子力高すぎて、私がまるで出来ない女みたい。いや、実際に私は何も出来ない女なのは間違いない。私には生活能力が皆無なので、潤君に必死に家事を教わっている最中だもの。

 という潤君がいかに出来る男かということはさておき。私は今、命の危険を感じている。

「ちょ、ちょっと待ってよ。私そんなことしてないし、する気もないし、というか私には色気はないし?」
「はぁ? 無自覚かよ! ここにもいたよ、潤と同レベルの無自覚野郎が」
「……」

 私に野郎と言ったこの男、アソコをちょん切ってやろうかしら?

「あのなぁ、潤は女性に対して無菌状態で生きてきたんだよ」
「そ、そうなの?」

 そうよね、ゲイだもの。それに関してはむしろ大歓迎! 私の大好物だからね。何を隠そう、私はBL小説が大の好物なのよねぇ。なんていうか、尊いって感じ。それがリアルに目の前に繰り広げられるなんて、たまらない! しかも願ってもないくらいに二人ともイケメン! イケメン同士の絡みってもうたまらないわぁ。

「ああ、そうだよ。あいつは俺しか知らない」
「ご馳走……様?」
「いや、惚気じゃなくてな。だから、あんたがその、なんだ、ブラトップっていうんだっけ? そのカップ付きのやつ。それで歩かれると目のやり場に困るんだと。つーか、俺の潤にその卑猥な谷間を見せるな」
「卑猥な谷間……? 酷い、セクハラよ!」
「お前の姿がセクハラだ! その姿、あいつには下着に見えるんだよ……可愛いだろ」

 確かに可愛いな。

「健吾さん、これはヨガウェアだよ」
「まぁ、スポーツウェアだよな、それ。でもその姿で卑猥なポーズを見てられないってさ」
「卑猥なポーズって、ヨガなのに……」
「つーか、なんでいきなり家でそんなこと始めたんだよ! 動きがエロイんだよ!」
「ええええ⁉ だって、最近やっと授乳終わったし、そろそろ自分のメンテナンスとして、まずは家で体を慣らそうと思って……」

 健吾さんは女性に慣れてる様子。

 この容姿じゃ、ゲイだって知らなければ女性が彼をほっておかないか! あしらい方も上手なんだろうな。にしても、潤君まじで可愛いんだけど! お姉さんもっと虐めたくなっちゃうけど、そんなことしたら私は身一つでこの家を放り出されてしまいかねない。それに社会的制裁されて二度とおひさまの下で働けなくなってしまいそう。それくらい健吾さんの圧が怖かった。

「あーー、もう、わかった! もう胸元が開いた服はこの家では着ない。ヨガは私の寝室でするから、もう潤君の目を汚すことはしません! これでいい?」
「ああ、そうしてくれると助かる。とにかく、あいつを刺激するような行動や姿などは見せないように」
「はーい!」

 彼らカップルはいったいどんな会話してるのかしら? 潤君も直接言えなくて、彼氏にそんな相談するなんて可愛いな。

 そして翌日。

「梨香ちゃん、なんか健吾がごめんね」
「ああ、ウェアのこと? 私もデリカシーなくて申し訳なかったかなって、ごめんね」
「ううん。でも、聞いてくれてありがとう。健吾が女性の体に興味をもっちゃったらと思うと、僕耐えられなくて」
「え?」

 健吾さんの話とまた違う感じだなぁ。

「ごめん! 梨香ちゃんのことをそういう目で絶対に見ないってわかってるけど、男の僕にはない肉体的な魅力が女性にはあるから、時々怖いんだ」
「……潤君(可愛すぎだろ!)」

 ゲイ同士のカップルでもそんな悩みがあるのか。私は絶対に害にならないって、まだわからないかな? それに健吾さんは潤君が女性に興味湧かないようにと、牽制してきて。そして潤君も同じように……

 尊すぎるだろーーーーーー!

 なんだよ、このバカっプルは!

「潤君」
「う、うん?」

 私は潤君の両肩をしっかりと掴んで真剣な顔をすると、潤君が少し怖がった。

「彼氏を心配する気持ちはわかるけど、女性側にも選択権はあると思うのよ。あんな執着男、私興味ないからね」
「え、なんで執着男だって知ってるの?」
「ふーん。以前にも潤君、女性に嫉妬してるわね? その時は女性が積極的だった? で、その後健吾さんに散々愛されてたりして?」

 潤君は顔を赤らめた。はい? なによ、なによ。さては、私をだしにして、すでに喧嘩してラブラブ仲直りした後かしら? 執着男の本領発揮後だったのね。うん、いいわねぇ。

「大丈夫よ、潤君。私、来月の会社関係のパーティーにプロ妻として出席するから、その時牽制してあげる。今後はどんな女も男も、あなたの夫に手を出せないというくらい、私が圧かけてあげるからね」
「へ?」
「あの人が、妻に夢中というエピソードを私がばらまいてきてあげる。もちろん、潤君とのエピソードをね。そうねぇ、直近だと――料理中に味見する時はいつもキスをして確認するとかかしら?」
「え、え、え?」

 戸惑う潤君に、私は健吾さんの真似をして、潤君の顎を掴む。

「お前の作る料理はいつも最高だよ。口内に入ったから愛情という調味料が加わってもっと旨くなったよ。最高だよ、愛してるーんちゅーーーーっ」
「え……」

 私が唇を尖らせてキスするような表現をして揶揄った。戸惑う潤君を見て、思わず笑ってしまった。

「ふふふ、夫はキスをしつこいくらいしてくるんで、料理が進まないんですぅ~って、言ってあげるね!」
「い、いつ見てたの⁉」
「……いつもよ。二人の愛情は私の心のエッセンス! ご馳走様!」
「うわーーーーー!」

 恥ずかしがる潤君を見るのは楽しい。私少しだけ健吾さんに似てきたのかしら? そこで健吾さんが登場。

「ちょっと、俺の潤は何を悶えてるんだ?」

 うわ、登場とともにさりげなく潤君を抱きしめてる。潤君も自然に受け入れてるから、これで外でイチャラブしてないのが不思議なくらい。潤君は恥ずかしがる割には、私の前でイチャイチャしてる自覚ないのがまた可愛いな。

「うん。健吾さんがいかに潤君を愛してるか、プロ妻の目から見た感想を教えてあげていたのよ。はぁ、私って二人の邪魔にならずにちゃんと壁になれてるんだって思ったら、安心しちゃった」
「ん? 壁? プロ妻ってなに?」
「私がいても、二人はいつもラブラブちゅっちゅしてるもの。遠慮しないでこれからも見せつけてくれて大丈夫だからね。そんな二人の仲を私は家族としてほっこりしてるの。健介さんにも見せてあげたかった分、私が見届けるからね! プロ妻は、本当のご夫夫ふうふをよりよい方向へ導くという使命があるの」
「さすが、プロ妻! よっ!」

 健吾さんが楽しそうに拍手している。

 こんな感じで、三人で笑っていた。彼らが私の前で自然に過ごしてくれればいいと思った。あの人の残した最愛の息子たち。私は彼らをこの先もずっと見守っていく。雄介が小学生になったら出ていくけど、それまでに家族として過ごして、その後は親戚のような関係になれればいいかな。そしていつか二人が本当の夫夫ふうふとして世間に公表できる――そんな未来を夢見て。

 今日も賑やかな五井園家だった。



 ――おまけの番外編 終わり――


おまけの梨香子視点でした!
実は、ずっと昔に男女の恋愛ストーリーを書こうかと思って生まれたのが梨香子でした。梨香子が愛する人の最後の願いで「契約結婚」をするということを話の流れでつくりました。彼女の人生の一部分が、この物語と少しだけ重複してます。
潤は、恋人「健介」の息子カップルという立場で登場。しかし、その後私はBL作家となり潤と健吾の話のほうが断然書きたいという意欲が生まれ、今回彼らの話を文字にしてみました。
いつか梨香子が主人公のお話を書きたいと思っていますが、それはいつになることやら…です。
最後の最後までお読みくださり、ありがとうございました。

☆riiko☆

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