ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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215、最終章 5

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 目の前にはビシッとスーツを決めた男がいた。

「どうして……ここに? 登山……じゃないですよね」

 とってもこの場に合っていない。周りの人もチラチラ見ている。うん、俺も二度見しちゃったし。靴もピカピカの真っ黒なやつで、もちろん登山靴じゃない。

「良太様は、登山ですか?」
「……藤堂さん」

 その男は、俺の専属ボディガードだった藤堂さんだ。

「どちらにしても、妊夫にんぷにはお勧めできないですよ」

 えっ、なんなの!? なんで……それは亜希子さんしか知らないことのはず。でもあの人が見ず知らずの藤堂さんに言うはずもない。ということは、まだ監視続いていたのか? でもなぜ。

「なんでそんなこと、知っているんです。それになんでここに……いるの?」
「忘れました? 私はあなたのボディガードです、あなたが外出する限りどこまででもついて行く、それに良太様公認のストーカーでしたよね? 今更その説明ですか」
「そ……れは、お爺様の保護にあったからで、もう俺は上條の所有物だから、藤堂さんも関係ないじゃないですか」

 その間も登山客達は何事か!? というような視線で俺と藤堂さんを見ている。というか、藤堂さんがスーツなのがいけない。スーツをビシッと決めたエリートサラリーマン風な男がここにいて、俺に話しかけるから俺まで見られる。

 俺は目立っちゃいけないのに、こんなんじゃ、目撃情報も出ちゃうし、こっそり死ねないじゃん!

「良太様、ここは大変悪目立ちしてしまいます。場所を移してお話ししませんか?」
「……いや、悪目立ちしているのは藤堂さんであって、俺じゃないよね?」
「さあ、お早く」
「……」

 この男からは、どんなことをしても逃げられないのは知っているから無駄な抵抗はしなかった。しかしなぜ? 俺の頭は疑問でいっぱいだった。乗りなれた藤堂さんの運転する車に乗せられて、山からはどんどん離れ、町の喫茶店に連れて行かれた。

 綺麗に終わらせられないのが、俺の人生だよね。スーツ男と登山する気まんまんの俺、この状況は少し笑えてきた。桜のマンションを出てから面白すぎるほど面白いハプニング満載だ。もういいよ、最後まで満足いくように付き合うよ。

 まさかのラスボスが、藤堂さんとか。

 でも藤堂さんとの縁は絢香と同じくらい長い。引き取られる前から一生懸命俺を探してくれて、俺の児童養護施設脱走事件のすぐ後に見つけてそれからずっと、陰ながら見守ってくれているんだから。ここ最近になってやっと打ち解けてきて、二人でファンシーなカフェとか行く、俺公認のストーカーという楽しい仲にはなっていたけど。

 ってか、この人こそ! 最後にふさわしい人物じゃん!

「で? どしたんですか? 俺の監視ってまだ続いているの? それにしても藤堂さんが自分から話しかけてくるなんて珍しいですよね」

 俺は妙に頭がさえて冷静になり、出されたあったかいココアをゆっくり飲んだ。なぜか藤堂さんが勝手にココアを注文した。なんなの? 文句も言わずに美味しく飲んでいるけどね。藤堂さんはコーヒーだった。うん、安定のブレない設定。

「総帥は、上條に良太様を取られた後もずっと監視の目を光らせていました。しかしあのマンションはかなり警備が厳しくて、せいぜい張るくらいしかできませんでしたが。それが三日前、良太様がお一人で外に出てこられたので後をつけさせてもらいました」
「えっ! だって俺、マンションに半年以上は囲われていたよね? しんどくなかったですか?」
「それが、私の仕事ですから」
「その仕事いつまで続くの?」
「良太様が生きておられる限り……でしょうね」
「まじで? 藤堂さんレベルの人がなんでそんな仕事するの? 俺みたいなガキのお守りなんてこき使われて散々だったでしょ。再就職見つけた方がいいですよ、どっちみち今日でその仕事は終わりだよ、わかっているんでしょ?」

 そう、この人はわかっている。俺が最後に何をするのかを、そしてこの不自然な格好も。

「あなたは俺の楽しい仕事を奪うんですか? 給料も良いし、まだまだ続けるつもりですのに、困りましたね」

 白々しいな、全然困ってないよね?

「はぁ……。もういいから、早く再就職見つけてください」
「樹海ですか? 浅はかですね」
「浅はかだったかな? 俺なりに見つからない方法を考えたつもりだったのに、藤堂さんなら何が最善だと思う? 飛び降りとかは体が見つかっちゃうと思うし…」

 藤堂さんの顔いつも無表情だったのに、変化が見られた。

「はぁっ、何言ってんだ。お前まだ十代だろう? なんで死ぬ必要があるんだ……こほっ、失礼しました。どうして死ぬ必要があるんですか?」

 俺はびっくりした。ロボットのような受け答えしかしなかった藤堂さんのお口がすごく、すごく悪いよ? 怖いよ!?

「いやいやいやいや――。言い直しても、もう遅いよ、藤堂さんそういうキャラだったの?」
「いえ、失礼しました」
「いいじゃないですか、そのくだけた感じで話して下さい。俺、オメガだし、十代なのに、藤堂さんにいつもかしこまられて困っていたんです。俺なんかただのガキですから。それにもう仕事相手になりませんよ。俺が死ぬのは遅かれ早かれ決まっているから」

 また変な顔された。

「ふぅ、じゃあ俺はもう主従関係としてじゃなく、ただの大人としてお前と接するわっ! それでいいか?」

 いきなりの豹変! 躊躇ないところがこの人の大物感溢れるところだな。でもその方が似合っているし、俺も落ち着く。

「はい、それでお願いします。黒いスーツの大人に敬語使われるとか、ビジュアル的にも嫌だったんで、俺は決して悲観している訳ではなくて、円満につがい解除されたんです。だから、ほっといても死ぬから、狂う前に自ら終わりを決めることにしました」
「あん、つがい解除だ!? なに寝言を言ってんだ。あのクソガキがそんなことするはずないだろ!」

 今度はヤクザか!? 怒鳴られちゃったよ。

「……それにしても、そのキャラよく抑えていましたね。完璧に別人ですよ。ヤのつく職業だったんですか?」
「気にするな。そんで、なんでそうなってんだ? お前からは上條の匂いがプンプンするし、噛み跡だってあるだろ。それにあの男がお前を手放すなんて信じられない」

 いや、俺としては藤堂さんの方が信じられないよ? なんだ、そのキャラは。

「最近解除されたばかりだからかな? 噛み跡っていつ消えるんですかね? 彼には新しいつがいができたから、俺を解放してくれたんですよ」
「さらっと言うなよ。それ殺人な! 俺はどうも信じられないが、そのオメガの噛み跡見たのか?」
「そんなデリケートな場所、アルファが見せる訳ないじゃないですか! でも本当ですよ。その人の発情で桜はラットになっていたし、それに乗せられて俺は、ヒート起こしかけたくらいだから。その前から彼は俺に愛想尽きていたし、やっと自分だけを愛してくれる人に巡り会えたんですよ、素敵じゃないですか」
「その現場、カオスだな」

 そうだよ、いちいち思い出させないで欲しい。桜は彼を愛していた。

「だからっ、もうその話はいいんです」
「はっ! 桜、ねぇ? 半年も二人きりで、名前まで呼ぶようになって、さらに監禁されっぱなしだったんだから、それなりに情も育っていたんじゃないか? それにそれが本当なら、解放された時、なんで岩峰の所に行かずに遺書なんか書いた?」
「遺書って、手紙のことですか? あれは勇吾さんへ対する感謝の手紙と死ぬ前くらい本音を言おうと思って……って、なんで藤堂さんが知っているんですか! 俺のプライベートほんとにねぇな。それになんで妊娠のことまで知っているんですか?」
「俺がお前のストーカー何年やらされていると思ってんだよ、お前の情報なんてなぁ、ちょっとしたヒントでわかるんだよ。あの女性が買っていた妊娠検査薬は、食堂でお前が吐いた後の行動からお前の妊娠を疑ったんだろ? 最終的に捨てられた検査薬の妊娠通知。俺はゴミまで華麗に漁るような悲しいスキルを手にしてしまったんだ。気持ち悪いだろ?」

 藤堂さんはガハハって笑った。ああ、キャラが崩壊しすぎているんですけど……。

「なるほど、そういうことか。確かに探偵顔負けの凄いスキルですね、藤堂さんには隠し事できないわけだ」
「あとな、あの女性が総帥に連絡してきたんだ」
「あの女性って、まさか、亜希子さん!?」
「そうだ。あのホテルで支配人が、実家の新薬を試しているのかって聞いたらしいな。それで桐生の孫じゃないかと思ったらしい。桐生の孫は上條の息子と結婚したというのは、結構なニュースになったからな。お前がもしかしたら命を絶とうとしているんじゃないかって、実家に行くと言っていたけれどご両親にはちゃんと会えましたかって、心配して桐生の会社に電話してきたんだ」

 亜希子さん……。

 亜希子さんには全てばれていたんだ。そっか、俺は、とてもいい人に出会ったんだ。こんな俺の心配をしてくれる人に、ちょっと涙がでてきた。そんな心が温まる俺に、しれっと藤堂さんは言った。

「お前、両親に会いに行くって言ったな。それを聞いて総帥が倒れた」
「えっ」

 あの強いアルファが!?

「ああ見えて、今回のお前のことは相当参っている。いくら強いアルファだって、身内のことに関してはダメなんだ。妻も娘も亡くして、今度は孫までもが自分より先に死を選ぶなんて最悪だろう。だから俺がお前を止めにきた」
「お爺様は、大丈夫なんですか!?」
「ああ、今はもう大丈夫だ。絢香さんもついている。でもお前が死体になって帰ったら、今度こそダメかもな。お前の境遇には同情するが、お前はもう少し人の気持ち考える努力をするべきだ、お前が選ぶ道はお前の心を守るのに最善かもしれないが、だいぶ身勝手だってこと今まで誰も教えてくれなかったのか? その捻くれた考え方で勝手に相手のことを決めつける、そしてお前が出した答えはいつも最悪だった。お前は傷つけられてきたかもしれないが、周りだってお前の自己満足に傷つけられてきたんだ、いい加減わかれよ」 

 藤堂さんは俺を死なすつもりはないらしいし、こんな風に説教してくれるとは、思いもしなかった。まるで父親みたいで、怒られているのに嬉しかった。こんな風に俺を叱ってくれる人なんて、初めてかもしれない。

「で? 今からでも岩峰の所に連れてってやろうか? 一度は寝た相手だし、抱いてもらえばいいじゃねぇか、そもそもお前を抱くためにあいつはあの薬を作ったんだろ? つがい解除されたら薬使うって当初の目的どおりじゃねぇか、お前も処女じゃないんだから、今更もったいぶるな。それともなんか? あいつの性癖やばかったとか? だったら俺がいい相手を見つけてやってもいいぞ」
「……藤堂さん、お口悪すぎますよ。下品だし。いつもの気品にあふれたあの態度はなんだったんですか…」

 下品な藤堂さんのせいで涙は止まった。

「うるせぇな、お前こそオメガの経験生かして、その綺麗な顔を使って賢く生きろ」
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