ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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最終章 それぞれの選択

216、最終章 6

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「俺のこと、ずっと見ていたならもうわかるでしょ? そんな意地悪な言葉で焚きつけても俺、乗りませんよ?」
「わかんね――よ。お前のその厨二病を拗らせたひねくれた考えなんて、俺には理解不能だ。そんなにお前を見殺しにするあの男がいいか? もう捨てられているのにそいつに操を立てるとか、昭和か? 演歌か? お前は相当なえむっ子だな」

 この男はユーモラスのある言葉も言えるのか。

 「ふふ、わかっているじゃないですか。そうですよ、俺はもうずっと前から桜が好きでたまらなかった。多分出会った時から魅かれていた。一度は計画のために勇吾さんと結ばれたけど、やっぱり心の奥にはずっと桜がいた。無理やりだったけど、お爺様から引き離されてまで俺を想ってくれている重い愛情にさえ、俺は歓喜したんです。だけど素直になれない性分で、うまく立ち回れなく結局捨てられちゃったけどね」
「で? お前は操をたてて、死を選ぶのか?」

 やっぱり俺の決断は不思議なのかな。

「そういうわけじゃなくて……。ただ、最後の男は桜が良かったから。勇吾さんは好きだけど、でも違う。抱いて欲しいのは桜だけ。たとえ死ぬとわかっていても、もう生きるためだけに桜以外の人に抱かれたくない。最後くらいオメガとして愛した男を思い出に幸せな気持ちのまま終わらせたいんです。ねぇ藤堂さん、理解してとは言わないけど、俺の初めて選択した決断をどうか奪わないで、このまま見逃してくれないかな」
「そんなの胸糞悪いだろ。俺が最後に会った人間なんて、それに腹の子は? 愛おしくないのか……産みたくないのか?」

 お腹の子のことは、考えなかったわけじゃないけど、父親のいない、不幸になる子を産み出すことはできない。それが今の俺にできる精一杯のこと。

「そりゃ、好きな男の子供ですからたまらなく自分の腹が愛おしいです。だけど、だからこそ、こんな枷を残しちゃいけない。桜はもう新しい人と新たな人生を築いているんだから、今更自分の遺伝子が元つがいの腹にいるとか気持ち悪いでしょ? それに俺の遺伝子はこの世には出すつもりはないです、いい事なんてひとつもない。可哀想だから親としての責任として一緒に連れて逝きます」
「お前、頭かたいな。人生シンプル、って昨日教わったばかりじゃなかった? 俺、お前は重度のコミュ障だと思っていたけど、いっぱしに同年代のやつらと仲良くなって遊んでいるとか良太も可愛らしい一面もあったんだなって、親父心にほんわかしたぞ。しかもその次の日には見ず知らずの母子の家に泊まるとか、そんな普通じゃない普通、今までできなかったこと知っていたから、ついつい、親心で泣きそうになった」

 泣き真似している。

「……ねえ、藤堂さん? なんか感動的な話に持っていってくれているけどさ、俺をディスるのやめてよ、それにそのスパイスキルやばすぎでしょ。ストーカー通り越して隠密だよ、もしかして天井裏に隠れていたとか? なんでこんなに筒抜けなの?」
「お前に張り付いていたら、ほんと無駄にスキル高くなっちまったよ、労災ものだわ、なぁ生きていたらああやって流浪の民とか恥ずかしいこと言える友達もできるぞ? まだ十代だし、生きることを重く考えるな」
「もう、恥ずかしいからさ! やめてよ、俺のセリフをいちいち拾ってこないでよ、そしてそのスキルは次の仕事に生かしてください。そう言うわけだから、愛した男はもう自分を愛してくれない。誰かに抱かれなければ死ぬ、でも桜しか俺は受け入れたくない、だから愛する男の子供と一緒にこの世を去る。ね、シンプルでしょ」
「ああ、お前にしては上手くまとまっているな」

 感心してくれているが、なぜか馬鹿にされている気もする。

「あとね、本音を言えばこれから狂うであろうオメガの俺を見せたくない。きっと俺はつがいを求めて狂って、桜に逢いに行ってしまう。母さんの最後がそんな感じだったから。だから、そんな姿を愛する人に見せてこれ以上幻滅されたくないの。最後はお互いに理解しあって綺麗に終わった。俺の一番良い状態を目に焼き付けて欲しかったから、だから俺、それもできて満足だよ?」
「だったら! 好きなら、なおさらそんな姿もさらけ出せばいいじゃねぇか! お前のそんな姿に考え変えて一生囲ってくれるかもしれないし」

「ダメですよ。桜はやっと偽りなく愛する人を見つけられたんだから、優しいから側には置いてくれるかもしれないけど、桜とあのつがいの邪魔はできないし、俺は自分が生きるより桜の幸せの方が大事だから、だからこの決断は間違ってない」
「でも離れた期間があるとはいえ、流石に三年間も共にした元つがいが自殺って、お前はもしかして自分の死であいつに復讐でもするつもりか!? その事実はあいつを苦しめるだけだろ」

 そんなのわかっている、たとえ愛している人はもう別な人でも桜は優しいから。復讐なんて望んでいない、俺はただ桜の前にはもう二度と姿を見せないためには、こうするしかないんだ。

「だからここを選んだんです。わざわざ樹海を捜索なんてしないでしょ? 藤堂さんさえ来なければ今頃、俺は幸せな眠りについていたのに。もう俺の体は探さないでくださいね、見つからなければ俺の不注意で自然死したって思われるくらいで、問題ないはずです」
「そんなこと、俺が許すと思うか?」

 俺は藤堂さんの不器用な優しさに微笑んだ。

「ふふっ、桜はね、俺が最初に愛した人、そして最後の人、なんか素敵でしょ? 学園のオメガが運命のつがいに夢物語を語っていたけど、桜を愛した時から俺は夢の世界にいたのかも、そして、今日また俺は最高の夢をみる。今の俺の幸せ認めてください」
「……くそっ!」

 藤堂さん、悔しそうな顔して俺を見つめる、そして捨てられた犬のようにも見えた。

「もぅ、面倒くさいなぁ。そんな熱い男じゃなかったでしょ、どうしちゃったの? 最後にそんな熱血もってこられても俺どう反応していいかわからないよ、妊娠してからつわりはひどいし、頭はぼぅっとするし、常に眠いし。今日はその中でも割とクリアでスッキリとしている最高の日だったのに。またいつ最高のポジションで山に入れるかわからないんだから……って言っているそばからもう限界…ちょっと、だけ仮眠とるから ……俺の目が覚めた時には目の前から居なくなっていてね……とうど……さん、ほん、とに、ありが……」

 ダメだ、大事な話をしているのに眠気が収まらない。

「ちっ、まだ話し終わってねぇぞ、親父の説教は長いってのは昔からの決まりだ。ってもう聞いてねぇな、ったく」

 なんだかんだ言っても、藤堂さんは一番近くで俺を見続けてきて俺の気持ちに一番に気付いてきた人だ。だから俺の思いを添い遂げてくれるはず。藤堂さんのことは昔から信頼していたし、俺を理解してくれていたと思う。きっと目が覚めたら俺は自分の野望を達成できるだろう。
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