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最終章 それぞれの選択
220、最終章 10(桜 side)
しおりを挟む「藤堂さん、良太はなぜ昏睡状態なんですか。この後、自殺をあなたは阻止しなかったのですか?」
録音を聴き終えて、改めて藤堂に聞いてみた。
「さあ、どうでしょうね。私はあなたに雇われている訳ではないので、これ以上はお答えしかねます。本来この報告書はあなたごときが見られるものではないし、レコーダーだって私の好意なんですよ。あまりに良太様がお可哀想で、せめて誤解を解いてから死なせてあげたくて、ほんの親心です……わかったか、クソガキ」
この人は大事な良太を陥れた俺を憎んでいる。
「……そうですね、藤堂さんが大事にしてきた良太が、こんな出来損ないのアルファなんかに執着されて、さぞあなたはご立腹でしょう。でも知らせてくれて感謝しています、信じてもらえないかもしれませんが、俺は今でも良太を愛している、良太に出会ったその日からずっと良太に心奪われています。もし良太が今夜、命を落としたら、俺もその瞬間、死にます」
「そうですか、そんな自分よがりなことをしても、良太様は悲しむだけでしょうがね。あなたは本当に頭が悪い。無理やりにでも番にされてしまった三年前の段階で保護していれば良かったと悔やまれます。アルファの俺でも、お前の番解除は意味が全くわからない。お前ごときが命差し出しても、なんの意味ない」
そうだろう。誰だって信じないはず、俺の執着を見ていたら解除なんて。そこで俺は真実を告げた。
「本当は、番解除はしてない。良太にそう思わせただけで、まさか本当に命を落とすほど弱るなんて思わなくて。はじめは岩峰に返すつもりで作り上げた嘘だった……」
藤堂が一瞬、固まったように見えた。
「ガキの考えることだ、そんなんだとは思ったが、お前はオメガを甘く見過ぎたな。あんな純粋に愛を与えてくれる存在を自らの手で無くすとは、浅はかだ。さぁ着いたぞ」
藤堂はメールを打ってから、俺に言った。
「部屋は最上階の特別室だ。岩峰には伝えたから行けば会わせてもらえるだろう。一応、俺の面談は合格だ。可愛い良太のためだ、お前が死のうが喚こうがどうでもいいが、良太の最後だけはお前が見守る義務がある。目一杯謝罪して苦しめ、良太は今、苦しんでいる。できれば早く解放してやってくれ」
藤堂の言葉を聞き終えて、俺は走って良太の病室へと向かった。
そして良太の病室の前には私服の護衛が数名待機していた。俺を確認すると、部屋をノックし俺がきたことを中の人間に伝える、すると岩峰が出てきた。
「……」
俺を見た岩峰の目は、これから人でも殺してしまうんじゃいかと思うくらい凶悪だった。無言の圧で圧迫されそうになった。俺が、俺のやったことがそうさせている。だが、そんなことを気にしている場合ではない。
「良太は!」
「上條君、君はとんでもないことをしでかしてくれたね。君を良太君に会わせたくないのが本音だけど、良太君の君を想う心がどうしても不憫で、最後くらい君はその目で自分が犯した罪を見るべきだと思う、さぁ入りなさい」
そして病室に入ると、そこにはがっちりと固定されて寝たきりになっている良太がいた。
ここからはよく見えないが、繋がれた機械からは心拍の正常をしめしているので、体は動いている。ほっとするも痛々しい姿にすぐに涙で前が滲んだ。
「……良太!」
すぐさま駆け寄って、顔を見た。涙の跡がある、顔色はそんなに悪いようには見えない、しかしその目は開かれることはなかった。
「どういう状態ですか? 良太は自殺……を図ったのですか?」
「ああ、あのレコーダー聞いたんだったね。一応自殺前に藤堂さんに保護されたんだけど、話をしている内に良太君の意識は無くなってそのまま意識不明だ。体は正常に動いているけど、番解除の後遺症だね、心がもう持たなかった」
「そんな。良太はもう目覚めないんですか? 俺にできることは!」
岩峰は俺を見て、苦い顔をした。
「……君は、もう番じゃない」
俺は、はっとした。そしたら岩峰は冷たい目をして話を続けた。
「普通、番解除されてもこんなに短期間でここまで弱ることはない。でも良太君はこうなった、どうしてか、わかるかい?」
「俺が良太の目の前で、他のオメガを可愛がった。それに監禁している間も、俺に従わなければ、あんたたちの命の保証はないとさんざん脅した……」
俺たちの内情を知らない岩峰は、俺が良太にそんな扱いをしていたことに驚きを隠さなかった。
「そんな事までしていたのか! 良太君は、あんなに純粋に君を愛していたのに」
「俺には! 俺に抱かれながらも、あんたを愛しているように見えていたんだ」
ふ――っと息を吐いて、憐むように言われた。
「君はとんでもない馬鹿だね、まあいい、もうわかっただろう? 君にできることはもうない。不快だから帰ってくれ。良太君も死を自ら選んだんだ。僕は良太君の辛い人生を見てきたし、出会う前はもっと最悪だった、だから時間をかけて愛情を与えた。なのに君が全てを奪っていったんだ。最後くらい安らかに眠らせてあげて欲しい」
本当に良太はもう助からないのか。
でも……。
「番なら解除していない、なのになぜ死ぬんだ」
「え? なんだって、だって君は良太君の前でオメガを抱いて発情期に噛んだって」
「そう見えるように仕向けただけだ……。俺は、あっさり良太を手放したくなかった。だから最も記憶に残る方法で俺を恨んでもらって、一生俺を忘れない状態にしたかった。そうしてあんたに引き渡す、あんたに愛されながらも俺を恨めばいいと思ったんだ。良太は俺といると幸せになれないなら、解放するしかないと思ったんだ、俺が愛しているのは今もこれからも良太だけだ」
「……そう、君たちはそんなところまで似ているんだね。本当に浅はかで、拙い」
「お願いだ! 良太を助けて欲しい」
岩峰は何か考えているようだった。
「じゃあ、君には特別に良太君からの僕への手紙を見せてあげる。それを読んで、もう一度答えを聞かせて……」
一枚の封筒を渡してきた。その時、良太の苦しそうな声が聞こえた。
「うぅ……」
「良太! 良太! 俺だ、お願いだ、目を覚まして、俺を見て!」
部屋がざわつき始めた。
看護師が入ってくると、岩峰が処置を始めた。そして興奮して良太から離れようとしなかった俺は邪魔だと言われ、いつのまにかきていた藤堂に抑えられた。冷たい目で俺を制した岩峰が、良太の耳元で何やら話しかけていた。
「良太は! 意識が戻ったのか!?」
抑えられながらも俺は岩峰に問いかけた。
「いや、まだだよ。君ができることは何もない。少し処置をするからその手紙を今すぐ読みなさい」
「そんなもの読んでる場合じゃない! 良太に触らせてくれ」
「うるさいな、良太君もおちおち寝てられないね。とにかく君は良太君の本音をもう少し真面目に理解したほうがいい。それを知ったら、君はこのまま良太君が夢の世界の住人になることを望むかもしれないよ? 良太君を本当に君から解放する方法は、もうわかるだろう? 君の望みと良太君が望む幸せは違う、とにかくそれを見なさい、今はまだ良太君は大丈夫だから」
藤堂に無理やり椅子に座らされて、それを封筒の中からとって、俺に手渡してきた。
「彼が望む幸せにどうか導いてやってくれ……」
藤堂に言われ、俺はその手紙を持つ手が震えた。
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