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最終章 それぞれの選択
221、最終章 11(桜 side)
しおりを挟む『勇吾さん、あなたに初めて書く手紙だから緊張するけど、どうかこの手紙を読んで欲しい。
そして俺は酷い人間だったと理解して、この手紙を読み終わったら忘れてください。
まずは、今まで本当にありがとう。俺は勇吾さんに出会えて心から良かったって思っている。勇吾さんはとんでもない厄介者を背負わされてしまったと思うけど、俺はあなたがとても好きで幸せでした。
勇吾さんとの新婚生活みたいなものは少しの間だったけど、あんなに穏やかで落ち着いた気持ちは初めてでした。この人と一生こんなにふわふわと守られて過ごせるんだって安心感もあった。
だけど俺は愛される度に、どうしても桜を想ってしまう。そんな自分が凄く嫌だった。あなたを好きだと言いながら、実際には番が忘れられなかった。
勇吾さんは心が広いからそんな俺の気持ちを知りながら俺を受け入れてくれていたね、今考えたら相当酷いオメガだ。
結局は番の執着が勝ってしまって、あなたの前から連れ去られたけど。
だけど俺は、それを歓喜するオメガの部分に気がついた。ああまでして求めてくれる桜を、俺はやっぱり愛しているんだなって実感したんだ。でも桜を愛しているというのは、俺のために何年も動いてくれていたあなた達を裏切ることにもなるって思って、やっぱり桜の家にいる間も罪悪感は消えなかった。
それでも愛する人に抱かれる度に、俺は幸せを感じていたんだ。桜ばかりが俺のこと好きで仕方ないみたいにみんなは思っていたかもしれないけれど、俺の方が桜に執着していた。
番に愛される喜びばかり与えてもらっていて、桜は番に愛される喜びを知らずにいたかな? 可哀想なことをしていたなって反省している。
実はね、桜には出会った時から惹かれていたんだ。自信があってカッコよくて、本当に大好きだった。きっと勇吾さんは気づいていたかもしれないけれど、桜が元婚約者とキスをしていた時。あれから俺はおかしな行動をして、初めて勇吾さんに本気で怒られたよね。それからは、計画もあったから桜を愛したことは必死で隠した。あの時、俺が桜を信頼して全てを話していたら、違った未来がきていたのかな?
それとも、桜を好きという気持ちを隠さずに、勇吾さんに打ち明けていたら、俺たちの関係は何か変わっていたかな? 今あるこの結果は、何も行動してこなかった罰だと思っている。みんなに任せて、ただ流されて、無責任な俺のせいで最終的には岬にまで怖い思いをさせてしまった。
本当にごめんなさい。
番を好きになる程に俺は辛くなった、勇吾さん達や、桜を騙している罪悪感。お互いにいい顔をする卑劣なオメガ。そんな意識がずっとあったんだ。だから絢香のために計画を実行することだけが俺の生きる糧だった。クズなオメガは絢香を生かす手段。そう思い込んで生きていたけど、本当はいつでもやめたかった。
勇吾さんに俺の本心を伝えるのはとても残酷だと思うけれど、でも俺の人生を理解できなくても、あなただけにはこんな愚かなオメガがいたと知っていて欲しかったんだ。俺がどうしてこの決断をしたのかを。
ごめんね、話が脱線したね。文章って難しいな。
桜に囲われてから俺は、二人きりの生活が嬉しくてひそかに幸せを感じていた。でも桜の顔がどんどん暗くなっていくのもわかった。俺は攫われてどうしようもないから一緒にいるとでも思っていたみたい、関係の修復は難しくて、俺が愛しているって言っても、もう信じてもらえなかった。
俺は番を悲しませる最悪のオメガだったから、桜が新しい番を見つけた時は少しホッとしたんだ。俺の愛は伝わらなかったけど、桜を愛してくれて桜も愛を素直に返せる、そんな素敵な人が現れた。
本当はとても……辛くて堪らなかった。
けど、俺がずっと願っていた想いを聞き届けてくれた、最愛の番の優しさに感謝もしたんだよ。
俺はずっと死にたがっていた。
番契約した時がそのピークで、勇吾さんも困らせちゃったよね。あの頃から俺の願いは変わらない。この世は俺には辛すぎる。たとえ、あなたに包まれて優しさにあふれた世界で生きていけても、所詮、桜を想って悲しむ毎日になるのがわかっているんだ。
もし番解除されてなくて二人の関係が改善して番として生きていけることになっても、俺には他の人たちへの裏切りの心が大きすぎて生きていくのが辛いと思う。
死ぬこと自体はあなたと出会う前から、何度も決意していたことなんだ。一時は色々あってそんなこと忘れていたけど、でも勇吾さんとの生活も桜との番も本当は関係なくて、俺の初めからの願いは、絢香の幸せと、俺の死だったんだ。
だからもし、この先、いつか、俺の最後を知っても悲しまないで。俺、幸せだったよ。
俺の最期の幸せはこれしかないんだ。
桜は、俺が勇吾さんを愛しているって誤解したままだけど、でも新しい番もできたから誤解したままでいい。俺は最悪なオメガだったって、誰かと笑えるくらいになってくれるのがいいと思う。
勇吾さんだって、もうこんな俺は嫌だと思っているだろうけど、もし、もしもまだ俺のことを気にしてくれていたら、もう忘れて欲しい。ごめんね、本当にごめんなさい。
俺は幸せになったと思って、忘れてください。自由を手に入れて、これからは一人旅を楽しんでどこかで生きていく、できれば絢香にそう伝えて。俺はやっと自由になったんだって、悲しむと嫌だから本当のことは言わないであげてね。
俺の口座にあった金は、全て勇吾さんに送金しました。俺にかかった費用には到底及ばないとは思うけど、俺の二年間働いて貯めていた金、あまり手はつけてないから岬に使ってあげて下さい。
こんな結論を、怒っているよね?
でも俺が幸せを感じているんだから、勇吾さんなら許してくれるかなって信じている。最後まで甘えてごめんね。
俺の世界は辛かったけど、でも絢香に拾われてから、そこから出会った人たちには感謝しかありません。本当にありがとう。
大好きな勇吾さんや岬、みんなの幸せを願っているね 』
◆◆◆
俺は涙を隠さないまま良太の手紙を読んだ。
あいつが死にたがっていたのは知っていたけど、ある時から吹っ切れて俺を受け入れてくれて、そんな想いはもう無くなっていたとばかり思った。良太はずっと、絢香さんの幸せのためだけに生きていたんだ。
思えば、俺の番になったのも、岩峰に嫁ぐことにしたのも良太の意思は一つもなかった。ただ周りが言うことに従っていただけだった。良太が自ら望んで行動を起こしたことといえば、死ぬことだけだ。
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