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最終章 それぞれの選択
219、最終章 9(桜 side)
しおりを挟む『最近解除されたばかりだからかな? 噛み跡っていつ消えるんですかね? 彼には新しい恋人ができたんです。その人の発情期に番になっていました、だから俺を解放してくれたんですよ』
――良太の声だ!――
『さらっと言うなよ。それ殺人な! 俺はどうも信じられないが、そのオメガの噛み跡見たのか? 』
これは、今運転している男、藤堂の声。二人の会話の記録か。
『そんなデリケートな場所、アルファが見せるわけないじゃないですか! でも本当ですよ。その人の発情で桜はラットになっていたし、それに乗せられて俺は、ヒート起こしかけたくらいだから。その前から彼は俺に愛想尽きていたし、やっと自分だけを愛してくれる人に巡り会えたんですよ、素敵じゃないですか』
『その現場、カオスだな』
たしかに、俺もあんなやり方どうかしていた。あのラットは良太を思って起こした、良太はそれをあの男に当てられたと思ったみたいだった。
『だからっ、もうその話はいいんです』
『はっ! 桜、ねぇ? 半年も二人きりで、名前まで呼ぶようになって、さらに監禁されっぱなしだったんだから、それなりに情も育っていたんじゃないか? それにそれが本当なら、解放された時、なんで岩峰の所に行かずに遺書なんか書いた?』
遺書?
『遺書って、手紙のことですか? あれは勇吾さんへ対する感謝の手紙と死ぬ前くらい本音を言おうと思って……って、なんで藤堂さんが知っているんですか! 俺のプライベートほんとにねぇな。それになんで妊娠のことまで知っているんですか?』
岩峰への手紙? 家を出てから出したのか。死ぬって、さらりと言っていたけど、俺のもとを出た時、もう決めていたのか? それに、妊娠。良太は確かにそう言った。
心当たりは、ある。俺の元に戻ってからの発情期には、初めてピルを飲ませなかった。俺の子供を孕めばいいと思って、何度も何度も良太の中に出した。それに、今思えば最後の発情期はきてなかった。良太の体調どころで忘れていたが。
『俺がお前のストーカー何年やらされていると思ってんだよ、お前の情報なんてなぁ、ちょっとしたヒントでわかるんだよ。あの女性が買っていた妊娠検査薬は、食堂でお前が吐いた後の行動からお前の妊娠を疑ったんだろ? 最終的に捨てられた検査薬の妊娠通知。俺はゴミまで華麗に漁るような悲しいスキルを手にしてしまったんだ。気持ち悪いだろ?』
藤堂はガハハって笑っている。
二人の関係は良好のようだ。時折馬鹿にしたように話す藤堂だが、声だけ聞くとそれは優しく、兄弟や子供に話しかけるようだった。
そこから二人のポンポンと進む会話が流れた。
藤堂は、岩峰のもとへ行かないのかと聞いた、そしてお前を見殺しにするあの男がいいか? もう捨てられているのにそいつに操を立てるのか? と。
『ふふ、わかっているじゃないですか。そうですよ、俺はもうずっと前から桜が好きでたまらなかった。多分出会った時から魅かれていた。一度は計画のために勇吾さんと結ばれたけど、やっぱり心の奥にはずっと桜がいた。無理やりだったけど、お爺様から引き離されてまで俺を想ってくれている重い愛情にさえ、俺は歓喜したんです。だけど素直になれない性分で、うまく立ち回れなく結局捨てられちゃったけどね』
『で? お前は操をたてて、死を選ぶのか?』
良太……俺はこんなに熱烈に愛されていた。胸が熱くてたまらない。
『そういうわけじゃなくて……。ただ、最後の男は桜が良かったから。勇吾さんは好きだけど、でも違う。抱いて欲しいのは桜だけ。たとえ死ぬとわかっていても、もう生きるためだけに桜以外の人に抱かれたくない。最後くらいオメガとして愛した男を思い出に幸せな気持ちのまま終わらせたいんです。ねぇ藤堂さん、理解してとは言わないけど、俺の初めて選択した決断をどうか奪わないで、このまま見逃してくれないかな』
『そんなの胸糞悪いだろ。俺が最後に会った人間なんて、それに腹の子は? 愛おしくないのか……産みたくないのか?』
そうだ! 子供ができたのなら俺たちの関係を考え直してくれても。
『そりゃ、好きな男の子供ですからたまらなく自分の腹が愛おしいです。だけど、だからこそ、こんな枷を残しちゃいけない。桜はもう新しい人と新たな人生を築いているんだから、今更自分の遺伝子が元番の腹にいるとか気持ち悪いでしょ? それに俺の遺伝子はこの世には出すつもりはないです、いい事なんて一つもない。可哀想だから親としての責任として一緒に連れて逝きます』
気持ち悪いわけない! むしろ俺の子供を孕んでくれたなんて、言葉に表せないくらい嬉しいに決まっている。せめて俺にも親としての責任を一緒に背負わせて欲しかった。
それに、愛した男はもう自分を愛してくれない。誰かに抱かれなければ死ぬ、でも俺しか受け入れたくない、だから愛する男の子供と一緒にこの世を去る。良太はそう言い続けた。こんなに健気に俺を想ってくれていたなんて。
俺は岩峰から良太を奪って、それからはあいつの言葉を何一つ信じられなかった。俺に媚びを売るのも、逃げられないからであって、決してもう俺のことは愛してくれてない。そうとしか思えなかった。そのことを見破られていたのだろう、何があっても俺に従い、俺が出ていけと言えば出て行く。良太の本心は、俺に愛されたかったと。
『あとね、本音を言えばこれから狂うであろうオメガの俺を見せたくない。きっと俺は番を求めて狂って、桜に逢いに行ってしまう。母さんの最後がそんな感じだったから。だから、そんな姿を愛する人に見せてこれ以上幻滅されたくないの。最後はお互いに理解しあって綺麗に終わった。俺の一番良い状態を目に焼き付けて欲しかったから、だから俺、それもできて満足だよ?』
『だったら! 好きなら、なおさらそんな姿もさらけ出せばいいじゃねぇか! お前のそんな姿に考え変えて一生囲ってくれるかもしれないし』
『ダメですよ。桜はやっと偽りなく愛する人を見つけられたんだから、優しいから側には置いてくれるかもしれないけど、桜とあの番の邪魔はできないし、俺は自分が生きるより桜の幸せの方が大事だから、だからこの決断は間違ってない』
このやりとりをこの男ではなく、俺と、本音をぶつかり合えていたら、良太はこんな結果を考えなかったかもしれない。全ては遅すぎるけど、でも。
そして俺に迷惑をかけないように、一人樹海で首を吊ろうとした。俺は涙がどんどんでてくる。
『ふふっ、桜はね、俺が最初に愛した人、そして最後の人、なんか素敵でしょ? 学園のオメガが運命の番に夢物語を語っていたけど、桜を愛した時から俺は夢の世界にいたのかも、そして、今日また俺は最高の夢をみる。今の俺の幸せ認めてください』
そして良太は急な眠気から、意識を失ったようで、言葉がきれた。
ここで会話は終わっていた。
これが本当の年相応の良太なのだろう。砕けた打ち解けた関係から、この男は良太のことを相当大事に守ってきたとわかる。
そして衝撃的だった。俺の幸せを願って子供と一緒に命を絶つと。聞きながら涙が出てきた。
――俺は間違いなく、良太に愛されている――
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