ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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番外編

8、子供たちとの夏休み 2

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「あ――祐兄ゆうにい! なんで!? ママ何で言ってくれないの――。僕、海で時間無駄にしたじゃん」
「ごめんごめん、言い忘れてた」

 雫がバタバタと走ってきて祐樹君に抱きついた。

「裕兄!」
「おう、雫大きくなったな!」
「僕ね、小学生になったんだもん」
「そうか凄いな」

 雫は祐樹君が大好きだったから、一年に一度この時を楽しみにしていた。雪弥が出来るまで一人っ子だったし、祐樹君がお兄ちゃんという感覚だったみたいだ。

 絢香の娘の、長女の華も次女の千秋も女の子だし、岬はどちらかというとおしとやかだから、ワンパクな祐樹君とは性格が合っていたようだ。祐樹君も年の離れた弟として慕ってくれていた。

「時間の無駄って言われた……」
「親なんてそんなもんだよ、落ち込むな。お疲れ様」

 帰ってきた桜がぼそっと疲れた声で俺に言ってきた。この騒々しさに、お義母さんと亜希子さんも出てきて迎えてくれた。そして安定のお義父さんはお義母さんにキスをしていた。この夫夫ふうふは何かあるごとにキスをしているので、さすがにもう慣れたかな!

「雫、俺に会えて嬉しいのはわかるけど、せっかく海に連れて行ってくれたお父さんとおじいちゃんに、そのセリフはないぞ」
「う、ごめんなさい」
「じゃあ、何するんだ?」

 さすが祐樹君だ、亜希子さんの息子。出来が違う、他人の子にまで怒ってくれるなんて。俺が言わなきゃいけないことなのに、まだまだ俺も親として足りないな。すると雫が桜のとこに来てもじもじと謝ってきた。

「パパ、じーじぃ、ごめんなさい。海連れて行ってくれてありがとう、楽しかったのに嫌なこと言ってごめんね、祐兄と会えて興奮しちゃったの」
「雫……いや、パパも楽しかったよ」

 桜、泣いてないか? って思ったらお義父さんまで変な顔してるよ。孫の成長に感動しているみたいだった。

「じーじも楽しかったぞ、雫っ!」
「うわっ! じーじ、僕もう小学生なんだからっ!」

 お義父さんに抱きあげられて、照れくさそうだけど嬉しそうな雫だ。そこに亜希子さんが来て、雫の頭を撫でた。

「雫――。大きくなったわね。偉いね、ちゃんとごめんなさいも言えて、もう小学生かぁ」
「うん! 亜希ちゃん、入学のお祝いありがとうございました」

 お義父さんに抱っこされながらも。亜希子さんにも甘えている。俺の息子、可愛過ぎないか!?

「あら、そんな挨拶まで言えるようになったの? こちらこそどういたしまして。雫もお兄ちゃんになったんだものね」
「そう! 雪ちゃん可愛いでしょ。僕の自慢の弟なんだ」

 そうなんだよ、雫は俺にべったりだったのが今度は弟の雪弥にべったりになった。

 オメガは大切にと育てたけど、べったりしすぎで今からブラコンの予感しかしない。ちなみに岬にも生まれた時からべったりだった。どうしよう、将来オメガのケツばかり追いかける情けないアルファに成長したら。

 そう桜に言ったら笑われた。

 上條のアルファは誰彼構わずそうならない大丈夫だって、どういう意味だろう。とりあえず身近のオメガである、由香里さんに俺、絢香に岬、最近生まれた雪弥にはそれはもうベッタベタだった。身内には甘えん坊なのかな?

 まだ子供だし優しい子ってことで片付けられるからいいけど、その割には千秋とはよくケンカしてるんだよな、それはそれで面白いんだけど。同じ年だし従兄弟というような存在みたいなものだし、子供のころからアルファ同士ってそんなもんなのかな? でも祐樹君には甘えん坊だしな、子供たちのカーストも中々に難しいなぁ。

 そんなことを考えていたら、今度は絢香たちがきた。

「「絢香!」」
「あらあら、熱烈な歓迎ね。亜希子さんもお久しぶりです」

 俺と雫が思わず絢香に反応した、やっぱり俺は絢香が大好きだし、それが遺伝したのか雫も絢香が大好きだった。

 雫が今度は絢香に抱きつこうとしたら、すかさず絢香とお爺様の次女である千秋に邪魔されていた。

「雫、ママは私のママだから、ダメ!」
「なんだよ、千秋のくせに。絢香は僕のだ!」
「私のよ!」

 これだよ、これ。いつも絢香を取り合って喧嘩をする、幼い頃から会えば必ずこのくだりが始まる。

「いい加減にしなさい! 二人ともいつもいつもうるさいよ。良、大好きっ」
「俺もだよ、華」

 二人よりちょっとお姉さんの華が絢香そっくりの美貌で俺に抱きついてきた。

「ちょっ、華ちゃんもだめ! ママは僕のだよ」
「雫は相変わらず甘ちゃんでうるさいわねぇ、お姉さまのいうこと聞けないの?」
「う――、千秋、作戦会議だ」
「望むところよ」

 雫と千秋は長女の華には逆らえずに、こうやって二人はいつも負かされていてタッグを組むことも多々ある。結局従兄弟同士仲いいんだよな。従兄弟と言っていいかわからないけど、まあ親戚に間違いない。

「みぃ君達、今日は向こうの実家行ってて、明日合流って言ってたよ」
「そっか、じゃあ花火は明日にしようか」

 岬は花火が小さい頃から好きだったから明日に先延ばしにしようってなった。いまだ子供のままの部分も色濃く残って可愛いんだよな、まだ中学生になったばかりだし、俺にとってはいつまでも可愛い子供だ。

「そういえば藤堂さんは?」
「せっかくだからって、奥様と二人きりで海辺を散歩してくるって! 夕飯には戻るからもう子守りはごめんだって言ってたわ、ふふ。いつ見てもあそこのご夫夫ふうふもラブラブよね」
「確かに!」

 ちなみにお爺様はお留守番、あまり人が多いと疲れちゃうからって。あれからお爺様は穏やかにいつも俺たちを優しく迎えてくれて、俺に似ている雪弥にはメロメロだった。雪弥はまだ赤ん坊だけど、俺の母さんの赤ん坊の頃にもそっくりだってお爺様は喜んでいた。
 
「じゃあ料理始めようか?」
「今年も食材沢山用意したけど、子供たち年々大きくなるからな、頑張って作ろうか」
「ええ、そうね。不思議ね、初めは私と良だけの生活だったのに、いつの間にかお互い大家族になって」

 そうだった、子供時代は絢香と二人の生活だった。それが今ではこんなに人が集まるようになったんだ。絢香と二人だけで過ごしたあの子供時代の夏も大切な思い出だけど、こうやっていろんな家族が交わる夏もまた賑やかであの頃とは違った意味で楽しい。

「俺はあの子供時代があったから、こんな楽しい今があると思ってるよ」
「良……」
「絢香、俺を育ててくれてありがとう。今でもあの頃と少しも変わらない、大好きだよ!」
「良、私もよ。幸せをくれてありがとう」



 番外編「子供たちとの夏休み」 ―fin―
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