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番外編
10、藤堂はじめ苦難の日々 2
しおりを挟む今日も今日とて、俺の家は賑やかだ……なぜ。
「おっちゃーん、牛乳ちょーだーい」
「勝手に飲め」
雫も小学生になり、落ち着くかと思いきや、なんだろう。こいつはここを別荘かなにかだとでも思っているのか? 小学四年生になった今も、週一でお泊まりにきている。まぁそれはいい、嫁も雫を可愛がっているしな。
「とーじょーちゃん、雪ちゃんは抱っこがいいのぉ」
「はいはい、こっちこい」
良太の次男の雪弥は三歳になっても絶賛甘えん坊で、可愛い。
ここは動物園か? 今日も今日とて我が家は賑やかだ。
「じーちゃん、格闘家しよーぜー」
「子供同士でしとけよ」
「やだやだやだーー。じーちゃんとするんだもん!」
「うぉ、一樹危ねぇだろ。雪弥が泣くぞ」
俺の孫のわんぱく一樹は、雪弥を抱いている俺に突進してきた。
「ふわっ、わっ、きゃっきゃっ」
「じいちゃん、雪弥喜んでるぞ?」
「あっ、ほんとだ。雪ちゃん可愛いなぁ――」
一樹と雫は雪弥にめろめろだった。
雪弥がちょっと微笑めば、二人は大人しくなる。今から、将来が恐ろしいオメガだ。大丈夫、俺が良太以上に護衛をするからな!
雪弥はいい子だ。それに引き換え、俺の孫の一樹と隣の家の子供の雫はわんぱくが過ぎる。なぜか俺と妻は、上條家から家を建てたからここに住めと言われて、上條家の隣の一軒家に住んでいる。家は、福利厚生だと言われた。とてもつなく嬉しくない福利厚生は初めてだった。
いつでも呼び出せば行ける距離、ということで。最近は護衛というより子守だ。最近どころじゃない、良太に第一子が産まれてからずっとだった。
一樹は五歳になる俺たちの初孫。双子の一人が高校生の時に作った子供だった。あいつも立派に高校でオメガの番を得て、さらには孕ますとは。最近の子供は恐ろしいぞ。まぁそのおかげで俺はじぃちゃんになった。
「お前ら、遊ぶなら庭に行け。雪弥にほこりが入るだろう」
「「は――い」」
そこに、俺の愛しの妻が登場した。
「あれ、二人ともお庭行くの? じゃあ僕とお外で、トマトを収穫しようね」
「わー―い、ばぁちゃん、トマト食いたい! 雫も食うよな!?」
「一樹、トマトは食うんじゃなくて食べる、でしょ? 小春ちゃん、俺もトマト食べたいな」
「はは、じゃあトマト収穫しながら、冷やしトマトを食べようね」
妻の小春は、ワンパクどもの扱いに慣れているし、雫は小春には従順だ。
これも上條家の教えだろう、オメガには優しく、アルファには本性を見せるな。良太の子供時代に比べたら雫はお行儀が良くてしっかりしているから、俺の前でくらい行儀が悪いのは、まぁ許容範囲だ。孫の一樹とも忖度なく過ごしているのも大事な子供時代に必要なことだしな。
それにしても俺の小春に、雫も一樹も甘え過ぎだ。
「うわっ、どうしたの!?」
俺は雪弥を抱っこしながら、妻を抱きしめ、群がるクソガキどもを蹴散らした。
「おっちゃん、何すんだよ!?」
「じぃちゃん、大人気ないぞ!」
俺は小春の腰を引き寄せて、ガキどもをけん制した。
「お前が誰のものか、このクソガキアルファ共に見せて、番がどんなものか教育をする。お前ら人の番に気安く抱きつくんじゃねぇ!」
「ふふ、まだ相手は子供なのに、はじめさんは可愛いね」
「そうだぞ、俺ら子供だぞ!」
「横暴だ!」
ちっ、子供のくせに難しい言葉を言うな。
「というか、お前ら毎週毎週なんなんだよ、お前らの親はどうした!?」
「だって、おっちゃんも知っているだろう? パパが週に一回はママと二人きりでラブラブしたいって言うからさ、仕方なくここにお泊りだ。番はそういうもんなんだろ? 諦めろよ、おっちゃん。おっちゃんも俺と雪ちゃんとお泊り嬉しいだろ?」
「……まぁ、週一くらいは仕方ないな」
確かに、こいつらは赤ん坊のころから面倒見ているし、会えないのは寂しいな。
「じぃちゃんも、俺のことはもう諦めて受け入れろよな。うちは今大変なんだからさ」
「ま、まぁ、お前は孫だしな、いつでもきてもいいけどさ」
一樹の親は今、社会人一年目でちょうど大変な時期だし、嫁もまだ学生だからな。仕方ない。
「じゃ、おっちゃんには、かわいい雪ちゃんを託すから、俺と一樹は小春ちゃんとお庭で美味しいトマト取ってくるな、おとなしく待ってろよ!」
「待ってろよ!」
雫と一樹が声を合わせて俺に言うと、庭に走って行った。
「ふふ、はじめさんも子供たちには甘くて、僕そんなはじめさん、好きだよ」
「はぁ、なんだか子供に上手く丸めこまれたが、まぁこんな人生も悪くないか……」
「あの子たちが帰ったら、沢山愛し合おうね!」
「忘れるなよ、俺は休暇をもぎ取って、お前を愛でるからな」
妻とキスをしてると、子供たちがわぁわぁと騒がしく庭で走っていた。悪くないかな、こんな生活も。
良太との激動の年月を考えるとふと、穏やかな今がとても心地よくて、たまらなく幸せだって思えて仕方なかった。俺も年を取るわけだ。
願わくば、この子たちが、良太のように辛い経験をしない未来が来るといいなとふと思った。
「おっちゃ――ん! 蚊に食われたぁ――、痒いよぉぉ――」
「じぃちゃ――ん! 虫よけ持ってきて!」
「それは大変だ、すぐ行く。待ってろ!」
「ふふ、我が家は賑やかで楽しいね、はじめさん」
隣で妻が微笑んでいる、今はそれで満足だ。
―― Fin ――
***
この子たちがこれからどんな人生を送るのでしょうか!次世代編は雪弥が主人公のお話を、ちゃんと考えております。その時までお楽しみに♪
お読みいただきありがとうございました!
☆riiko☆
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(544件)
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一気読みして泣きまくりました、、!!!不憫な子が幸せになっていくストーリーのBLが大好きで調べていた時にお見かけしました。長編ということもあり一筋縄では行かないところが余計に感動させてくる、、!🥹最高すぎて語彙力無くなりますが最高です。
ご感想ありがとうございます☆
欲しい言葉を全て詰め込んだような、そんなコメントを読ませていただいて胸がいっぱいです!!!
数ある多くの作品の中から、こんな埋もれた物語を探していただけて…本当に嬉しいです。
感謝いたします(*´ `*)
処女作ということもあり、かなり長い時間構想しては書いてを繰り返した思い入れのある話なので、最高なんてお言葉をいただけて舞い上がってしまいます( ¨̮ )
こんな長いお話を一気にお読み下さり、本当にありがとうございました!
今更ながら、一気読みしました。
涙を拭き過ぎて目の周りがヒリヒリします。
先に寝取ったのは自分的な事を、勇吾さん自分で言ってましたが、その通りだよねと正直モヤモヤしました。
桜と良ちゃんが両想いになってた時に騙し討ちで引き離して、拗れるきっかけを作ったのは勇吾さんや桐生の大人。それなのにアルファで、犯罪まがいのヤバいことしたとはいえ10代の大学生の桜をよってたかって上から目線で攻め立ててるのが、桜が可哀想で辛かった。桜を追い詰めたのは大人達だったと読了後の今でも思っています。
消化不良なモヤモヤを書き込んでしまってすみません。良ちゃんもだけど、桜も幸せになってよかった。
素敵な作品、ありがとうございました。
ご感想ありがとうございます☆
長い物語お読み下さり感謝です!
そして熱いコメントも(๑ ́ᄇ`๑)
とても複雑に絡み合った関係性でしたが、10代の若者が苦悩しながらも精一杯幸せを見つけだす努力や忍耐、相手を自分を想う気持ちなど、ぶち込んだ作品となりました。
途中経過はモヤモヤさせてしまいましたが、最後は皆なりの幸せに辿り着けたと思っております☆
素敵な作品と言っていただけて、とても嬉しかったです。ありがとうございました!
オメガバース大好きで、何となく読ませて頂いたんですが、ハマりました。
結末に向かうに連れ、勝手に涙が溢れてきて目が腫れ、一重瞼が二重瞼に。
何度読み返しても、涙、涙...。
こんな素敵な作品に出会えて良かった!
ご感想ありがとうございます☆
随分前に描き終えたお話でしたが、いまだに読んでくれている方がいてくれて、とても嬉しいです!
しかも素敵な感想まで(´˘`*)
私も描いている時、何度も泣きました!泣きながら仕上げた作品なので、涙をながしてくださって、とてもとても感激です!
ありがとうございました( ¨̮ )
オメガバースは、私も大好きです。