『貴方』に『別れの挨拶』はまだ言えない

八川 紫苑

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「今日もバラをくれてありがとう」

リスナーからの課金アイテムであるバラ。

2ポイントとわずかだけど、こころが温まる。

かわいた『こころ』に水をくれたのは、あなたの声。

あなたの声は高すぎず、低すぎず。
長い間聴いていても疲れない。

あなたの部屋から聴こえる、雨の音。
とても素敵な音色。

静かなBGMとともに語り出す、優しい声。

そこはまさに、エンターテイメント。

リスナーに語りかける口調は、程よいやわらかさ。

カフェ

スナック

灯火

リスナーによって例えが様々で面白い。

中には寝落ちをしてしまう人もいる。

『こころ』にうるおいを与えるあなたの声の『波長』

あなたのこころの波が激しいことに気づくのは、もう少しあとの話。


あなたは自信に満ち溢れている。

私は大きな勘違いをしていました。

あなたの自信は『ハリボテ』でした。

全てがフィクション。
あなたは、頭に思い描いたシナリオをただただ読んでいるだけ。

気付いてしまったんです。

あなたが誰よりも傷つきやすい人だと言うことを。

その感情に蓋をして、仮面を被って『生きている』ことを。

思えば私もそうでした。
自らの暗い過去に目を背け、今まで『生きてきました』。

『波長』が合ったのは、そういう理由だったんですね。

悲しい気持ちで胸がいっぱいでした。

私は泣きました。声をあげて泣きました。

だけど、あなたは。私に語りかけてくれた。

「人生ってね、一本道じゃないんですよ。長い、これまた長い迷路なんです。

ひどいときには、出口がないときもあります。

私もそうだったのかもしれません。

ですが、入口は必ずあります。迷ったときは道を引き返して、その入口から出ればいい」

きっと、私だけじゃない、他のリスナー誰しもが、あなたも『泣いている』と気付いたはずです。

確かその日は、珍しくBGMが流れていませんでした。

声色、表情が分かるくらい静かでした。

でもその静けさは不思議と心地の良いものだったのです。

『泣きたい時は泣いたっていい』

そう語りかけてくれましたね。


こころのうるおいが足りなくなったら、いつでも配信に聴きに来てほしい。

どんな『あなた』でもいい。

わたしはいつでも『あなた』のことを待っています。

「さあ、今日はこのへんで終わりにしましょうか。」


配信ボタンを切り、外を見たら虹が出ていました。

どうやら私の心の雨も止んだようです。
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