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箱
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箱菓子があったとする。
ふたつ、あったとしよう。
箱はマトモだけど、中身はグチャグチャ。
箱は少し凹んでいるけど、中身はしっかりしている。
どちらかひとつを選ぶとしたら。
そのような質問を私はしたことがある。
たくさんの人に質問をしてきたがほとんどの人が前者を選んでいた。
貴方は違った。即答で、
「後者だね。なぜなら『箱』は食えない」
とてもシンプルで、満点の回答だった。
最初並べられた時はキレイに凹みも無く佇んでいた。
でも。
何かの拍子でぶつかり、叩かれるだけで歪む。
『固いのに柔らかい』それが『箱』
でも違った。
中には、キレイに慎重に開けたと思えば手を突っ込み
グシャグシャ
ガサゴソ
バン
いい所だけ食って適当に閉める
痛い。
血が止まらない。
前者を選ぶ人の気持ちも、私はわからなくはない。
商品として陳列されるのは、綺麗な箱ばかりだから。
けれど。
箱は食えない。
少々箱が傷ついていても、中身がしっかりしてるなら、『別のお皿』に移し替えて、食べることができる。
貴方は物事の本質を知っていた。
血で染まった手を拭うことすらせずに。
貴方の伸ばした手はこれまでと違って優しく
そっと掬ってくれた。
「箱は食えない。でも『貴方』は美味しいから、きちんと食べるよ」
血で染まった手を見ながら貴方は今にも泣きそうな顔をしていた。
その表情をみて私は泣いた。
私の箱の中身はグシャグシャ
いや
中身の方がグシャグシャしていたんだね。
そのような私を貴方はあるがままに受け入れてくれた。
それはとても、嬉しかった。
だって、貴方と出逢えていなければ、今の私はいなかったから。
「月ってどうして綺麗だか、わかります?」
「どうしてですか?」
「月にはうさぎが住んでいると言うでしょう。まあ、物理的には無理なんですが。
ではなぜ、月にはうさぎがいると言われているのか。
それは、クレーターという穴ぼこがあるから。
外国ではカニのかたちとも言われています。
月にだって、穴ぼこはあります。
人間にだってあるでしょう。
それがこの世の理であり、真実です」
的を射た貴方の発言に思わず息をのむ。
「あなたの心の中のうさぎさんはとても可愛いですよ」
悪戯な瞳に、私は釘付けだった。
はい、と言って渡された箱の中。
開けてみると…?
ぴょんとうさぎが飛び出してきた。
「あはは、かわいい!」
「その箱をプレゼントするよ。これでもう痛くないし、中身はしっかりしているね」
お互いに笑いあった。
その笑顔をそのまま『箱』に閉まっておけたらいいのに、
という思いをグッと堪え、私も笑った。
そうだ。『こころ』の宝石箱にふたりの笑顔をしまっておこう。
好きよ。
ふたつ、あったとしよう。
箱はマトモだけど、中身はグチャグチャ。
箱は少し凹んでいるけど、中身はしっかりしている。
どちらかひとつを選ぶとしたら。
そのような質問を私はしたことがある。
たくさんの人に質問をしてきたがほとんどの人が前者を選んでいた。
貴方は違った。即答で、
「後者だね。なぜなら『箱』は食えない」
とてもシンプルで、満点の回答だった。
最初並べられた時はキレイに凹みも無く佇んでいた。
でも。
何かの拍子でぶつかり、叩かれるだけで歪む。
『固いのに柔らかい』それが『箱』
でも違った。
中には、キレイに慎重に開けたと思えば手を突っ込み
グシャグシャ
ガサゴソ
バン
いい所だけ食って適当に閉める
痛い。
血が止まらない。
前者を選ぶ人の気持ちも、私はわからなくはない。
商品として陳列されるのは、綺麗な箱ばかりだから。
けれど。
箱は食えない。
少々箱が傷ついていても、中身がしっかりしてるなら、『別のお皿』に移し替えて、食べることができる。
貴方は物事の本質を知っていた。
血で染まった手を拭うことすらせずに。
貴方の伸ばした手はこれまでと違って優しく
そっと掬ってくれた。
「箱は食えない。でも『貴方』は美味しいから、きちんと食べるよ」
血で染まった手を見ながら貴方は今にも泣きそうな顔をしていた。
その表情をみて私は泣いた。
私の箱の中身はグシャグシャ
いや
中身の方がグシャグシャしていたんだね。
そのような私を貴方はあるがままに受け入れてくれた。
それはとても、嬉しかった。
だって、貴方と出逢えていなければ、今の私はいなかったから。
「月ってどうして綺麗だか、わかります?」
「どうしてですか?」
「月にはうさぎが住んでいると言うでしょう。まあ、物理的には無理なんですが。
ではなぜ、月にはうさぎがいると言われているのか。
それは、クレーターという穴ぼこがあるから。
外国ではカニのかたちとも言われています。
月にだって、穴ぼこはあります。
人間にだってあるでしょう。
それがこの世の理であり、真実です」
的を射た貴方の発言に思わず息をのむ。
「あなたの心の中のうさぎさんはとても可愛いですよ」
悪戯な瞳に、私は釘付けだった。
はい、と言って渡された箱の中。
開けてみると…?
ぴょんとうさぎが飛び出してきた。
「あはは、かわいい!」
「その箱をプレゼントするよ。これでもう痛くないし、中身はしっかりしているね」
お互いに笑いあった。
その笑顔をそのまま『箱』に閉まっておけたらいいのに、
という思いをグッと堪え、私も笑った。
そうだ。『こころ』の宝石箱にふたりの笑顔をしまっておこう。
好きよ。
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