おふとん

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 児童養護施設に勤めてから初めての春を迎えようとしていた。年度の変わり目ということで、全フロアの職員の再編成が行われる。
 といっても、基本的には大きく変わらないらしい。親にしろ児童相談所の職員にしろ、フロアに在籍する子ども達にしろ、できるだけ同じ職員が継続的に関わっていく方が、信頼関係を築いていくにあたって好ましいということは、誰が見ても一目瞭然。そう毎年毎年フロアの担当職員がころころ変わっていては、子ども達も過ごし辛いであろう。
 新任であるおれは、二年目もこの小中学生のフロアで勤めることになるとたかを括っていた。一年やそこらで異動をさせられていては、こちらとしてもなかなかやりづらい。

 三月末の職員会議。例年、この会議で人事異動の発表があるため、心なしかどの職員もソワソワしている様子が伺える。たった一年で異動させられてたまるものかと思いつつも、おれも少しばかり落ち着かなかった。
 フロアごとに、職員が固まって席に着いた。各テーブルに、次年度の職員編成表が配られると、皆が覗き込む様にして自分の名前を探し始めた。
 田村……田村は……。あった。男子寮三階フロア。分かっていたとはいえ、いざ蓋を開けてみると……という可能性もあるため、とりあえずは安心した。
 上から順に主任、他の先輩職員と名前を追っていき、おれの名前の次には……。菊崎ではない。他班の職員の名前があった。
 当然おれが気付くより先に、菊崎はそのことに気付いていたみたいだが、「俺は来年から男子高校生のフロアだよ」と、特に驚いたり、環境が変わる事への不安を見せたりといった様子は見られなかった。

 全体での会が終わり、各フロアに戻っての会議に移ったのだが、さっそく次年度からの動きについての打ち合わせ等もあるため、新編成の職員で会を行うこととなる。
「では皆さん。一年間、どうも世話になりやした」
 菊崎は敬礼しながらそう言って、少し戯けてみせた。まだ四月一日までは三階フロアでの勤務があるし、何もこの職場を辞める訳では無い。何なら、同じ男子寮の中にいるのだから、常駐する階が変わるだけである。そうは分かっていながらも皆で、いってらっしゃいと菊崎を送り出し、代わりに他の班から新しく異動してくる職員を出迎え、改めて新年度に向けての班会議となった。
 新しくうちのフロアにやって来る職員というのは、この少年ホームに勤め始めてから五年が経つらしいが、着任からずっと女子寮で勤めてきたという女性の職員であった。
 五年も勤めているとなれば、ベテランとまでは言わないが、仕事の流れも熟知しているであろう。今年度はおれと菊崎、新人二人を抱えての仕事だったため、主任や先輩の職員からしてみれば、なかなか大変な部分もあったのだろうなとも思う。それが来年度からは、抱える荷物が一つ減る、ましてやその一つが菊崎なのだから、主任的にはさぞかしやり易くなるであろう。
「改めて、来年度から三階フロアでお世話になります。緑川です」
 ピンと背筋を伸ばして座り、はきはきと言葉を放つその女性が、この時とっつきにくく感じたのはおれだけかもしれない。
 
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