娼館で死んだΩ、竜帝に溺愛される未来に書き換えます

めがねあざらし

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4、静かなる反撃〜リディア1〜

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昼食を自室で取ることにした。
間違ってもヴェロニクと食事を摂る気にはならないからだ。
メイドが運んできた料理は、公爵家にしてはやはりどこか簡素だった。
ヴェロニクの影響があるのは明白だ。

(いいけれどね、これくらい……さて、ここからどう動くか)

エリオットはふと、食器を置くメイドの手に目を向けた。
指先がわずかに震えている。

(緊張してる?いや……何か、違う)

観察すると、メイドの頬は少しこけており、目の下に薄く隈ができていた。
公爵夫人の役割の一つには邸内の使用人の管理も入る。
主には執事が采配を振るう場所ではあるが、最終的な判断は夫人だ。
それぞれに理由があるにせよ、侯爵家の母ならば放置はしなかっただろう。
つまりそれを気取っているであろうヴェロニクの管理は行き届いていないということだ。
こんなことにも気付けなかった前の自分に心中では少しため息が漏れる。
しかしそれはそれだ。エリオットは静かに微笑んだ。

「このスープ、塩加減がちょうどいいね。誰が作ったの?」

メイドは驚いた顔をした。

「えっと……お台所の、マルタ様です」
「ああ、これがマルタの味なんだね。腕がいいね。あとでお礼を言っておいてもらえるかな?」
「あ、え。そ、そんな……!ありがとうございます、伝えます!」

エリオットはその様子を見て、確信した。
彼女は明らかに目上の者から優しくされることに慣れていない。
つまり、今まではヴェロニクの下で碌な扱いをうけていないのだろう。
自身が愛人として成り上がったことに奢っているのか……愚かだな、とエリオットは思った。

(……まずは、この子からだな)

エリオットは微笑みながら、スープを一口飲んだ。

「……君、名前は……リディアだったかな?」
「は、はい!そうです奥様!」

リディアはまだ年若い。エリオットは二十歳になったばかりだが、それよりも下に見える若い侍女だった。
手慣れた仕草から見て、メイドとしての経験は長そうだ。

エリオットはわざと軽い調子で聞いた。

「最近、あまり眠れていない?」
「……え?」

リディアの表情が、一瞬だけ強張った。

「そんなことは、ありません……」
「そう?顔色があまり良くないようだったから」

エリオットは何気ないふりをしながら、リディアの反応を観察した。
彼女の指先はまた、小さく震えている。

(なるほど。何か心配事がある、ということかな)

彼女は何かを抱えている。
そして、それがヴェロニクと関係していることも容易に予想がついた。
エリオットは、軽くフォークを置いた。

「そういえば……家族はどうだい?」

リディアの顔色が、サッと変わった。
これで家族のことだと察しはついた。なるほど、と思考を巡らせる。
前の人生ではここでの関係性は希薄だった。
ただ、この子については少し覚えがある。そう、いつだったか泣いていたように思う。
あれは確か……。

「そう、確か……君には弟さんがいたっけ?元気かい?」
「……え?」
「君、確か公爵家の敷地内には住んでないよね?」

戸惑いの色を隠せず、リディアが視線を動かす。

「あの、どうして……」
「えぇ?そりゃ……この家に仕えてくれている人々のことを把握しているのは当たり前だよ?と言っても、誰が何を作ったかまではまだ判断できないけれどね」

そう言ってエリオットは笑う。
実際、侯爵家の「上に立つものは下のものを把握して然るべき」という習わしもあって、使用人の名前と顔は嫁ぐ前から把握している。
リディアは、わずかに唇を噛んだ。
明らかに動揺している。

(……これ以上問い詰めても、話す気はないだろうな)

ここで追い詰めすぎると、リディアは完全に口を閉ざすだろう。
エリオットはさりげなく笑い、話題を変えた。

「何か困ったことがあれば僕に言うんだよ?ああ、そうだ……少し待ってね」

そう言って、立ち上がるとサイドチェストから小さな袋を取り出した。
それをリディアに手渡し、軽く微笑む。

「ラベンダーのポプリだよ。気に入ってもらえるといいけど。君が良く眠れるように」

リディアは戸惑いながらも、小さく頭を下げた。
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