娼館で死んだΩ、竜帝に溺愛される未来に書き換えます

めがねあざらし

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58、廊下にて——皇帝の影と王太子の微笑

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シグルドとの話を終え、エリオットは静かに執務室を後にした。
けれど、心臓の鼓動はまだ落ち着いていなかった。

(……君を逃がさない、か)

先ほどのシグルドの言葉が、まだ耳に残っている。
あの金色の瞳に射抜かれた瞬間、逃れようのない拘束を感じた。

「で、どうだった?」

軽快な声が耳に届き、エリオットは顔を上げた。
そこには、壁に寄りかかりながら愉快そうに笑うライナスがいた。

「何が、です?」
「君とシグルドの話さ。いやぁ、やっぱり面白いね、君たち」

ライナスは肩をすくめながら、意味ありげな目でエリオットを見つめた。

「君は皇帝に気に入られてるねぇ」
「……」

エリオットは小さくため息をついた。
ライナスが揶揄ってくるのは分かっていたが、今はそれに付き合う余裕がない。

「僕は……どうすればいいんでしょうか」

ぽつりと零れた言葉に、ライナスは目を細めた。

「なるほどねぇ」

その言葉には、からかいだけでなく、どこか探るような響きがあった。

「君はまるで『囚われの姫君』みたいだ。公爵家に戻りたいのに、皇帝陛下に閉じ込められてる……あぁ、なんてドラマティックな状況だろう」
「……そんなつもりはありません」

エリオットはきっぱりと否定した。
しかし、ライナスは口元に笑みを浮かべたまま、しっかりとエリオットの瞳を捉えていた。

「でも、戻る気なんだろう?」
「……ええ」

エリオットは小さく頷いた。

「公爵家に戻るには、もっと確実な証拠が必要です。ヴェロニクの背後にいる貴族たち……その正体を暴かなければ、戻ったところでまた追い詰められるだけでしょう」
「まぁ、それはそうだね」

ライナスは腕を組みながら、満足そうに頷いた。

「王太子殿下」
「ん?」
「お願いがあります」

エリオットは言葉を選びながら、真剣な眼差しでライナスを見た。

「ライナス殿下なら、貴族たちを集めることができるはずです。……茶会を開いてもらえませんか?政変で残った貴族たちのみを招いた茶会を」

ライナスの眉が僅かに跳ね上がった。

「ほう!」
「今の僕には何もかもが足りません。本来であればこんな身内ごとを殿下に頼むなんて烏滸がましく恥ずかしい行為でしょう。しかし、敢えてそれを承知の上でお願いしたいのです」

ライナスは少し黙った後、愉快そうに唇を歪めた。

「ふむ、いいね。実にいい。君がそこまで覚悟を決めているなら、面白い茶会を開こうじゃないか」
「……本当ですか?」
「ただし」

ライナスは指を一本立てて、にやりと笑った。

「君もちゃんと楽しませてくれよ?」
「……楽しませる?」

エリオットは訝しげに眉を寄せた。

「まぁ、貴族たちにとっても、これはただの茶会じゃなくなるだろうね。ヴェロニクの後ろ盾になっている貴族も中には混じっている。うん、いいね。どちらにしろ彼らは王家にとってもいいものではない。ここは共闘と行こうじゃないか」

ライナスは意味深な笑みを浮かべたまま、くるりと踵を返した。

「さぁ、準備をしようか。エリオット公爵夫人、王太子主催の茶会へようこそ——なんてね」




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