社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし

文字の大きさ
28 / 57
第2章

21-3

しおりを挟む
森を抜けて最寄りの宿にたどり着いた頃には、すっかり日が暮れていた。
古びた木造の建物だけど、中は意外に清潔そうだった。
俺とレイは同じ部屋に案内される。
部屋に入るなり、レイがドアを閉めた音がやけに響く。俺はベッドに腰を下ろしたけど、どこか居心地が悪い。
その時だった。レイが鋭い声で言った。

「なぜついてきた?」

予想してた質問だったが、いざぶつけられると返事に困る。
しばらく視線をさまよわせたあと、俺は意を決して口を開いた。

「だって、お前を放っておけないからだよ」
「……放っておけない?」

レイは低い声で繰り返しながら、俺をじっと見つめた。その視線には、怒りだけじゃなくて別の感情も混じっている気がした。

「俺だって、お前の力になりたいんだよ。何もできないなんて思われるのは嫌だ」

その言葉を聞いたレイは、短く息を吐いて壁に寄りかかった。

「お前の無鉄砲さが……俺を不安にさせるんだ」

声の調子が少しだけ弱くなっている。レイがこんなふうに本音を漏らすのは珍しい。
どう返事をすればいいのか分からずにいると、ドアが軽くノックされた。
俺がドアを開けると、アランが立っていた。いつもの飄々とした笑顔を浮かべているけど、どこか計算高い目つきが気になる。

「少し話がしたくてね、カイル君。少しだけ付き合ってくれるかな?」
「……俺?」

ちらりと後ろを見ると、レイが険しい顔をしてアランを睨んでいる。

「兄さん、そんな怖い顔をしないで。カイル君と少し話したいだけだよ」

アランが軽く手を振って見せた。レイは何も言わないけど、視線が突き刺さるみたいに俺の背中に感じる。
レイと話すにせよアランと話すにせよ気が重い。
しかし目の前のアランを無視することもできず、俺はしぶしぶアランについていくことにした。



あまり部屋から離れるのはレイの疑心を生みそうだ。
アランに部屋の近くでなら、と条件を付けて俺は後ろを歩く。
廊下を歩きながら、アランが口を開いた。

「君は本当に面白いね。兄さんの命令を無視してまでここに来るなんて」
「……面白い?」

俺は眉を寄せながら問い返したけど、アランは気にする様子もなく軽く笑った。
空いているラウンジに案内されると、アランが俺の正面に座った。

「兄さんが君を特別扱いしているのは分かるだろう?でも、カイル君、それが君にとって本当にいいことだと思うかい?」

突然の質問に、俺は言葉を詰まらせる。

「……どういう意味で?」

アランは真剣な顔つきで俺を見つめた。その瞳の奥には、何か底知れないものが潜んでいる。

「兄さんの執着が君を縛っているとしたら、君はそれでも幸せかい?」

俺はぐっと拳を握りしめた。

「俺は、レイが好きなんだ。レイがそばにいてくれるなら、他のことなんてどうでもいい」

アランが微かに息を吐いた。

「……その純粋さ、兄さんが大事にしたい理由がよく分かるよ」

その言葉に皮肉の気配は感じなかったけど、アランの笑顔には何か別の感情が混じっているように見えた。



アランとの話を終えて部屋に戻った俺を、レイが鋭い視線で出迎えた。
部屋の空気が冷たく感じるのは、気のせいじゃない。

「アランと何を話していた?」

開口一番、低い声でそう問いかけられた。俺はドアを閉めながら、言葉を選ぶ。

「ただ、少し話をしただけだよ」
「具体的に何を?」

レイは俺の答えを待たないように一歩近づいてきた。その視線の強さに、俺は無意識に視線をそらす。

「俺がお前に縛られているとか、そんな話だよ。でも……」

言いかけて、俺は口をつぐんだ。レイの眉がピクリと動く。

「でも、何だ」
「俺は、その、……そんなことレイがいればどうでもいいって答えただけだ」

それを聞いた瞬間、レイの表情が微かに揺れるのが分かった。いつもは冷静で無表情な顔が、少しだけ感情をにじませている。

「……それを信じるべきなのか、俺には分からない」

レイの言葉に、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。俺の想いが届いていないわけじゃない。それでも、彼は俺を信じきれていないんだろう。

「それで? 他には何を話していた?」
「……だから、ただの話だって。別にお前が気にするようなことじゃない」

言いながら、自分でもどこか歯切れが悪いのが分かる。レイの目は嘘を許さない。
嘘をつくつもりはなくても、余計に追い詰められた気分になる。
アランとの会話はいくつかしたが、その他はどうやって来たのかとか「今聞くようなことか?」と思うほどにくだらない話だったのだ。

「気にするようなことじゃない? あいつが俺の領地に何をしに来たのか、お前もわかっているだろう」
「それは……」

返す言葉が見つからない。アランがここにいる理由は分かっているけど、それをレイにどう説明すればいいのか、自分でも整理できていなかった。

「俺に何か隠しているのか?」

レイの声が少し低くなる。その声にこめられた感情が痛いほど伝わってくる。

「隠してなんかないよ! 俺は……」

俺は言葉を詰まらせた。レイにとって何が聞きたくて、俺が何を言えばいいのか、分からなくなってしまう。
沈黙が流れる。部屋の空気が重たくなり、胸が押しつぶされそうだ。俺は思わず視線をそらし、ベッドの端に腰掛ける。

「……俺が何をしたら、そんなに信用できないんだ?」

気づけば言葉が口をついて出ていた。レイを見上げると、彼の表情が微かに揺れるのが見えた。
突然レイが動き俺のそばまで来る。そして俺の腕を掴んだ。驚く間もなく、俺はベッドに押し倒された。

「ちょ、何して――!」

抵抗しようとする俺を、レイはその力強い腕で押さえ込む。
彼の顔がすぐ近くにあり、その目が俺を捉えている。

「お前が勝手なことをするからだ。俺の知らないところで……!」
「やめろよ、こんなの!」

俺は必死に身をよじるが、レイの力にはかなわない。彼は俺を押さえつけたまま、その瞳で俺を貫いてくる。

「話せ、カイル。アランが何を企んでいるのか、俺に隠すな」
「何も隠してない! お前が勝手に俺を疑ってるだけだ!」

必死に叫び返す俺の言葉に、レイの目がさらに険しくなる。

「俺が疑っているのは、お前じゃない。アランだ。だが……お前があいつの側にいることが、俺を不安にさせる」

その言葉がどこか弱々しい響きを持っていたからこそ、俺は思わず動きを止めた。

「……不安?」

俺がそう聞き返すと、レイは目を逸らすことなく答える。

「お前が俺のそばにいないかもしれないと思うだけで、俺は正気でいられない……!」

その言葉に、一瞬胸が詰まる。でも、だからって、こんなやり方は間違ってる。

「だからって、こんな風に俺を押さえつけるのは違うだろ!」

俺は再び力を振り絞って抵抗する。すると、レイが俺を抑えていた手を少しだけ緩めた。

「……お前が俺の命令を無視して動き回るからだ」
「俺だってお前を守りたいんだよ!」

思わず叫んだ言葉に、レイの瞳が見開かれた。
「……守りたい?」

レイは俺の顔をじっと見つめながら呟いた。

「そうだよ。お前がどれだけ強いか分かってる。でも、それでも、全部お前一人で背負わせるのは嫌なんだ」

そう言うと、レイはゆっくりと俺から離れた。その顔には複雑な感情が浮かんでいる。

「お前が……そんな風に思っていたとはな」
レイが少し距離を取ったことで、俺もようやく呼吸が楽になった。でも、レイの視線はまだ俺を捉えたままだ。険しさは薄れているけれど、その代わりに何か思い詰めたような表情をしている。

「……すまない」

低い声が静かに部屋に響く。俺は思わず目を見張った。レイがこんな風に謝るなんて、滅多にない。

「お前を責めたかったわけじゃない。俺が不安になるのは、お前が俺のそばにいなくなるかもしれないと思うからだ」

言いながら、レイがゆっくりと手を伸ばし、俺の頬に触れる。その手のひらは思っていたよりも暖かくて、さっきまでの怒りを忘れてしまいそうになる。

「……レイ?」

名前を呼んだ俺の声が少し震えたのは、自分でも分かる。レイの触れ方があまりに優しくて、胸がざわついてしょうがない。

「お前がここに来たのは愚かだった。でも……」

言葉を切って、レイが俺の目をじっと見つめてくる。俺はその視線から逃げることができなかった。

「お前が俺のために来てくれたと思うと、怒るべきなのか、嬉しいのか分からなくなる」

俺は思わず息を飲んだ。普段は冷静で厳しい彼が、こんな感情をあらわにするなんて、想像もしていなかった。

「俺だって、お前のそばにいたいんだよ」

自然と口をついて出た言葉に、自分でも驚く。でも、これが俺の本音だ。レイを守りたい、支えたい――その気持ちだけでここまで来たんだ。

レイが短く息を吐き、俺の髪を軽く撫でた。その仕草があまりに優しくて、不覚にも心臓が跳ねた。

「お前は、どうしてそんなに俺を動揺させるんだろうな」

そう呟きながら、レイが俺の顔に少しだけ近づいてきた。その目が俺の唇をちらりと見たのを、俺は見逃さなかった。

「レイ……?」

「もう勝手に危険な場所に行くな。俺の命令を守れ」

その声が低くて、どこか甘くて、俺は返事をするのを忘れてしまう。
部屋の空気がどんどん濃密になっていく気がする。
レイが俺の頬に触れている手をゆっくりと離した。

「今日はもう休め。疲れているだろう」

急に距離が戻ったことに、少しだけほっとしながらも、どこか名残惜しい気持ちが胸に残る。
俺も俺で……もう少しこういう時に積極的になるのも大事なのかもしれない。
変な意味ではないが、レイを安心させるためには……。
俺は意を決してベッドから立ち上がり、レイの隣にそっと腰を下ろした。彼がこちらを見る前に、俺はその手を取った。

「……レイ」

名前を呼ぶと、レイが少し驚いたように眉を上げた。その視線が俺に向くけれど、いつもの威圧感はなくて、どこか頼りなささえ感じる。

「お前が不安になるのは分かる。俺が勝手なことばかりしてるからだよな。でも……俺は、ただお前の力になりたくて」

ゆっくりと俺はレイの手に口付ける。

「だって、俺は……レイが好きだからさ」

意識して言葉に出すのは少し恥ずかしかったけど、それでも俺は目を逸らさずにレイを見つめた。彼がどう思うのか、不安と期待が交錯していた。
レイが一瞬目を閉じ、短く息を吐く。そして、次に俺が感じたのは、彼の唇が触れる感覚だった。ふわりと触れるだけのキス。それなのに、胸の奥が甘く締め付けられるような感覚が広がる。

「カイル」

俺の名前を呼ぶ声が近くて、瞳がまっすぐに俺を捉えていた。その瞳の中に、不安も執着も全部入り混じっている。俺は彼の手を取って、もう一度握りしめた。

「安心して、レイ。俺はお前のそばにいるから。死んでも離れない」

その言葉を聞いた彼が、少しだけ微笑んだ。それは先柔らかい、でもどこか切ない笑みだった。

「……死なれたら困るな……」

レイの手が俺の肩を引き寄せる。その力は優しくて、それでも俺が逃げられないような強さがあった。

気づけば、俺たちは絡み合うようにベッドの上へと倒れ込んでいた。
レイの腕に抱きしめられたまま、俺は彼の体温を感じている。

「カイル……お前が俺を信じてくれるなら、俺もお前を信じる」

低く呟くその声が耳元に響き、全身が熱くなる。俺は震える手で彼の背中に触れた。その瞬間、レイの体が僅かにこわばるのを感じる。

「……大丈夫だよ、レイ」

そう言って、俺は彼を安心させるように笑ってみせた。レイが僅かに眉を下げ、また唇を重ねてくる。
それからは、時間の感覚が曖昧になった。ただお互いの体温を感じ、言葉以上に気持ちを伝え合う。彼の不安が消えるように、俺は自分がここにいることを何度も何度も伝えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。 背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。 魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。 魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。 少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。 異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。 今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。 激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

声だけカワイイ俺と標の塔の主様

鷹椋
BL
※第2部準備中。  クールで男前な見た目に反し、透き通るような美しい女声をもつ子爵子息クラヴィス。前世を思い出し、冷遇される環境からどうにか逃げだした彼だったが、成り行きで性別を偽り大の男嫌いだという引きこもり凄腕魔法使いアルベルトの使用人として働くことに。 訳あって視力が弱い状態のアルベルトはクラヴィスが男だと気づかない。むしろその美声を気に入られ朗読係として重宝される。 そうして『メイドのリズ』として順調に仕事をこなしていたところ、今度は『無口な剣士クラヴィス』としても、彼と深く関わることになってしまって――

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

処理中です...