36 / 57
第2章
28
しおりを挟む
目が覚めると、いつもの部屋だった。
オシャレでもなんでもない、ただの部屋。
入った当初は色々と頑張ろうと思ったのだが、どうにも俺にはインテリアをどうこうする才能がないらしく、諦めた。そもそも汚れないようにするだけでも精一杯。
そんな普通の1DKに大学のころから、そして俺は社会人になった今も住み続けている。
「会社行きたくねぇ~……」
ベッドの上を転がって、俺は呻いた。
仕事自体は嫌いじゃない。
同僚にも恵まれていると思う。ただ上司は最悪だ。
とにかく仕事を押し付けてくる。
そのくせ立ち回りがうまいそいつは、人にさせた仕事も自分の手柄にしやがるのだ。
「ああいうの本当にどうにかしてぇわ……」
溜息を零しながら起き上がると、手に昨夜の夜にやっていたゲーム機が触れた。
現在ハマっているのは「クレセント・ナイツ」という乙女ゲームだ。
中でもレイという騎士にハマってしまい、部屋の一角にはグッズコーナーまで作ってしまった。
「いっそこのレイが上司ならなぁ~~眼福だったのに」
ゲームを起動させると、オープニングが流れ出す。
それを見ながらも、会社行きたくないな……と思うあたりそろそろ辞表でも書くべきかもしれない。
「レイとならうなくやれそうなんだけどなぁ……」
※
「……ル!カイル……!」
気がつくと、柔らかい毛布の感触が頬に触れていた。
「……ん……?」
ぼんやりと目を開けると、すぐそばに見慣れた顔があった。レイだ。レイ・エヴァンス。
「レイ……?」
レイは俺を抱きかかえるように支えていて、その顔にはいつになく険しい表情が浮かんでいる。
「起きたか」
低く響く声が耳に届いた。
「……どうして、ここに……だって……」
俺の言葉に、レイの眉間の皺がさらに深くなる。
その目は冷たく見えるけど、どこかに焦りが混ざっているような気がして、息苦しさを感じた。
「しっかりしろ、カイル……頼むから……」
辛そうに目を細める彼の顔に、なぜか胸が痛んだ。
少しずつ意識がはっきりしてくる。思い出すのは、自分が一人で馬を走らせて――そして倒れたこと。
「俺は、ただ……」
頭がぼんやりしていて言葉が出てこない。そんな俺を見て、レイの声が鋭くなる。
「ただ、なんだ?理由も言わずに一人で馬を走らせて、こんなところで倒れるまで無理をする理由が、何だ?」
その声には、怒りだけじゃなく、心配が滲んでいた。それが余計に胸に刺さる。
「頼む、放してくれよ…!」
身を捩ろうとしたが、力が入らない。自分の体力の限界を知りながら、それでも逃げたかった。
「レイ……俺はここにいるべきじゃない……」
自分の声が震えているのが分かった。それでも止められない。胸の奥に押し込めてきた感情が堰を切ったように溢れ出していく。
「俺じゃきっと、お前の役にはたたないよ……結界がどうとか、フランベルクを守るとか、そんな立派なこと、俺には無理なんだよ……」
涙が滲んでくるのを感じた。
「お前だって本当は、俺がいない方が楽なんだろう……?噂も消えるし、結界だって揺らがない……俺が全部悪い」
絞り出すような声で叫んだ瞬間、レイの目がわずかに見開かれた。その瞳に、驚きと悲しみが混ざっているのが分かった。
「俺だって……俺だって怖いんだよ!お前が最近ずっと冷たくて、遠くて……俺が嫌いになったんじゃないかって思うくらい!」
体が熱くなり、涙が止まらない。自分でも何を言っているのか分からなくなる。
「俺がここにいる意味なんて、もう分からない……!こんなに孤独で、こんなに辛いのに、誰も気づいてくれない……!」
声が途切れると同時に、レイから顔を背ける。力が抜けて、もう何も考えられなかった。
「……俺は、どうしたらいい……?」
静寂が降りる。すべてを吐き出した後の空虚感が、胸の中に広がっていく。
レイは動かない。俺の声に押し黙ったまま、俺を見下ろしている。
「……お前、俺の気持ちなんて……」
そこまで言いかけた瞬間、レイが膝をついて俺を抱きしめた。
その力強さに驚く暇もなく、耳元で低い声が響く。
「お前は、俺のそばにいなければならない。俺がそう望んでいるからだ……!」
その声には、抑えきれない焦燥と切実な想いが滲んでいた。
「俺を置いていくな……俺にとってお前は必要なんだ、カイル……」
その言葉が胸に突き刺さるようだった。涙が止まらないまま、俺はただその場で俯き続けるしかなかった。
オシャレでもなんでもない、ただの部屋。
入った当初は色々と頑張ろうと思ったのだが、どうにも俺にはインテリアをどうこうする才能がないらしく、諦めた。そもそも汚れないようにするだけでも精一杯。
そんな普通の1DKに大学のころから、そして俺は社会人になった今も住み続けている。
「会社行きたくねぇ~……」
ベッドの上を転がって、俺は呻いた。
仕事自体は嫌いじゃない。
同僚にも恵まれていると思う。ただ上司は最悪だ。
とにかく仕事を押し付けてくる。
そのくせ立ち回りがうまいそいつは、人にさせた仕事も自分の手柄にしやがるのだ。
「ああいうの本当にどうにかしてぇわ……」
溜息を零しながら起き上がると、手に昨夜の夜にやっていたゲーム機が触れた。
現在ハマっているのは「クレセント・ナイツ」という乙女ゲームだ。
中でもレイという騎士にハマってしまい、部屋の一角にはグッズコーナーまで作ってしまった。
「いっそこのレイが上司ならなぁ~~眼福だったのに」
ゲームを起動させると、オープニングが流れ出す。
それを見ながらも、会社行きたくないな……と思うあたりそろそろ辞表でも書くべきかもしれない。
「レイとならうなくやれそうなんだけどなぁ……」
※
「……ル!カイル……!」
気がつくと、柔らかい毛布の感触が頬に触れていた。
「……ん……?」
ぼんやりと目を開けると、すぐそばに見慣れた顔があった。レイだ。レイ・エヴァンス。
「レイ……?」
レイは俺を抱きかかえるように支えていて、その顔にはいつになく険しい表情が浮かんでいる。
「起きたか」
低く響く声が耳に届いた。
「……どうして、ここに……だって……」
俺の言葉に、レイの眉間の皺がさらに深くなる。
その目は冷たく見えるけど、どこかに焦りが混ざっているような気がして、息苦しさを感じた。
「しっかりしろ、カイル……頼むから……」
辛そうに目を細める彼の顔に、なぜか胸が痛んだ。
少しずつ意識がはっきりしてくる。思い出すのは、自分が一人で馬を走らせて――そして倒れたこと。
「俺は、ただ……」
頭がぼんやりしていて言葉が出てこない。そんな俺を見て、レイの声が鋭くなる。
「ただ、なんだ?理由も言わずに一人で馬を走らせて、こんなところで倒れるまで無理をする理由が、何だ?」
その声には、怒りだけじゃなく、心配が滲んでいた。それが余計に胸に刺さる。
「頼む、放してくれよ…!」
身を捩ろうとしたが、力が入らない。自分の体力の限界を知りながら、それでも逃げたかった。
「レイ……俺はここにいるべきじゃない……」
自分の声が震えているのが分かった。それでも止められない。胸の奥に押し込めてきた感情が堰を切ったように溢れ出していく。
「俺じゃきっと、お前の役にはたたないよ……結界がどうとか、フランベルクを守るとか、そんな立派なこと、俺には無理なんだよ……」
涙が滲んでくるのを感じた。
「お前だって本当は、俺がいない方が楽なんだろう……?噂も消えるし、結界だって揺らがない……俺が全部悪い」
絞り出すような声で叫んだ瞬間、レイの目がわずかに見開かれた。その瞳に、驚きと悲しみが混ざっているのが分かった。
「俺だって……俺だって怖いんだよ!お前が最近ずっと冷たくて、遠くて……俺が嫌いになったんじゃないかって思うくらい!」
体が熱くなり、涙が止まらない。自分でも何を言っているのか分からなくなる。
「俺がここにいる意味なんて、もう分からない……!こんなに孤独で、こんなに辛いのに、誰も気づいてくれない……!」
声が途切れると同時に、レイから顔を背ける。力が抜けて、もう何も考えられなかった。
「……俺は、どうしたらいい……?」
静寂が降りる。すべてを吐き出した後の空虚感が、胸の中に広がっていく。
レイは動かない。俺の声に押し黙ったまま、俺を見下ろしている。
「……お前、俺の気持ちなんて……」
そこまで言いかけた瞬間、レイが膝をついて俺を抱きしめた。
その力強さに驚く暇もなく、耳元で低い声が響く。
「お前は、俺のそばにいなければならない。俺がそう望んでいるからだ……!」
その声には、抑えきれない焦燥と切実な想いが滲んでいた。
「俺を置いていくな……俺にとってお前は必要なんだ、カイル……」
その言葉が胸に突き刺さるようだった。涙が止まらないまま、俺はただその場で俯き続けるしかなかった。
144
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中
油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。
背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。
魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。
魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。
少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。
異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。
今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。
激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ
【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
声だけカワイイ俺と標の塔の主様
鷹椋
BL
※第2部準備中。
クールで男前な見た目に反し、透き通るような美しい女声をもつ子爵子息クラヴィス。前世を思い出し、冷遇される環境からどうにか逃げだした彼だったが、成り行きで性別を偽り大の男嫌いだという引きこもり凄腕魔法使いアルベルトの使用人として働くことに。
訳あって視力が弱い状態のアルベルトはクラヴィスが男だと気づかない。むしろその美声を気に入られ朗読係として重宝される。
そうして『メイドのリズ』として順調に仕事をこなしていたところ、今度は『無口な剣士クラヴィス』としても、彼と深く関わることになってしまって――
BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている
青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子
ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ
そんな主人公が、BLゲームの世界で
モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを
楽しみにしていた。
だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない……
そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし
BL要素は、軽めです。
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる