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18、国王の決断と、新たな提案
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謁見の間に広がる沈黙。
国王フリードリヒ三世はじっとリリアーヌを見つめていた。
(さて……どう判断なさる?)
リリアーヌは焦れずに待つ。
王宮側が彼女を糾弾しようにも、王太子ルドルフ自らが 「婚約破棄」を選んだ 以上、理論的には彼女に落ち度はない。
切り捨てた者に「戻れ」と命じるのは、王宮の方針が一貫していないことを示すことになる。
国王の判断次第で、 王宮の権威はさらに揺らぐ ことになるのは明白だった。
「……リリアーヌ・グランディール」
国王はゆっくりと口を開いた。
「そなたの言い分はもっともだ。しかし——」
「陛下」
突然の割り込み。
リリアーヌが反応するよりも早く、王太子ルドルフが一歩前へ進み出た。
「この者は、国のために動いているのではありません! 自らの利益のためにシュトラール王国と手を結んだのです!」
(あら、そういう切り口で来るのね?)
リリアーヌは、あくまで優雅に微笑む。
「お言葉ですが、殿下」
「な、なんだ……?」
「わたくしは公爵家の令嬢として、これまでヴェルンハルト王国に忠誠を尽くして参りました。あなた様の隣に立つものとして、日々に精進をかかしたこともございません。ですが……わたくしの未来を決定づけたのは他でもない殿下ご自身の決断 ではありませんか?」
王太子の表情が一瞬にして凍りつく。
「そ、それは……!」
「わたくしが国を離れる意思がないとお伝えしたのは、先ほどの通りです。ですが、もし王宮がわたくしの存在を “都合が悪い” とお考えなのであれば——」
リリアーヌは、ふっと微笑んだ。
「わたくしは 公爵家の立場として、この国に残る道を選ばせていただきます わ」
再び、貴族たちがざわめく。
(つまり、こういうことよ——)
もし 王宮が彼女を排除するならば、それは王宮が公爵家との対立を望んだ ことになる。
逆に 王宮が彼女を認めるならば、今さら「婚約破棄された令嬢に戻れ」と命じる王宮の判断は矛盾する 。
どちらに転んでも、 王宮は公爵家と対立する構図になる。
「ふむ……」
国王は低く唸り、再び沈黙。
リリアーヌは国王の瞳を見つめながら、さらに続ける。
「それとも陛下……わたくしに何か“別の役割”をお望みですか?」
国王の目が細められた。
——まるで、その言葉を待っていたかのように。
(……まさか、わたくしを王宮に“利用”しようと?)
一瞬の緊張が走る。
そして国王は、ゆっくりと口を開いた。
「リリアーヌ・グランディール」
「はい」
「王宮へ戻れ」
その言葉に、場が凍りつく。
「王宮へ?」
リリアーヌは、あえて軽く首を傾げた。
「まさかわたくしに “王妃の座” を……とおっしゃるのでしょうか?」
冗談めかした口調。
だが、それが王太子ルドルフをさらに追い詰める。
「そ、そんなことを今さら許すわけが——!」
「ならば、何のために王宮へ?」
王太子の言葉を遮るように、リリアーヌが微笑む。
国王は、まっすぐに彼女を見据えた。
「王宮の一員として、貴族社会をまとめる役割を担ってもらう」
(……あら)
一瞬、ヴィクトールと目が合う。
(つまり、“王太子妃”ではなく“政治的な役職”として、王宮に組み込みたいというわけね。あらあら、本当に余裕のないこと……ふふ)
公爵家の力を利用しながら、シュトラール王国との交渉を抑え込む意図が見え隠れする。
「……陛下」
リリアーヌは、ほんの少しだけ表情を和らげた。
「ご提案は大変光栄なものですわ」
「では、承諾するか?」
「ええ。ただし——」
リリアーヌは、にっこりと微笑む。
「公爵家の意向を尊重していただけるならば、喜んで」
国王の瞳が鋭くなる。
(さあ、どうなさるの?)
リリアーヌが 公爵家の代表として王宮に入るならば、王宮は公爵家と「対立ではなく交渉する立場」になる。
その瞬間、国王は 彼女を“追い詰める”ために呼んだはずが、逆に交渉の場にされてしまった ことに気づいたはずだ。
「……よかろう」
国王は低く呟いた。
「だが、一つだけ条件を出す」
リリアーヌは、ほんの少しだけ目を細める。
(……条件?)
「王宮に戻るならば、シュトラール神聖王国との交渉を白紙に戻せ」
その瞬間——ヴィクトールが、思わず吹き出した。
「それはまた……陛下、随分と強引なご提案ですね」
「国の安定を第一とするならば当然だ」
国王は静かに言う。
「ヴェルンハルト王国の未来を思うならば、そなたがこの国に留まり、王宮に協力するのが最善のはず」
(……まあ、そう出るでしょうね。どうせそのうち閑職に追いやる気でしょうけど)
王宮に入るならば、シュトラール神聖王国との関係を断つ。
それが国王の条件。
(だが、それが可能かどうかは——)
リリアーヌは、ゆっくりと唇を開いた。
「わたくしが王宮に入ったあと、王太子殿下がどのような対応をなさるのか……それによりますわね」
ルドルフが、ぎょっとしてリリアーヌを見た。
「どういう意味だ?」
「簡単なことです」
リリアーヌは、静かに微笑んだ。
「王太子殿下がこの国の未来を真剣に考え、聖女様と共に適切な統治を行うのであれば、わたくしがシュトラール神聖王国との交渉を見直す理由も生じるでしょう」
ルドルフの顔色が変わる。
(——これで、王宮はわたくしの動向を無視できなくなった)
国王がわずかに唇を噛む。
リリアーヌは優雅に一礼し、告げた。
「陛下。王宮の意向は、よく理解いたしました」
そして、微笑む。
「では、少しだけ……この国の未来を試させていただきますわ」
謁見の間に、新たな緊張が走った——。
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(さて……どう判断なさる?)
リリアーヌは焦れずに待つ。
王宮側が彼女を糾弾しようにも、王太子ルドルフ自らが 「婚約破棄」を選んだ 以上、理論的には彼女に落ち度はない。
切り捨てた者に「戻れ」と命じるのは、王宮の方針が一貫していないことを示すことになる。
国王の判断次第で、 王宮の権威はさらに揺らぐ ことになるのは明白だった。
「……リリアーヌ・グランディール」
国王はゆっくりと口を開いた。
「そなたの言い分はもっともだ。しかし——」
「陛下」
突然の割り込み。
リリアーヌが反応するよりも早く、王太子ルドルフが一歩前へ進み出た。
「この者は、国のために動いているのではありません! 自らの利益のためにシュトラール王国と手を結んだのです!」
(あら、そういう切り口で来るのね?)
リリアーヌは、あくまで優雅に微笑む。
「お言葉ですが、殿下」
「な、なんだ……?」
「わたくしは公爵家の令嬢として、これまでヴェルンハルト王国に忠誠を尽くして参りました。あなた様の隣に立つものとして、日々に精進をかかしたこともございません。ですが……わたくしの未来を決定づけたのは他でもない殿下ご自身の決断 ではありませんか?」
王太子の表情が一瞬にして凍りつく。
「そ、それは……!」
「わたくしが国を離れる意思がないとお伝えしたのは、先ほどの通りです。ですが、もし王宮がわたくしの存在を “都合が悪い” とお考えなのであれば——」
リリアーヌは、ふっと微笑んだ。
「わたくしは 公爵家の立場として、この国に残る道を選ばせていただきます わ」
再び、貴族たちがざわめく。
(つまり、こういうことよ——)
もし 王宮が彼女を排除するならば、それは王宮が公爵家との対立を望んだ ことになる。
逆に 王宮が彼女を認めるならば、今さら「婚約破棄された令嬢に戻れ」と命じる王宮の判断は矛盾する 。
どちらに転んでも、 王宮は公爵家と対立する構図になる。
「ふむ……」
国王は低く唸り、再び沈黙。
リリアーヌは国王の瞳を見つめながら、さらに続ける。
「それとも陛下……わたくしに何か“別の役割”をお望みですか?」
国王の目が細められた。
——まるで、その言葉を待っていたかのように。
(……まさか、わたくしを王宮に“利用”しようと?)
一瞬の緊張が走る。
そして国王は、ゆっくりと口を開いた。
「リリアーヌ・グランディール」
「はい」
「王宮へ戻れ」
その言葉に、場が凍りつく。
「王宮へ?」
リリアーヌは、あえて軽く首を傾げた。
「まさかわたくしに “王妃の座” を……とおっしゃるのでしょうか?」
冗談めかした口調。
だが、それが王太子ルドルフをさらに追い詰める。
「そ、そんなことを今さら許すわけが——!」
「ならば、何のために王宮へ?」
王太子の言葉を遮るように、リリアーヌが微笑む。
国王は、まっすぐに彼女を見据えた。
「王宮の一員として、貴族社会をまとめる役割を担ってもらう」
(……あら)
一瞬、ヴィクトールと目が合う。
(つまり、“王太子妃”ではなく“政治的な役職”として、王宮に組み込みたいというわけね。あらあら、本当に余裕のないこと……ふふ)
公爵家の力を利用しながら、シュトラール王国との交渉を抑え込む意図が見え隠れする。
「……陛下」
リリアーヌは、ほんの少しだけ表情を和らげた。
「ご提案は大変光栄なものですわ」
「では、承諾するか?」
「ええ。ただし——」
リリアーヌは、にっこりと微笑む。
「公爵家の意向を尊重していただけるならば、喜んで」
国王の瞳が鋭くなる。
(さあ、どうなさるの?)
リリアーヌが 公爵家の代表として王宮に入るならば、王宮は公爵家と「対立ではなく交渉する立場」になる。
その瞬間、国王は 彼女を“追い詰める”ために呼んだはずが、逆に交渉の場にされてしまった ことに気づいたはずだ。
「……よかろう」
国王は低く呟いた。
「だが、一つだけ条件を出す」
リリアーヌは、ほんの少しだけ目を細める。
(……条件?)
「王宮に戻るならば、シュトラール神聖王国との交渉を白紙に戻せ」
その瞬間——ヴィクトールが、思わず吹き出した。
「それはまた……陛下、随分と強引なご提案ですね」
「国の安定を第一とするならば当然だ」
国王は静かに言う。
「ヴェルンハルト王国の未来を思うならば、そなたがこの国に留まり、王宮に協力するのが最善のはず」
(……まあ、そう出るでしょうね。どうせそのうち閑職に追いやる気でしょうけど)
王宮に入るならば、シュトラール神聖王国との関係を断つ。
それが国王の条件。
(だが、それが可能かどうかは——)
リリアーヌは、ゆっくりと唇を開いた。
「わたくしが王宮に入ったあと、王太子殿下がどのような対応をなさるのか……それによりますわね」
ルドルフが、ぎょっとしてリリアーヌを見た。
「どういう意味だ?」
「簡単なことです」
リリアーヌは、静かに微笑んだ。
「王太子殿下がこの国の未来を真剣に考え、聖女様と共に適切な統治を行うのであれば、わたくしがシュトラール神聖王国との交渉を見直す理由も生じるでしょう」
ルドルフの顔色が変わる。
(——これで、王宮はわたくしの動向を無視できなくなった)
国王がわずかに唇を噛む。
リリアーヌは優雅に一礼し、告げた。
「陛下。王宮の意向は、よく理解いたしました」
そして、微笑む。
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