少年よ空想を抱け

柿本マシュマロ

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笑われる人

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 今日は土曜日だが先日起こったトラブルのせいで休日出勤だ。
「行ってきます。」
 唯一の家族である猫が玄関まで見送ってくれた。手先を舐める姿がなんだか笑っているように見えた。
いつものようにマンションの階段を駆け降りる。電車の出発時刻がギリギリに迫っているので小走りで駅へ向かう。
「ハハハッ!!」
 すれ違った男子学生が声を出して笑ってた。おそらくスマホでオモシロ動画でも見ていたのだろう。思わず吹き出してしまう事ってあるよなぁ。。。バス停の前を通り過ぎようとしたとき、今度は清掃員のおじさんが僕に
「ハハッ!」
 と笑った。いつも見かける方だが特に知り合いという訳でもない。「おはようございます」と返す。少し不審に思ったが立ち止まってる暇などない。僕は駅の改札へと急いだ。定期をとりだしていつもの改札をくぐる。中年の駅員さんに「おはようございます。」といつものように挨拶したが、今日はなぜか無言で時計をみていた。無視する事はないだろう…と内心ムッとしたがあれこれ考えてる暇はない。急いで階段を駆け上がる。長い直線通路を小走りで駆け抜けていると
「ハハハハッ。」
 と追い抜きざまにサラリーマンに笑われた。ひょっとしてパジャマのままで出勤してるのかと思い焦ったが、身なりはきちんとしている。ハードジェルで整えた髪型もバッチリのはずだ。一体なぜ僕はさっきから笑われているのだろう?すると電車到着のメロディが流れる。「急がなければ」ホームへの階段を下りきった時にちょうど電車が止まった。ドアが開くと同時に出てきたOL達が
「ハハハハハハハッ!!」
 二人とも僕を見るや否や笑い出した。ひょっとしていわゆる『社会の窓』が開いているのか?と思ったがここで確認する訳にもいかない。無視して電車に乗った。車内は微妙な込み具合で無理をすれば座れなくもないが手すりを持って立つことにした。発車後こっそりとズボンのチャックを確認する。・・・きちんと上まで上がっている。問題ない。すると不意に座っていた外国人のカップルと目があう。
「hahahahaha!!」
 指を差して笑われた。おかしい、なんなんだこれは?と車内を見渡す。すると車内の人すべてが僕を見て大声で笑い出した。さすがにこれには恐怖を覚えた。たまらずトイレのある車両へ逃げ込む。その車両の人たちにも同様に大声で笑われてしまう。幸いトイレが開いていたので中に逃げ込むことができた。たった二駅の距離なのでなんとかここで凌げるかもしれない。何故皆に笑われるのか?服のどこかに値札でもついているのだろうか?トイレ内の鏡で念入りに自分の姿を確認するが、おかしなところなど何一つない。夢でも見てるのかと頬をつねる。きちんと痛い。
「はははははははっ!」
 外からまだ笑い声が聞こえる。しかしここから出るわけにいかない。誰かのノックにひたすら怯えながら目的地に着くの待つ。ひとつ先の駅に着いた。
「ハハハハハッ!!」
 また誰かの笑い声が聞こえた。やはりここから出る訳にはいかない。しばらくして電車はまた動き出した。スピードをあげる電車とは裏腹に落ち着いて現状を考えてみる。なぜか一夜にして有名人になっているようだ。しかも恐らく良くない方にだ。スマホでニュースをチェックしてみた。でもそれらしきものはない。自分で自分の名前で検索するといういわゆる『エゴサーチ』と呼ばれるものを初めてみたが全く検索にはひっかからない。当前だ。僕はどこにでもいるただのサラリーマンでしかないのだ。最近なにか特別なことなど何もなかった。いつまでもここに籠ってるわけにもいかない。勇気を振り絞りトイレからでてみた。
 「ははははっ!」「ハハハハハッ!」
 やはり皆から笑われる。さすがにイラっときて睨みつけた。すると皆下を向いて黙ってしまった。静まりかえる車内。するとひとりのJKがおでこの上でダブルピースをしてバカにしてきた。一体なんなのだ?なんか番組のドッキリか?でもいつもの人達だ。見覚えのある顔ばかりで役者やエキストラなどではないとわかる。そうこうしてるうちに目的地の駅についた。今ここで口論などしていては会社に間に合わなくなる。扉が開くと同時に僕は電車を降りた。逃げるように改札を抜ける。
 「いってらっしゃい」
 いつもは無愛想な女性の駅員さんが白い旗を振りながら挨拶してきた。「どうも」と返す。さすがにいきなり「いってきます」とはいえる間柄ではなかった。それでも笑われるよりはマシだなと思った。鞄で顔を隠しつつ横断歩道を渡る。会社はもうすぐそこだ。「ウィーーン」自動ドアがいつもより音を大きく立てて開く。
 「お・は・よ・う。」
 会社に入るなり天敵ともいえる部長と出くわした。「おはようございます。」と、から元気の挨拶で返す。
 「なんなら今日休んでもよかったのに・・・」
 「いえいえ、とんでもないです。休日出勤なんて当たり前ですよ。」朝っぱらから嫌味を言われるとは…これ以上の長話には付き合わないのが一番だ。「失礼します。」そういって僕は立ち去った。
 「ホントに失礼な奴だ…。」
 背後からから嫌味と共に深いため息が聞こえた。一体俺が何をしたっていうんだ。いい加減にしてくれ。部長に対する怒りが頂点に達したその時、携帯のバイブレーションに気づいた。着信だ。

「はい、もしもし?」
 
「〇×歯科です。ご予約のお時間過ぎてますが、いかがなされましたか?」
 
 
 
 



 


 
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