悪役令嬢だからってここまでする ⁉︎

sora

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06.

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道中はご丁寧に、一個師団配置してあった。この念の入れようは、相当私に生きていて欲しくなかったのだろう。

満身創痍で自身で出られる筈もなく、当家の派兵を待つのは当然。

私共々、兵を闇に葬り去り、兵の残存数を確実に減らし我が公爵家に乗り込もうとしたか。
だが、それは舐めすぎだろう。

スカーレット公爵家は良くも悪くも表も裏も制するのだから。

伊達に諸侯達に汚れた血と言われておらぬ。
あの男も例に漏れず、汚れた血と言っていたな。
政敵が何を考えているやら。

婚約者のアルドリアン・ドナ・テイラー。茶髪に琥珀色の瞳を持つ中肉中背の男。貴族の傍ら聖職者としての肩書も持ち聖職者特有の一部の髪だけを長く伸ばし編み込んでいる。貴族の礼服でなく神官服を普段から着こなす。テイラー伯爵家の跡取りだ。
いつも聖書を片手に説教ばかりしてくるじじむさ……堅物だな。
だが、血生臭くはない朴念仁だとは思っていたのだが、いやはや面白い事をしてくれる。

誰かの入れ知恵か。

中々に愉しい者がいる様だな。

「何を笑っておいでで」
「いや、退屈な日常を彩る極彩色になるかと思ってな」
「はっ。それは期待しすぎでは?」
馬鹿にした様に鼻白むバロット。無礼ではあるがこいつのは今に始まった事ではない。元々は戦争の最前線にいた金で動く戦争屋。歴戦の強者。傭兵だったのだが、なぜか父上と意気投合し我が家に仕官した、変わり種だ。

「まさか北のツベルクの国境沿いだとはな」
夷狄。異教徒のツベルク。かなり昔から戦争を仕掛けたり仕掛けられたりしている国だ。休戦協定も守らない、捕虜を安全に引き渡す事も拒み惨殺する野蛮な地だ。

北の地ということもあり、万年食料不足。上だけが富み、民は貧困に喘ぐ。戦争は民の国への反旗を躱す為にする。略奪を主とした蹂躙行動が奴等の手だ。欲しければ奪えと幼心から植え付けられるそうだ。理解出来ない国だな。

「手が込んでいたでしょう?よく国境沿いに瀟洒な邸を建てたものですよ」
「きな臭いな」

馬を走らせながら鏡面の間を思い出す。新品のリネンに整えられ清掃も行き届き、鏡は曇り一つなかった。調度品も一流どころを誂えており上級貴族の室として遜色なかった。だが、奥深くに染み付いた血の臭いや怨嗟が隠せていなかった。恐らく、度々あの場は今日の様な事が行われていたのだろう。
貴族が相手で召された側が平民なら結果は推して知るべしだな。

私も図らずも狂人と契りを交わしたか。

もう一人の私の叫びたるやすごかったな。よくもあれだけ恥も外聞もなく悲嘆に暮れられるものだ。さぞ狂人の嗜虐心を煽ったのだろう。私ではこうもいくまい。
狂人との契りの痛みは通過儀礼だ。政略ではあるが、致し方あるまい。
あの子は、ああも夢見がちで、これからどう生きていくのだ。今はーー眠っているか。安らかな寝息が私の中から聞こえてくる。
時折、傷付いた心を持て余し涙する脆弱さに溜息が出る。これ位で傷付くなど。

あの子の存在には時折、気付いていた。思考のだだ漏れがとにかく、すごい。腹芸と対極に位置するのは希少な存在だ。それがもう一人の私とは、神が居るなら中々気の利いた事をしてくれる。

アルドリアンを見てときめくなどあり得ん。あんな軟弱でひ弱な伯爵家の傀儡などに。

司祭としての祭祀の衣装は意匠も名状し難くあれも相乗効果で多少美化もするか?
少し話せば中身がない事も知れるだろうに。前世、日本人だったという私は馬鹿なのだな。

だが、今はいい。しばし私の中で眠れば良かろう。
時が経てばーーしてもらう事もあるからな。

春先だというのに、呼気は白く暮れるのも早い。
「お嬢様、此度はフェルーダ辺境伯の領地に隣接した地で起こった事。報告されますか?」
「伝令を飛ばせ。今は最速で帰途に着くぞ」
「はっ」

アンヌは後方の騎士に預けた。
私やバロットは最前を行き、現れた敵は薙ぎ倒すだけだ。愛刀の白刃を煌めかせ我らは夜道を急いだ。


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