誰もシナリオを知らない、乙女ゲームの世界

Greis

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第325話

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 銀に輝く竜の頭部は、ガパリと大きく口を開けて、蜷局とぐろになって真っ直ぐに迫ってくる。その開かれた大きな口の中には、存在感を放つ鋭利な牙たちが並んでいる。触れるだけでも傷つきそうであり、防御してもそれを突破してきそうな貫通力をもっていそうだ。もし貫かれでもしたら、そこには大きく綺麗な穴が開いている事だろう。

「さあ、――――死になさい!!」
「ウォルター。あの紛い物を切れ」
「了解」

 魔力をさらに高めて、両手に持つそれぞれのロングソードに込める。込められた魔力により、ロングソードの刃の切れ味が一段階上昇する。そして、迫りくるミスリルの竜の頭部に向けて、両手に持つロングソードを目にも止まらぬ速さで振るう。

「――――!!」

 ミスリルの竜の頭部は、俺に向かってその大きく開いた口を勢いよく閉じようとする。だがそれは、俺の振るう二振りのロングソードの速度に比べたら、圧倒的なまでに遅すぎる。その大きく開いた口が閉じる前に、目にも止まらぬ速さで振るったロングソードによる連撃が、ミスリルの竜の頭部を幾つもの塊へと綺麗に切り裂いた。

「な!?……ならば、数で叩く!!」

 ミスリルゴーレムと融合した男は、一頭で足りないならばと、ミスリルの竜の頭部の数を一気に増やした。その姿は多頭の蛇の魔物であるヒュドラの様であり、この地下空間をミスリルの竜の頭部たちで埋め尽くすかの様に、目の前にはミスリルの竜の頭部しか見えない。

「これならば、一頭を切り裂いている間に他の一頭が貴方たちを喰らう。貴方たちに逃げ場はない!!」

 声高々に勝利宣言に従い、多頭のミスリルの竜の頭部が全頭部一斉に動き、俺たちに向かって襲い掛かってくる。

「ウォルター、ここは――――」
「――――私らがやろうかね」
「了解。任せました」

 ジャック爺とローザさんが、魔力を高めながら俺たちの前に並んで立つ。そしてジャック爺とローザさんは、高めた魔力を敷き詰められた石畳と、俺が切り裂いた塊状となったミスリルの竜の頭部へ込められていく。
 込められた魔力は、ジャック爺とローザさんの二人の魔力。通常他者の異なる魔力同士は、余程相性が良くなければ反発するもの。それが一切反発する事なく混ざり合って一つの魔力となり、塊状に切り裂かれたミスリルの竜の頭部の一つ一つに、抵抗される事もなく染み渡っていく。

「魔人となった私の魔力を上書きした!?」
「この程度の魔力ならば、何度でも上書きする事は可能じゃな」
「ミスリルゴーレムならば、若い頃からこれでもかと相手をしてきておるからな」
「懐かしいの~」
「死にかけの老いぼれ共が!!」

 空間を埋め尽くすかの様な多頭のミスリルの竜の頭部たちは、ミスリルゴーレムと融合した男の意思に従い、ジャック爺とローザさんの二人に向かって集中する。そして、ミスリルの竜の頭部たちの全てが大きな口をガパリと開けて、さらに加速してジャック爺とローザさんに襲い掛かろうとする。
 襲い掛かってくるミスリルの竜の頭部たちに対して、ジャック爺もローザさんも動じることなく、静かにその場に立っている。俺たちはジャック爺とローザさんの実力を知っており、二人が動じることなく立っているのなら、特に問題がないという事だと考え動く事はない。

「さて、勇敢なる騎士人形たちよ」
「私らを守っておくれ」

 ジャック爺とローザさんがそう言うと、俺が塊状に切り裂いたミスリルの竜の頭部が、グニャリと形を変えて新たな姿となる。その姿は、ジャック爺の言う様に正しく騎士の姿をしている。正し、その騎士たちは全て人形サイズの騎士であり、どう考えてもミスリルの竜の頭部たちと戦えるとは思えない。

「いくら総ミスリル製とはいえ、その程度の人形たちに状況を覆す力はない。老いぼれ共の魔法は、私の魔法の足元にも及ばない」
「「さあ、いけ。我らの騎士たちよ」」

 ミスリルの騎士人形たちは、ジャック爺とローザさんの号令に従い、機敏な動きでミスリルの竜の頭部に向かってぴょんと跳ぶ。跳び上がった騎士人形たちは、ミスリルの竜の頭部がガパリと開いた口の中に飛び込んでいく。

「ははは、本当に老いぼれだった様だな」

 ミスリルゴーレムと融合した男は、ジャック爺とローザさんをわらいながら見下す。そんな男に対して、ジャック爺とローザさんがニヤリと笑い返す。

「な、なにがおかしい!?」
「お主は自分の魔法がどうなっているのか……」
「……一切感じる取る事が出来ぬ愚か者じゃな」
「何だと!!私の魔法は私が完璧に制御している!!」
「「さて、それはどうかの?」」

 ジャック爺とローザさんが同時にそう言った瞬間、ミスリルの竜の頭部たちの動きが一斉にピタリと止まった。
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