誰もシナリオを知らない、乙女ゲームの世界

Greis

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第326話

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「何だ!?何が起こってる!?どうして動かない!?」

 一斉にピタリと止まったミスリルの竜の頭部たちを見て、混乱極まった様子で魔人の男は叫ぶ。魔人の男はミスリルの竜の頭部たちに向けて、何度も魔力を込めなおそうとするが、自身の魔力を込めることが出来ずにさらに混乱が深まる。

「何故だ!?私の魔法だぞ!?何故制御を受け付けないのだ!!」
「何を言うておる。最早この魔法は儂らの魔法じゃ」
「あんたの魔力も、命令も、もう受け入れる事はないよ」

 ミスリルゴーレムと融合した男の叫びに、ジャック爺とローザさんが低く重く告げる。告げられた言葉を直ぐに理解は出来ず、ミスリルゴーレムと融合した男は暫くの間呆然としていた。
 あのミスリルで形作った騎士人形たちは、ジャック爺とローザさんの二人で作り上げた、ミスリルの竜の頭部たちを逆算する為の魔法だったのだろう。ミスリルの騎士人形たちが、ミスリルの竜の頭部たちの口の中に飛び込み喰われた瞬間、ミスリルの竜の頭部たちに溶け合って同化する事で、男の魔法を逆算して一瞬で制御を奪った。  
 これが賢者と呼ばれた魔法使いと、代々の魔女たちの全てを受け継いできた稀代の魔女が、力を合わせて生み出した超一流の魔法という事か。

「フザケルナ!!」
「ふざけておらんわ」
「寧ろ、逆算対策しておらんお前に、私らの方がふざけておるのかと言いたいわ」
「…………シネ!!」

 理性の限界を迎えた男は、粗暴な男と同じ様に魔物の部分が色濃く出て来たのか、言葉遣いや態度がガラリと変化する。
 ミスリルゴーレムと融合した男は、両脚から周囲に魔力を染み渡らせる様に広げ、今度は石畳だけでなく岩肌の壁からもミスリルを抽出していく。そして、抽出されたミスリルは大きく三つの塊となって集まる。三つの内二つの塊は、グニャリと形を変えていき、最後の一つは塊のまま魔人の男へと向かっていく。

「ゴーレム系統の魔物が得意とする、自己強化と自己改造の魔法じゃの」
「後の二つの塊は、武器もしくは防具といった所かの」

 魔人の男へと向かっていった塊は、大きく広がって魔人の男の全身を包み込む。塊と魔人の男の全身が混じり合い、グニャリグニャリと激しく変化していく。そして、変化し終わったミスリルゴーレムと融合した男の姿は、一般的なゴーレム系統の魔物の姿から大きく変わっていた。
 大石が繋がり合っていたという姿から、流動的なデザインをしたロボットといった、人間と同じ姿をしたものへと変化している。そして、その人間と同じ姿となった身体の上に、人間の騎士の様に全身鎧を着込んでいる。しかもその全身鎧のデザインは、一般的な騎士の様な武骨でシンプルなデザインではなく、暗黒騎士といった言葉を思い起こさせる様な禍々まがまがしいデザインであった。

「ジャック、昔あんな痛々しい鎧を着込んでおった奴がおったの」
「ああ、おったの~。無駄に威勢だけよくて、実力が見た目に伴っておらん愚かな男が」

 ミスリルゴーレムと融合した男の全身鎧を見て、ジャック爺とローザさんが昔の事を懐かしがっている。昔の時代にも、あんな痛々しい全身鎧を付けている人がいたんだな。
 そんな事を思っていると、残り二つのミスリルの塊が変化し終わり、ミスリルゴーレムと融合した男の両手に収まる。右手に収まったのは、銀に輝く禍々しいデザインの巨大なロングソード。そして左手に収まったのは、銀に輝く禍々しい模様が描かれた巨大なカイトシールド。その二つを両手に持ち、禍々しい痛々しいデザインの全身鎧を着込むという事から、完全に騎士のイメージから作り出しているのだろう。

「向こうが騎士ならば――――」
「――――こちらも騎士でいこうかの」

 ジャック爺とローザさんがそう言って、互いに手に持つ杖を軽く上に上げて、先端に魔力を込めて同時に石畳を叩いて魔法を発動する。
 魔法が発動されると、制御を奪ったミスリルの竜の頭部たちがグニャリと崩れて、三ヶ所に分かれて集まり球体となっていく。そして、一番大きな球体となったミスリルが再びグニャリとなって変化していき、マネキン人形の様な完全なる人型となる。そのままマネキン人形に厚みが加わり、武骨でシンプルなデザインの全身鎧が作り出される。その姿は、絵本などに描かれている勇者の姿そのものだ。
 残りの二つの球体も、同じくグニャリと変化する。片方の球体は、武骨でシンプルなロングソードに。もう片方の球体は、同じくシンプルなカイトシールドに。それぞれに変化した二つを、全身鎧の騎士がそれぞれの手に取り、暗黒騎士に対して静かに構えを取る。
 暗黒騎士となった魔人の男も構えを取り、勇者をもした騎士に意識を集中させる。この場に沈黙の時間が流れる。そして、暗黒騎士となった魔人の男と、ジャック爺とローザさんの集中力が極限まで高まった時、その沈黙が破られ状況が一気に動き出す。

「オォオオオオ――!!」
「「蹂躙せよ!!」」
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