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第348話

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 真紅に燃え上がっていたヤマタノオロチが、カトリーナの雷属性の魔力、ローザさんの水属性の魔力を込められ、その姿を急速に変化させていく。
 八本の蛇の鼻先から、真紅の炎が空色の綺麗な水に変わり、バチバチと高電圧の雷を纏う。
 マジックを見ているかのように、真紅に燃え上がっていたヤマタノオロチが、空色の雷を纏うヤマタノオロチに変化した。
 だが、まだ変化は終わらない。
 八本に分かれていた尻尾と頭部が、真ん中の一本へとグルグルと巻き付いていく。
 そして、巻き付いた尻尾と頭部は真ん中の一本へと吸収されるように一体化し、残った真ん中の一本が太く大きくなっていく。
 それに合わせるように胴体も太く大きくなっていき、真紅のヤマタノオロチだったものは、巨大で細長い雷を纏う空色の蛇となった。

「仕上げじゃ。地を這う蛇は力を手にし、空高くを自由に泳ぐドラゴンとなる」

 空色の蛇の頭部から二本のドラゴンの角、口元からヒラヒラと揺れる細長い二本の髭、胸と腰の部分と思われる場所からドラゴンの足がそれぞれ一対ずつ生えてくる。
 さらに、蛇の鱗がよりハッキリと濃く浮かび上がり、ドラゴンの美しい鱗へと変化した。

「あれは……極東の島国を守護するというドラゴンか」

 ジャック爺がドラゴンを見てそう言うが、あれは間違いなく――――

(……龍だよな、あれ)

 ラノベや漫画の世界にも登場する、西洋の竜と対をなす存在であり、圧倒的な力を持つ東洋の龍という幻想の生き物。
 魔法で模した姿とはいえ、その龍が俺たちの目の前にいる。
 雷を纏う空色の龍は、スーッと空へと飛び上がり、フワフワと空間を泳いでいる。
 本物ではないと分かっているのにも関わらず、肌をピリピリとさせる威圧感や、目を話す事が出来ない圧倒的な存在感は、本物だと言われても納得する程のものだ。

「蛇が空を飛んだところで、蛇であることに変わりないのよ!!」

 セイレーンと融合した女性はそう言って、雷を纏う空色の龍を漆黒のシャチたちに襲わせる。
 迫りくる何匹もの漆黒のシャチたちを、雷を纏う空色の龍は静かに見つめる。
 そして、雷を纏う空色の龍がその力を示す。
 右前足に高電圧の雷を生み出して、その雷を槍状に変化させて、漆黒のシャチたちに向けて雷の槍を放つ。
 雷の槍は一瞬の閃光となって地下空間を駆け抜け、何匹もの漆黒のシャチたちを刺し貫いて消滅させていき、漆黒で埋め尽くされようとしていた空間が綺麗なものになる。

「そこよ!!」

 セイレーンと融合した女性は雷の槍を放ち終わった瞬間を狙い、巨大な漆黒の三又槍を生み出して、雷を纏った空色の龍に向かって目にも止まらぬ速さで投擲する。
 放たれた漆黒の三又槍は、音速で雷を纏った空色の龍に迫っていく。
 だが、雷を纏った空色の龍は確実に漆黒の三又槍の動きを見切っており、最小限の動きだけでするりと避ける。

「そいつは避けれても、貴方たちはどうかしらね?」

 雷を纏った空色の龍に避けられた漆黒の三又槍は、そのまま俺たちの方に向かって距離を詰めてくる。
 セイレーンと融合した女性は、最初から避けられる事も織り込み済みで、俺たちも狙った上で漆黒の三又槍を放ったという事か。
 俺はロングソードの剣身に攻勢の魔力を纏わせ、一気に加速して皆の前に移動する。
 そして、ロングソードを上段に振り上げ、漆黒の三又槍に向かって目にも止まらぬ速さで振り下ろす。

「――――!!」
「――なっ!!」

 漆黒の三又槍はロングソードの振り下ろしによる一撃によって、真ん中の穂の先から石突に向けて綺麗に切り裂かれ、左右に二分割されて穂先から消え去っていく。
 そして、これだけでは終わらない。
 俺はただ振り下ろしたのではなく、攻勢の魔力を圧縮した斬撃を、セイレーンと融合した女性に放っていたのだ。
 目にも止まらぬ速さで迫る攻勢の魔力の斬撃に、セイレーンと融合した女性は反応が遅れ、避ける事は出来ずに右腕を肩から切り落とされた。
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